キーワード:
ロードノイズ/空力騒音/制振/遮音/吸音/防音/Biot理論/音質評価/車室内騒音分析/不織布/ナノ繊維/多孔質材料/積層型防音材料/制振塗料/エラストマー/軽量化/音響解析/サウンドデザイン/トポロジー最適化/音響管/性能評価試験法
刊行にあたって
技術的に成熟したと言われていた自動車業界において、ハイブリッド車や電気自動車など動力源の電動化という自動車の根幹を変えるような事態が近年、世界的に進行している。また、消費者の求める品質のレベルが年々上がっており、自動車においても安全性、耐久性、静粛性などの品質を常に改善していく必要がある。本書籍では、こうした自動車を取り巻く環境が著しく変動している近年において、静粛性の確保に不可欠な制振材、遮音材、吸音材に関する最新の動向をまとめる。
ハイブリッド車や電気自動車においては、従来の内燃機関の寄与は小さく、もしくはゼロになり、自動車の振動騒音レベルは全体的に小さくなると期待される。しかし、内燃機関に起因する騒音によるマスキングがなくなったことで、ロードノイズや風切り音など他の騒音が目立つようになっている。それらをこれまで以上に低減したりコントロールしたりする必要が生じ、より高度な振動騒音低減技術が要求されるようになっている。
また、ITに関連する電子機器やハーネスなどの重量は年々増加しており、それを補償するため、車体構造や防音材については一層の軽量化が求められている。同時に性能面でもより高いものが求められている。自動車全体に対する質量比率は大きくない吸遮音材においても、軽量かつ高性能な製品を設計できる技術、すなわちトレードオフの問題に対して適切な解を求める技術が求められている。
さらに、車外騒音の規制値が今後、段階的に引き上げられることがすでに決定されている。エンジンやタイヤから発せられる放射音の抑制や、エンジンルーム内の吸音・遮音性能の向上をこれまで以上に検討しなければならなくなっている。すでに一部の自動車では、エンジンを防音材によりカプセル化し、エンジン放射音を低減するとともに、断熱性を向上させて夜間のエンジンオイル温度低下を抑制し、始動直後の燃費向上もあわせて実現している。また、エンジンルームやフロアパネルの下部にアンダーカバーを設置し、さらにそれらに吸音性能や遮音性能を付加し、車外騒音を低減しようとしている。このようにこれまで設置していなかった箇所に対して、新たに遮音材や吸音材を設置することが検討されている。従来の設計概念にとらわれないアプローチもあわせて求められている。
上述した様々な自動車の振動・騒音を低減する代表的な手法として、振動遮断、動吸振器やレゾネータ、制振、遮音や吸音、消音などが挙げられる。それぞれの手法において技術的な進展が見られるが、近年、発展の最も顕著なものが吸音材に関する技術であると思われる。多孔質吸音材の動的モデルとしてBiot モデルが対応するソフトウエアの広がりとともに多用されるようになっていることがその一つと考えられる。車体構造の加速度や音場の音圧応答などを計算する場合と比して、数倍の計算時間と計算資源が必要になるが、ハードウエアの高性能化あるいは低コスト化とも相まって現実的なモデル規模および計算時間で解析できるようになりつつある。また、Biot モデルを用いて計算するときに必要となる物性値(Biot パラメータと呼ばれる)を同定する装置一式をいくつかのエンジニアリング企業が提供できるようになっていることも要因の一つであると思われる。
本書籍は以下のように構成されている。< 1 >ではロードノイズや風切り音など自動車室内における騒音現象とその主な対策方法について概説いただいている。< 2 >では自動車室内の騒音抑制・静粛性の確保のために用いられている制振・遮音・吸音材料について、最新動向や開発動向、またCAEによる予測手法を取り扱っている。また、< 3 >では、自動車室内の騒音の音質を評価する手法や、防音材の適正化により制御する方法についてまとめている。最後に< 4 >では、遮音・吸音材料の実験的あるいは解析的な評価手法と自動車への応用事例について述べている。
本書は2018年に『自動車用制振・遮音・吸音材料の最新動向』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
山本崇史 工学院大学 吉田準史 大阪工業大学 飯田明由 豊橋技術科学大学 井上尚久 東京大学 新井田康朗 クラレクラフレックス㈱ 加藤大輔 豊和繊維工業㈱ 森 正 ニチアス㈱ 次橋一樹 ㈱神戸製鋼所 板野直文 日本特殊塗料㈱ 竹内文人 三井化学㈱ 丸山新一 京都大学 | 山内勝也 九州大学 西村正治 鳥取大学;Nラボ 竹澤晃弘 広島大学 黒沢良夫 帝京大学 山口誉夫 群馬大学 見坐地一人 日本大学 山口道征 エム・ワイ・アクーステク 木村正輝 ブリュエル・ケアー・ジャパン 廣澤邦一 OPTIS Japan㈱ 木野直樹 静岡県工業技術研究所 |
執筆者の所属表記は、2018年当時のものを使用しております。
目次 + クリックで目次を表示
1 TPAによる車室内騒音分析
1.1 自動車騒音の音源と対策
1.2 車室内騒音の寄与分離手法について
1.3 実稼働TPA法
1.4 固体伝搬音と空気伝搬音およびその分離
1.5 模型自動車を用いた寄与分離の実施
1.6 まとめ
2 車体周りの流れに起因する車内騒音の予測技術
2.1 緒言
2.2 空力騒音
2.3 車内騒音解析(直接解析)
2.4 波数・周波数解析
2.5 まとめ
第2章 自動車用制振・遮音・吸音材料の開発
1 音響振動連成数値解析による積層型音響材料の部材性能予測
1.1 はじめに
1.2 材料の分類とモデル化
1.2.1 固定材料
1.2.2 空気層
1.2.3 多孔質材料
1.2.4 材料間の連続条件
1.3 吸音率・透過損失予測のための問題設定
1.3.1 伝達マトリクス法との比較
1.3.2 問題設定
1.3.3 解析上の留意点
1.4 音響透過損失の解析例
1.4.1 解析条件
1.4.2 理論解析値の傾向
1.4.3 数値解析値の傾向
2 自動車吸音材の特徴と性能、応用例、今後の展開
2.1 はじめに
2.2 不織布とは
2.3 不織布の吸音特性
2.4 不織布系吸音材の具体例
2.4.1 内装
2.4.2 エンジン周辺
2.4.3 その他
2.5 不織布系自動車吸音材の課題と今後について
3 ノイズキャンセリング機能を有する防音材料の開発
3.1 はじめに
3.2 開発品の概要
3.2.1 開発品の防音構造
3.2.2 開発品の根源となった技術
3.3 実験的検討
3.3.1 平板試料の音響透過損失
3.3.2 フィルムと遮音材の振動速度
3.3.3 車両音響評価
3.4 開発品の消音メカニズム
3.4.1 2×2行列の伝達マトリックス法
3.4.2 開発品の周波数応答関数
3.4.3 フィルムと遮音材の理想的な振動形態
3.5 おわりに
4 自動車用遮音・防音材料の開発
4.1 はじめに
4.2 Biot理論に基づく音響予測
4.3 積層構造の設計 自動車向け超軽量防音カバー「エアトーン®」
4.4 「エアトーン®」の特長
4.5 「エアトーン®」の適用事例
4.6 まとめ
5 微細多孔板を用いた近接遮音技術
5.1 緒言
5.2 多孔板を用いた固体音低減効果の実験的検証
5.3 数値解析による固体音低減特性の検証
5.3.1 多孔板サイズの影響
5.3.2 多孔板仕様の影響
5.3.3 多孔板複層化の効果
5.4 結言
6 自動車用制振塗料の技術動向
6.1 はじめに
6.2 汎用制振塗料について
6.2.1 制振の位置付け
6.2.2 制振機構
6.2.3 汎用制振塗料の設計
6.2.4 汎用制振塗料の制振特性
6.3 自動車用制振塗料について
6.3.1 自動車用制振材の変遷
6.3.2 自動車用制振塗料の詳細
6.3.3 自動車市場における制振材の性能評価方法と音響解析の重要性
6.3.4 塗装工程について
6.4 おわりに
7 振動制御用エラストマー材料の開発動向
7.1 はじめに
7.2 エラストマーの概説
7.2.1 熱硬化性エラストマー
7.2.2 熱可塑性エラストマー
7.3 エラストマーによる振動制御
7.3.1 防振と制振
7.3.2 エラストマーの動的粘弾性挙動
7.4 制振材料の基礎的な考え方
7.4.1 非拘束型と拘束型
7.4.2 2層構造:非拘束型制振材料
7.4.3 3層構造:拘束型制振材料
7.5 熱可塑性ポリオレフィンABSORTOMER®(アブソートマー®)の展開
7.5.1 ABSORTOMER®の特徴
7.5.2 ABSORTOMER®の動的粘弾性特性
7.5.3 ABSORTOMER®とEPDMの複合化
7.5.4 ABSORTOMER®とTPVの複合化
7.6 おわりに
8 均質化法による多孔質吸音材料の微視構造設計
8.1 はじめに
8.2 均質化法による動的特性の予測手法
8.2.1 ミクロスケールの支配方程式
8.2.2 多孔質材に拡張した均質化法
8.3 Biotパラメータの同定
8.3.1 空孔率
8.3.2 密度
8.3.3 流れ抵抗
8.3.4 迷路度と特性長
8.3.5 ヤング率とポアソン比
8.4 Delany-Bazleyモデル
8.5 解析モデル
8.6 解析結果
8.6.1 ユニットセルサイズによる影響
8.6.2 Delany-Bazleyモデルとの比較
8.7 まとめ
第3章 自動車における騒音制御
1 自動車で発生する音の性質と吸遮音材の要求特性
1.1 自動車で発生する音とその性質
1.2 騒音の抑制方法と対策手順
2 自動車におけるサウンドデザインと音質評価技術
2.1 はじめに
2.2 自動車のサウンドデザイン~音の価値の積極的な活用~
2.2.1 サウンドデザインとは何か?
2.2.2 単純な抑制からデザインへ
2.3 音の心理的側面
2.3.1 音の遮蔽(マスキング)
2.3.2 聴覚器の周波数選択性
2.3.3 聴覚フィルタと臨界帯域
2.3.4 音の大きさ(ラウドネス)
2.3.5 音の3属性
2.4 音質評価技術
2.4.1 音色と音質
2.4.2 音質評価のための注意点
2.4.3 測定の尺度水準
2.4.4 主観評価手法
2.5 次世代自動車のサウンドデザイン課題
2.5.1 車両接近通報音のデザイン
2.5.2 走行音の積極的なデザイン
2.5.3 車室内音環境のデザイン
3 薄膜を利用した騒音対策手法
3.1 はじめに
3.2 音響透過壁
3.2.1 音響透過壁の基本コンセプト
3.2.2 ダクトへの音響透過壁の適用
3.2.3 カーエアコンダクトへの応用
3.3 薄膜軽量遮音構造
3.3.1 MSIの基本構造
3.3.2 遮音量計測実験
3.3.3 遮音量のシミュレーション
3.3.4 MSIの遮音メカニズム
4 トポロジー最適化による減衰材料の最適配置
4.1 はじめに
4.2 トポロジー最適化
4.3 固有振動数解析に基づく最適化
4.4 周波数応答解析での最適化
4.5 まとめ
5 極細繊維材の吸音率予測手法の開発
5.1 はじめに
5.2 ナノ繊維単体の計算手法
5.3 ナノ繊維を含む積層吸音材の計算結果
5.4 まとめ
第4章 遮音・吸音材料の評価と自動車への応用
1 モード歪みエネルギー法による制振防音性能の予測
1.1 自動車用制振・防音構造のモード歪みエネルギー法による解析
1.2 自動車用制振構造への応用例
2 ハイブリッド統計的エネルギー解析手法を用いた防音仕様の検討
2.1 はじめに
2.2 統計的エネルギー解析手法(SEA法)
2.2.1 基本的な考え方
2.3 ハイブリッドSEA法
2.3.1 解析SEAモデル作成に必要な情報収集
2.3.2 解析SEAモデル作成
2.3.3 入力サブシステムの定義
2.3.4 伝達経路ネットワーク図作成
2.3.5 構造・音響加振実験
2.3.6 ハイブリッド化
2.4 防音材仕様検討
2.4.1 Design Modification(DM)モデル化手法
3 多孔質材料の吸・遮音メカニズムと評価手法
3.1 はじめに
3.2 多孔質材料のいろいろ、吸音要素
3.3 吸音性を表す量
3.3.1 材料に関わる音波の音圧挙動の定式化
3.4 おわりに
4 11.5 kHzまで測定可能な高周波域吸音率/透過損失測定用音響管の開発
4.1 はじめに
4.2 音響管による吸遮音性能評価方法
4.2.1 吸音率測定方法
4.2.2 垂直入射透過損失測定
4.3 音響管による高周波域測定の対応
4.3.1 上限周波数
4.3.2 下限周波数
4.3.3 平面波伝搬条件を満たす音響管寸法
4.3.4 高周波域まで測定できる音響管
4.3.5 高周波域対応音響管の課題
4.4 測定事例
4.5 まとめ
5 Biotパラメータの実測と予測
5.1 はじめに
5.2 多孔質材料の数理モデル
5.3 パラメータの定義
5.3.1 多孔度
5.3.2 単位厚さ当たりの流れ抵抗
5.3.3 迷路度
5.3.4 粘性特性長
5.3.5 熱的特性長
5.3.6 弾性率
5.3.7 内部損失係数
5.4 パラメータの測定方法
5.4.1 多孔度
5.4.2 単位厚さ当たりの流れ抵抗
5.4.3 迷路度
5.4.4 特性長
5.4.5 弾性率
5.5 パラメータの予測法
5.5.1 JCAモデルにおけるパラメータの数値流体力学的予測
5.5.2 変形による繊維系多孔質材料のパラメータの変化のための予測式
5.6 おわりに
6 Biotモデルにおける非音響パラメータの同定法
6.1 はじめに
6.2 セルウィンドウに細孔の開いた薄膜を有するポリウレタンフォームの垂直入射吸音率の測定
6.3 筆者が行った測定に基づく非音響パラメータの同定法
6.4 海外研究者による非音響パラメータの同定法
6.5 まとめ
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