キーワード:
抗体薬物複合体/ADC/細胞内侵入抗体/核内移行/一本鎖抗体/リンカー/コンジュゲーション/抗がん剤/イミュノトキシン/RI/腫瘍選択的集積/イメージング/DDS/ゼヴァリン/カドサイラ/アドセトリス/承認審査/物性評価/品質/非臨床試験/臨床試験
刊行にあたって
抗体薬物複合体の開発はMilsteinとKohlerのハイブリドーマ法の開発に端を発し、1970年代から行われており、当初はミサイル治療と呼ばれ、大変期待されたが、マウス抗体であったこと、抗腫瘍剤と抗体を結合するリンカーテクノロジーが未熟であったことなどから、臨床応用されることはなかった。その後、抗体工学の進歩により、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体などの作製技術が確立したことに加え、リンカーテクノロジーの進歩もあり、ADCは血液系腫瘍を対象として臨床開発が進んでいたが、2013年にTDM-1が転移性乳がんにFDAにより承認され、ADCの一般固形がんに対するはじめての本格的参入ということで、大きなインパクトを与えた。実際、2015年のアメリカ腫瘍学会(ASCO)におけるFDAの発表によると、現在のADCの治験は優に50を越える数にのぼっている。最も、そのほとんどが、アメリカ発のADCとなっており、ADCにおいても、日本はアメリカにほぼ完全に負けている。このままでは、さらに医薬品の輸入超過に拍車を掛けることになるであろう。
このような状況下で、色んなパーツの複合体といえるADCの本邦における成功をめざし、アカデミアと産業界から、それぞれの分野の第一線の研究者の方々に執筆していただいた。本書が、ADCに興味をもっていただくための参考書となることを祈念している。
(本書「はじめに」より一部抜粋)
著者一覧
向 洋平 ㈱カン研究所
中川晋作 大阪大学
福田夏希 熊本大学
二階堂里那 熊本大学
小橋川敬博 熊本大学
森岡弘志 熊本大学
眞鍋史乃 理化学研究所
六車共平 東京薬科大学
林 良雄 東京薬科大学
山口美樹 札幌医科大学
原田充訓 ナノキャリア㈱
安永正浩 国立がん研究センター
藤原健太郎 東京大学
古山桂太郎 東京大学
高橋美和子 東京大学
浜窪隆雄 東京大学
百瀬敏光 東京大学
山田健人 埼玉医科大学
平 裕一郎 帝京平成大学
阿部有生 第一三共㈱
我妻利紀 第一三共㈱
小林久隆 米国国立衛生研究所
矢内友子 武田薬品工業㈱
長谷川あゆみ 中外製薬㈱
日野明弘 富士フイルムRIファーマ㈱
松岡達司 第一三共㈱
天野正人 第一三共㈱
荒戸照世 北海道大学
目次 + クリックで目次を表示
第1章 ADC開発のrationaleと現状
1 ADC開発のrationale
2 ADCの現状
2.1 ADC抗がん剤の種類
2.2 リンカー技術
2.3 放射性同位元素ADC
2.4 抗体付加ナノ粒子
【第II編 設計】
第1章 細胞内侵入抗体の迅速単離法
1 はじめに
2 細胞内へ効率的に取り込まれる「細胞内侵入抗体」
2.1 ADCの細胞内取り込み
2.2 ADC開発における細胞内侵入抗体の樹立
3 細胞内侵入抗体の効率的探索法
3.1 ファージ抗体ライブラリ技術による細胞内侵入抗体の探索
3.2 PSIFを利用した細胞内侵入抗体の効率的探索
4 抗体の細胞内取り込みに関する基礎情報
4.1 親和性以外の要因によって細胞内侵入の効率が変化する
4.2 細胞内侵入活性による腫瘍集積性の向上
5 おわりに
第2章 機能性一本鎖抗体
1 一本鎖抗体の創薬への実用化のためには
2 scFv融合タンパク質の調製法:遺伝子工学的連結法と酵素的連結法
2.1 遺伝子工学的連結法
2.1.1 融合パートナー分子の性質
2.1.2 scFv融合タンパク質の調製
2.1.3 scFv融合タンパク質の機能評価
2.2 酵素的連結法
2.2.1 Sortase Aを用いた酵素的連結法
2.2.2 各々の分子の調製
2.2.3 反応条件の最適化
2.2.4 scFv融合タンパク質の精製および機能評価
3 scFv融合タンパク質の将来性
第3章 抗体-抗がん剤複合体におけるリンカーテクノロジー
1 はじめに
2 抗体とリンカー部の結合について
2.1 古典的な結合方法
2.2 スルフヒドリル基との結合の不安定性の解決への試み
2.3 ジスルフィドミミック結合形成による結合
2.4 in vitroタンパク質合成による非天然アミノ酸の導入
2.5 酵素による部位特異的付加法
2.6 Fc部分の糖鎖を介した結合
3 薬物切断方法
3.1 酵素による切断
3.2 光切断型リンカー
4 ADCの代謝速度の調節
5 生物直交性反応の進展
第4章 抗体結合ペプチドを用いた抗体-薬物複合体の創製
1 はじめに
2 従来の抗体修飾技術
2.1 二価性架橋試薬
2.2 化学的手法による抗体の部分構造改変
2.3 遺伝子組換え技術による抗体構造の改変
3 抗体結合ペプチドを利用した抗体修飾技術
3.1 抗体結合ペプチドZ33
3.2 チューブリン重合阻害剤Plinabulinのペイロードとしての利用
3.3 Plinabulin-Z33ペプチド架橋体の合成
3.4 非共有結合型ADC(NC-ADC)の構築
3.5 In vitro殺細胞活性の評価(NC-ADCの可能性)
4 今後の展望
第5章 抗体結合性毒素タンパク質の作製と抗体スクリーニング
1 はじめに
2 変異型アデノウイルスの開発
3 抗体結合性毒素タンパク質のデザイン
4 抗体結合型毒素タンパク質の精製
5 抗体DT3C結合体と抗体MabZAP結合体の細胞傷害活性
6 DT3C、DT5Z、3CPEおよび3C5ZPEの細胞傷害活性
7 Adv-FZ33スクリーニングで樹立した抗体を対象としたADC用抗体スクリーニング
8 DT3Cを用いたADC用抗体スクリーニング
9 おわりに
第6章 Antibody/Drug-Conjugated Micelle
1 はじめに
2 Antibody/Drug-Conjugated Micelle
3 抗EGFR抗体結合エピルビシン内包ミセル
4 ADCMの開発状況
5 おわりに
第7章 ADC設計のための分子イメージングの有用性
1 はじめに
2 EPR効果とactive targeting
3 分子イメージングと抗体デリバリー
4 イムノPET
5 MSイメージング
6 質量顕微鏡とドラッグイメージング
7 ADC評価系としてのドラッグイメージング
8 おわりに
【第III編 開発】
第1章 90Y標識抗ROBO1抗体と放射免疫療法
1 はじめに
2 放射免疫療法の概要
3 RITの臨床応用
4 RIT用薬剤の概要と使用核種の選択
5 90Y標識抗ROBO1抗体による小細胞肺がんモデルマウスの治療
6 RIT開発の最近の動向
7 RITを中心とした将来の治療戦略
8 おわりに
第2章 核内移行するヒト化抗CD26モノクローナル抗体-TFⅡH阻害剤複合体
1 はじめに
2 抗CD26モノクローナル抗体とそのヒト化
3 ヒト化抗CD26モノクローナル抗体YS110の抗腫瘍効果と分子機構
4 YS110へのTFⅡH阻害剤結合による新規ADC(Y-TR1)の開発
5 Y-TR1の抗がん作用
6 考察
第3章 がん間質ターゲティング療法
1 はじめに
2 ミサイル療法のピットフォール
3 がん間質形成と血液凝固との関係
4 抗不溶性フィブリン抗体の樹立
4.1 抗体の樹立
4.2 エピトープ
4.3 免疫染色
5 がん間質ターゲティングCancer Stromal Targeting(CAST)診断・治療
5.1 CAST診断
5.2 CAST治療
6 抗Tissue factor抗体によるダブルターゲティング
7 おわりに
第4章 抗EGFR抗体-緑膿菌外毒素Aサブユニット融合体とビフィズス菌DDSによる抗腫瘍薬の開発
1 はじめに
2 Bifidobacterium longumの腫瘍選択的集積
3 イムノトキシンを発現・分泌する組換えBifidobacterium longumの腫瘍増殖抑制効果
4 今後の展望
第5章 新規トポイソメラーゼI阻害剤を搭載する抗体薬物複合体の開発
1 背景
2 新規ADC技術の概要
3 技術開発の経緯
4 DS-8201aの創製
5 まとめと今後の展望
第6章 光吸収化合物結合抗体によるがん治療(近赤外光線免疫療法:NIR-PIT)
1 はじめに
2 近赤外光線免疫療法の基本理論
3 近赤外光線免疫療法の機序と効果
4 近赤外光線免疫療法の適応と臨床治験
5 おわりに
第7章 再発・難治性ホジキンリンパ腫・未分化大細胞リンパ腫を対象としたADC「アドセトリス」
第8章 乳癌治療の抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体「カドサイラ」
1 トラスツズマブ エムタンシン開発の経緯
2 DM1の開発経緯
3 T-DM1の構造および作用機序
4 薬物動態の特徴
5 薬物動態の人種間比較
6 臨床成績
7 国内第Ⅱ相臨床試験(JO22997試験)(日本人における成績)
8 TDM4370g/EMILIA試験(外国人における成績)
9 曝露量と有効性の関係
10 曝露量と安全性の関係
11 TDM4788g/MARIANNE試験(日本人および外国人における成績)
12 まとめ
第9章 ゼヴァリン®などのRI標識抗体療法剤
1 はじめに
2 ゼヴァリン®の開発
2.1 ゼヴァリン®の開発経緯
2.1.1 標的抗原の選定
2.1.2 放射性核種の選定
2.1.3 製剤的安定性の確保
2.1.4 リツキシマブの前投与
2.2 RI標識抗体療法剤の特徴
3 新しいRI治療薬の開発および今後の展望
3.1 ベータ線核種を用いた薬剤
3.1.1 FF-21101
3.1.2 OTSA101
3.1.3 ATL-101
3.2 アルファ線放出核種の利用
3.2.1 212Pb-TCMC-Trastuzumab
3.2.2 Epratuzumab
3.2.3 Actimab-A
4 おわりに
【第IV編 評価】
第1章 ADCの初期物性評価と開発可能性評価
1 概要
2 初期物性の分析法
3 DS-8201aの初期物性評価と開発可能性評価
4 今後の展望
第2章 ADCの承認審査
1 はじめに
2 品質
3 非臨床試験
3.1 毒性試験
3.2 薬物動態
3.2.1 血中濃度推移
3.2.2 分布
3.2.3 代謝
3.2.4 排泄
4 臨床試験
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