キーワード:
固定価格買取制度/木質バイオマス発電/バイオガス発電/廃棄物発電/採算性評価/直接燃焼技術/混焼/腐食対策/ガス化技術/メタン発酵技術/排水処理/混合消化/未利用材/下水汚泥/食品廃棄物/家畜排泄物/原料調達/含水率/熱利用/残渣処理
刊行にあたって
平成24年7月1日から施行された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」で、バイオマス発電を含む再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度が始まった。この制度は、再生可能エネルギーを育てることによって、わが国におけるエネルギー自給率のアップ、地球温暖化対策、産業育成を目指すものである。この制度によってバイオマス発電を取り巻く環境は大きく変わり、コストが高くて使えないと放置されていた原料や、小さくて成り立たないといわれてきた規模においても、事業採算性が見込める可能性が出てきた。多くの方がこの制度を活用してバイオマス発電に取り組まれ、バイオマス発電の普及につながることを期待している。
一方で、他の再生可能エネルギーによる発電と比べて、バイオマス発電は複雑でわかりにくい。バイオマスにはいろいろな種類があり、その種類によって変換技術が異なる。廃材も畜産糞尿もバイオマスであるが、混ぜて発電することはできない。変換技術もいろいろとあるようで、何を使うのがよいのか、よくわからない。さらにバイオマス発電では原料を確保し、場合によっては収集・運搬をしなければならない。残渣が発生した場合は、その処理も必要となる。少し考えただけで、太陽光発電や風力発電と比べて、手間がかかりそうである。本書では、これらの疑問に応えるべく、技術をできるだけわかりやすく解説している。どのような原料がどのくらいあるとき、どのような技術が選択肢になるのかがわかり、その比較検討ができれば、あとはプラント・エンジニアリングメーカーの仕事である。
本書は、バイオマス発電をこれから始めようと考えておられる方に役立つ情報を提供することを目的としている。そのためにこれまでバイオマス発電の実務に携わった経験のある方を中心に、執筆をお願いした。第Ⅰ編ではバイオマス発電事業を計画・設計する手順と留意点について実例を交えて紹介する。第Ⅱ編ではバイオマス発電技術として、直接燃焼・蒸気タービン発電、ガス化発電、メタン発酵発電の3つを取り上げ、それぞれ基礎から実用化例まで幅広く解説している。また合わせて実用化においてキーとなる技術を取り上げて、別途解説をお願いした。第Ⅲ編では政策論や地域との共生との観点から、バイオマス発電を巡る課題について詳しく述べられている。なお編集の関係から、説明が重複している箇所がある点についてはご容赦いただきたい。また本書に記載されている内容は、筆者個人の見解に基づくものである。
バイオマス発電は他の再生可能エネルギーによる発電と比べて手間がかかるが、メリットも多い。そのメリットを地域社会で最大限活かせるシステムづくりが求められる。本書が、わが国におけるバイオマス発電の普及・拡大の一助になることを期待している。
(独)産業技術総合研究所
平田悟史
著者一覧
平田悟史 (独)産業技術総合研究所 湯木将生 三菱UFJキャピタル㈱ 佐竹隆史 JFEエンジニアリング㈱ 斉藤 靖 イーレックス㈱ 阪本英之 荏原環境プラント㈱ 石川栄司 荏原環境プラント㈱ 大岩徳雄 中部電力㈱ 川原雄三 第一高周波工業㈱ 渡辺健吾 ㈱サタケ 李玉友 東北大学 | 清水康次 メタウォーター㈱ 林 清史 ヤンマーエネルギーシステム㈱ 澤井正和 ㈱テクノプラン 小田切正司 荏原実業㈱ 田中俊博 荏原実業㈱ 坪田 潤 大阪ガス㈱ 菅野明芳 ㈱森のエネルギー研究所 吉葉正行 首都大学東京大学院 文多美 (独)産業技術総合研究所 |
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第1章 バイオマス発電システムの計画・設計の進め方
1 計画・設計の流れ
2 バイオマス発電の導入目的と意義
3 原料の選定と確保
4 設備の規模と設置場所
5 発電プロセスの選定
6 副生成物の有効利用
7 実現可能性調査
7.1 収入
7.2 支出
7.3 事業採算性
7.4 リスク要因
8 詳細設計と工事
第2章 バイオマス発電における事業化のポイントと落とし穴
1 はじめに
2 事例分析による事業の落とし穴
3 事業計画の立て方と参入ポイント
3.1 設置条件の検討
3.2 バイオマス資源の特徴と資源の確保
3.3 固定価格買取制度の考え方
3.4 受入バイオマスに見合った技術特性の把握
3.5 廃棄物の処理および清掃に関する法律における産業系バイオマスの取り扱い
4 事業採算を検討する上での注意事項
4.1 多面的な事業採算評価の重要性
4.2 シナリオ設定の重要性と事業採算の考え方
5 最後に
【第II編 バイオマス発電技術】
第3章 直接燃焼と関連技術
1 バイオマスの直接燃焼・蒸気タービン発電技術の概要
1.1 概要
1.2 前処理・貯蔵部
1.3 燃焼器
1.4 タービン
2 バイオマスの直接燃焼・蒸気タービン発電の設計と導入事例
2.1 はじめに
2.2 ボイラー燃焼方式
2.3 発電設備の設計
2.3.1 ボイラー
2.3.2 燃料貯蔵設備
2.3.3 燃料搬送設備
2.3.4 蒸気タービンおよび付帯設備
2.3.5 環境規制
2.3.6 電気設備
2.3.7 メンテナンス
2.4 木質系バイオマス燃料発電設備導入例
2.4.1 事例
2.4.2 発電設備フロー
2.4.3 設計時留意点
2.4.4 運転状況
3 新電力の立場から見た導入事例
3.1 はじめに
3.2 新電力を取り巻く事業環境
3.3 新電力とバイオマス発電
3.4 土佐発電所での取り組み事例
3.4.1 土佐発電所の特徴
3.4.2 事業化において重視した点
3.4.3 運転開始後の状況
3.5 今後の課題
3.5.1 運転に関する知見の蓄積
3.5.2 燃料調達
3.5.3 事業リスクへの備え
3.6 最後に
4 内部循環流動床ボイラによるバイオマス発電
4.1 内部循環流動床ボイラ開発およびバイオマスへの適用
4.2 内部循環流動床ボイラ(ICFB:Internally Circulating Fluidized-bed Boiler)
4.2.1 従来型流動層ボイラ
4.2.2 内部循環流動床ボイラ開発の経緯
4.2.3 内部循環流動床ボイラのメカニズム
4.2.4 熱回収室制御における特長
4.2.5 内部循環流動床ボイラの利点
4.2.6 留意点
4.3 実施例
4.3.1 バイオマス・石炭混焼ボイラ
4.3.2 バイオマス専焼ボイラ
4.4 将来の動向
5 スターリングエンジン利用小規模バイオマス発電システム
5.1 はじめに
5.2 スターリングエンジンの概要
5.3 30kW級STE利用バイオマス発電システムの概要
5.3.1 スターリングエンジン性能
5.3.2 STE利用バイオマス発電システム
5.4 基本性能試験
5.5 耐久性評価
5.6 発電システムの最適化
5.7 経済性評価
5.8 おわりに
6 バイオマス発電プラントにおける腐食機構と防止対策の実際
6.1 はじめに
6.2 発電プラントの構成と腐食環境
6.2.1 バイオマスボイラの構成と運転
6.2.2 バイオマスボイラの腐食環境
6.2.3 灰の付着と腐食メカニズム
6.2.4 エロージョン・コロージョン
6.3 腐食防止対策の実際
6.3.1 腐食環境の低減
6.3.2 高温耐食材料と耐食コーティングの利用
6.4 おわりに
第4章 ガス化と関連技術
1 バイオマスのガス化技術について
1.1 はじめに
1.2 ガス化発電プロセスの概要
1.3 ガス化技術の基礎
1.3.1 ガス化の仕組み
1.3.2 加熱方式
1.3.3 ガス化剤
1.3.4 ガス化炉の形式
1.3.5 ガス化炉内の圧力,触媒の有無
1.4 ガス精製技術の基礎
1.4.1 ガス精製技術の必要性
1.4.2 タール濃度の低減
1.4.3 ダストの除去
2 オープントップダウンドラフト方式ガス化発電システム
2.1 はじめに
2.2 バイオマスガス化発電システムの概要
2.2.1 バイオマスガス化発電の特徴
2.2.2 オープントップダウンドラフト方式の特徴
2.3 実証試験
2.3.1 設備概要・構成
2.3.2 試験結果
2.4 納入設備
2.5 おわりに
第5章 メタン発酵と関連技術
1 メタン発酵技術について
1.1 メタン発酵システムの概説
1.1.1 メタン発酵の反応原理
1.1.2 メタン発酵の化学量論
1.1.3 廃棄物系バイオマスからの燃料生産ポテンシャル
1.1.4 メタン発酵の応用実績
1.1.5 バイオガスの精製と利活用方法
1.1.6 消化液(発酵残渣)の有効利用の現状
1.2 メタン発酵技術の分類
1.2.1 排水処理用の嫌気性リアクター
1.2.2 固形物処理用のメタン発酵槽
1.2.3 メタン発酵の基本的な処理フロー:生ごみを例として
1.2.4 湿式発酵,乾式発酵および無希釈発酵
1.3 メタン発酵の環境条件と維持管理
1.3.1 温度
1.3.2 pH
1.3.3 有機酸濃度
1.3.4 アンモニア
1.3.5 アルカリ度
1.3.6 ガス組成と硫化水素
1.3.7 滞留時間
1.3.8 微量金属の必要性
1.4 メタン発酵の新しい応用研究
1.4.1 嫌気性膜分離法を用いた下水処理からのエネルギー回収
1.4.2 生ごみと下水汚泥の混合発酵によるエネルギー回収
1.4.3 コーヒーかすのメタン発酵事例
1.4.4 鶏糞のメタン発酵
1.4.5 農業廃棄物や資源作物のバイオメタンポテンシャル
2 高速メタン発酵発電システム
2.1 はじめに
2.2 高速メタン発酵発電システムの概要
2.3 下水汚泥と生ごみの混合バイオマスでの実証試験
2.3.1 パイロットスケール試験設備
2.3.2 試験条件と試験方法
2.3.3 試験結果
2.3.4 負荷変動試験
2.4 超高効率固液分離技術を用いたエネルギーマネジメントシステムに関する技術実証研究
2.4.1 実証試験設備と試験内容
2.4.2 実証試験結果
2.5 まとめ
3 マイクロコージェネレーションシステム
3.1 はじめに
3.2 バイオガスコージェネレーション
3.2.1 バイオガスCGSの課題
3.2.2 マイクロCGSの実績
3.2.3 バイオガス仕様マイクロCGS
3.2.4 マイクロCGSの特長
3.2.5 ロングメンテナンスインターバル
3.3 小型機の複数台設置による優位性
3.3.1 施設規模に応じた最適設置が可能
3.3.2 高い設備稼働率
3.3.3 実機場の運転データ
3.4 遠隔監視システム
3.4.1 概要
3.4.2 遠隔監視Webサービス
3.5 おわりに
4 メタン発酵発電事業の採算性と最適化および新技術
4.1 はじめに
4.2 消化促進技術
4.2.1 減圧浮上濃縮装置を利用した消化促進技術
4.2.2 減圧浮上濃縮装置を利用した酸発酵促進システムの事例
4.2.3 減圧処理による酸発酵促進効果を利用した消化促進システム
4.2.4 汚泥の水撃可溶化システム
4.3 消化促進技術を利用した発電システムのシミュレーション
4.3.1 一般的な消化ガス発電システムの物熱収支
4.3.2 消化促進システムの物熱収支
4.4 消化促進技術を利用したFIT事業の採算性向上効果
4.4.1 下水処理場における民間企業によるFIT事業の事例と採算性
4.4.2 消化促進技術による採算性向上効果
4.4.3 その他の採算性向上対策
4.5 終わりに
5 微生物を使ったバイオガス脱硫装置
5.1 はじめに
5.2 バイオガスの脱硫技術と特徴
5.2.1 乾式脱硫法
5.2.2 湿式脱硫法
5.2.3 生物脱硫法
5.3 硫酸転換型生物脱硫装置
5.3.1 性能
5.3.2 実バイオガスへの適用性能
5.3.3 生成硫酸の有効利用
5.3.4 運転コスト試算
5.4 まとめ
6 都市ガス会社としてのメタン発酵技術への取り組み
6.1 はじめに
6.2 バイオガスの普及に向けて
6.3 都市ガス代替としてのバイオガス普及の取り組み
6.3.1 こうべバイオガス(神戸市東灘処理場)
6.3.2 バイオガス精製・吸着貯蔵システム
6.3.3 エネルギーサービス
6.4 バイオガス普及のためのメタン発酵技術開発
6.4.1 超高温可溶化技術
6.4.2 小型バイオガス化技術
6.5 メタン発酵技術に関連する新しい動き
6.6 おわりに
【第III編 地域特性・原料供給方法・残渣処理と今後の課題】
第6章 木質バイオマス発電・熱利用事業における原料供給面の課題と展望
1 緒言
2 木質バイオマスの種類について
2.1 木質バイオマスの種類の定義
2.2 各種木質バイオマスの発生形態と発生状況
3 木質バイオマスの取引上の留意事項:水分,材積と重量の換算時の留意事項
3.1 水分の考え方
3.2 材積の考え方
4 木質バイオマスの種類毎の発生状況について
5 各種の課題
6 結び
第7章 高効率廃棄物・バイオマス発電の技術・政策動向と将来展望
1 はじめに:環境-エネルギー問題と再生可能エネルギー
2 再生可能エネルギーの固定価格買取制度における光と影
3 廃棄物・バイオマス発電の温故知新
3.1 廃棄物・バイオマス発電技術の歴史的検証
3.2 政策・施策論の歴史的検証
3.2.1 時空的エアポケットによる科学技術成果の埋没化:埋没電源
3.2.2 政治・行政,産業界などにおける事なかれ主義の横行と稚拙化:立枯れ化と空洞化
4 廃棄物・バイオマス発電の将来展望と課題
4.1 環境-エネルギー問題解決に向けた多様な取組みと事業形態
4.2 防災インフラ拠点としての廃棄物発電施設
5 おわりに
第8章 地域バイオマス利活用のための社会システムの構築
1 木質バイオマス利活用
1.1 バイオマスについて
1.2 木質バイオマス利活用の効果
1.3 木質バイオマスのカスケード利用
1.4 木質バイオマス利活用事業の推進
2 地域の木質バイオマスを用いた発電事業
2.1 木質バイオマス発電事業
2.2 林地残材の利用拡大が地域にもたらす効果
3 地域の木質バイオマスの利活用に向けた地域社会システムの構築
3.1 事業プロセス別取り組み
3.1.1 収集段階
3.1.2 転換段階
3.1.3 利用段階
3.2 ステークホルダー間の協力
4 まとめ
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