キーワード:
バイオアベイラビリティ/フェムト秒レーザー/多成分結晶/粉末結晶法/Rietveld法/溶解改善/速度論的溶解度/pKa(酸解離定数)/DDS/Shake-flask法/結晶多形転移/微粒子コーティング/非晶質固体分散体/二体分布関数/プラズモン共鳴/ラマン分光法/タンパク質凝集
刊行にあたって
昨今の医薬品開発の環境は大きく様変わりしている。従来の医薬品はほとんどが低分子化合物であったが、抗体や核酸といった、従来の手順では開発できないタイプの医薬品が製薬企業にとって無視できない存在となっている。さらに細胞治療や再生医療といった新しい治療法も選択肢として現実的となっており、10年前には製薬業界ではほとんど耳にすることのなかった「モダリティ」という言葉が、様々な治療手段を俯瞰するために頻繁に用いられるようになった。しかしながら製薬業界における低分子創薬の重要性は決して低下したわけではなく、むしろ価格の安さなどの長所も再認識されるようになった。また抗体薬物複合体のような新しいDDS技術によって、低分子化合物には新たな役割も生まれており、今後も一定の需要が見込まれることは想像に難くない。
本書においては医薬品化合物の晶析や物性評価をあらためて見直し、最近の新しい技術に触れながら、間違いのない評価を進めるための参考書となるような監修を企図した。第1編においては、低分子化合物の晶析および構造解析、そして開発形態の決定について、新しい話題も交えて解説を行っている。第2編においては、最新の物性評価技術を紹介しつつ、誤った評価が頻繁になされる溶解度および粒子径測定に着目して解説した。第3編では、結晶形評価に関する最近の話題をまとめている。第4編は非晶質状態に注目し、難水溶性化合物の固体分散体化のための知見を提供している。そして第5編においては、バイオ医薬品の晶析および物性評価に関する知見をまとめている。限られた誌面の中で晶析と物性評価について網羅的に扱うことはできないが、最近10年ぐらいで特に進歩があったトピックを中心にまとめた内容となっている。本書が日本の医薬品開発に対する一助となれば幸いである。
川上亘作
(本書「はじめに」より抜粋)
著者一覧
丸山美帆子 大阪大学
吉村政志 大阪大学
高野和文 京都府立大学
森 勇介 大阪大学;㈱創晶
滝山博志 東京農工大学
植草秀裕 東京工業大学
辛島正俊 武田薬品工業㈱
北西恭子 塩野義製薬㈱
及川倫徳 沢井製薬㈱
中西慶太 アステラス製薬㈱
高橋かより (国研)産業技術総合研究所
米持悦生 星薬科大学
井上元基 明治薬科大学
伊藤雅隆 東邦大学
大塚 誠 武蔵野大学
木嶋秀臣 小野薬品工業㈱
冨中悟史 (国研)物質・材料研究機構
高野隆介 中外製薬㈱
奥津哲夫 群馬大学
津本浩平 東京大学
長門石暁 東京大学
鳥巣哲生 大阪大学
内山 進 大阪大学
目次 + クリックで目次を表示
第1章 医薬品化合物の結晶化技術
1 はじめに
2 準安定形結晶の結晶化戦略
3 結晶化を促進させる技術
3.1 フェムト秒レーザー照射による結晶核発生誘起技術
3.2 超音波印加による結晶核発生誘起技術
3.3 ポリマー界面を用いた結晶化技術
3.4 超音波法とポリマー法の組み合わせによる核発生の効率化
4 結晶の安定性を向上させる技術
4.1 何が結晶の安定性を決めるのか
4.2 高品質結晶成長に適した条件とは
4.3 徐冷法と種結晶法
4.4 溶媒媒介相転移を利用した準安定形の結晶化
5 まとめ
第2章 共結晶の品質制御
1 はじめに
2 共結晶の晶析
2.1 相図と過飽和操作
2.2 共結晶析出と相図
3 Anti-Solvent添加晶析を併用した共結晶生成
4 Anti-Solvent添加晶析での共結晶の品質制御
5 まとめ
第3章 医薬品結晶の粉末結晶構造解析
1 はじめに
2 粉末X線回折データとは
3 粉末未知結晶構造解析の概要
3.1 測定
3.2 指数付け
3.3 反射強度抽出
3.4 初期構造モデルの決定
3.5 構造精密化
3.6 構造の吟味
4 粉末X線回折データから結晶構造が解析された化合物の例
4.1 脱水和転移現象の解明
4.2 脱水和転移と物性
5 理論計算による検証
6 おわりに
第4章 原薬の開発形態検討
1 はじめに
2 原薬形態の種類
3 各種スクリーニングの戦略
4 結晶多形スクリーニング
4.1 スラリー法
4.2 晶析法
4.3 安定形の評価方法
5 塩スクリーニング
6 共結晶スクリーニング
6.1 スラリー法
6.2 混合粉砕法
6.3 熱的手法
7 おわりに
【第2編 物性評価の実際と最前線】
第5章 創薬探索段階における物性パラメータ
1 はじめに
2 開発候補化合物の物性
3 物性パラメータが薬物動態に及ぼす影響
4 物性パラメータの定義,指標,及び評価方法
4.1 溶解度
4.2 Log D
4.3 pKa
5 計算値の利用
6 新薬の研究開発への応用
7 おわりに
第6章 新規溶解特性評価装置を使用した原薬物性評価
1 開発化合物の現状
2 開発過程におけるpKaのインパクト
3 開発過程における溶解度のインパクト
4 塩基性化合物のミクロな環境下におけるpH変動の実際
5 CheqSol法による薬物分類(ChaserおよびNon-Chaser)
6 Precipitation RateおよびRe-Dissolution Rate
7 おわりに
第7章 DDSの適用になくてはならない物性評価
1 はじめに
2 リポソームの適用を踏まえた低分子化合物の物性評価
3 PLGA粒子の適用を踏まえた低分子化合物の物性評価
4 DDS製剤の物性評価
4.1 DDS製剤の物性評価①―粒子径・粒度分布―
4.2 DDS製剤の物性評価②―形態・形状―
4.3 DDS製剤の物性評価③―表面電荷―
4.4 DDS製剤の物性評価④―熱力学特性―
4.5 DDS製剤の物性評価⑤―放出特性・封入率―
4.6 DDS製剤の物性評価⑥―pH,凝集,浸透圧,不純物―
5 最後に
第8章 溶解度測定の実際
1 はじめに
2 原薬の状態
3 平衡溶解度とKinetic solubility
4 平衡溶解度の測定手順
4.1 使用容器への吸着性の確認
4.2 撹拌方法
4.3 固体量と平衡化時間
4.4 固液分離
4.5 希釈
4.6 平衡化後の結晶形・pH確認
5 評価溶媒
6 平衡溶解度測定のオートメーション化
7 おわりに
第9章 粒子径測定の実際
1 はじめに
2 粒子径計測法
2.1 静的光散乱法
2.2 動的光散乱法
2.3 パルス磁場勾配核磁気共鳴法
3 粒子の物性評価の実際
3.1 回転半径等の特性値と粒子径の関係
3.2 回転半径等の特性値と粒子径の関係
3.3 粒子間長距離相互作用の評価
4 まとめ
【第3編 結晶の評価】
第10章 インシリコ技術による結晶多形および物性予測
1 はじめに
2 結晶物性評価に関わるインシリコ予測
2.1 結晶多形のインシリコ予測
2.2 粉末X線構造解析法による結晶構造の決定
2.3 医薬品開発における未知結晶多形の出現リスク評価
2.4 結晶形態のインシリコ予測
2.5 溶出挙動に及ぼす結晶形態の影響
3 おわりに
第11章 低波数ラマン分光法による結晶形評価
1 はじめに
2 低波数ラマン分光
3 低波数ラマンスペクトルを用いた結晶形評価
4 ケモメトリクス解析の活用によるラマンスペクトルの解釈
5 プローブによる晶析工程モニタリング
6 おわりに
第12章 吸湿性医薬品原薬の結晶化と製剤化の実際
1 はじめに
2 吸湿性医薬品原薬の物性改善
2.1 吸湿性医薬品原薬の多成分結晶化
2.2 水分子の吸着シミュレーション
2.2 水分子の吸着シミュレーション
3 吸湿性医薬品原薬の製剤設計の実際
第13章 製剤化工程における多形転移とその評価―Pharmaceutical Process Monitoringの背景と現状―
1 粉砕処理工程の医薬品結晶多形転移現象が製剤の生物学的利用能に与える影響
2 粉砕処理工程が化合物の異性化に与える影響
3 粉砕工程中の環境温度が結晶多形転移に与える影響
4 粉砕湿度が結晶多形転移に与える影響
5 医薬品造粒工程に発生する結晶多形転移が製剤特性に与える影響
6 医薬品製造中の結晶多形転移とProcess Analytical Technologyによる新規医薬品製造工程管理との関わり
7 結晶多形を含有する打錠用顆粒造粒製造過程における水和物転移のNIRモニタリング
8 顆粒造粒製造過程における共結晶生成のラマンモニタリング
9 結論
【第4編 非晶質の制御と評価】
第14章 医薬品原薬の結晶化傾向
1 はじめに
2 結晶化傾向の評価法
3 結晶化傾向のクラス分けと等温結晶化の関係
4 熱処理による非晶質状態の安定化
5 結晶化クラスと結晶化挙動の関係
6 おわりに
第15章 結晶化における二次核形成
1 はじめに
2 二次核形成機構の分類
2.1 イニシャル ブリーディング
2.2 コンタクト ニュークリエーション
2.3 フルイドシア
2.4 クロス ニュークリエーション
2.5 その他
3 関連する核形成ならびに多形転移現象
3.1 核形成:接触誘起不均一核形成(Contact-induced heterogeneous nucleation)
3.2 多形転移:エピタキシ媒介転移(epitaxy-mediated transformation)
4 おわりに
第16章 二体分布関数を用いた構造解析:医薬品への応用
1 はじめに
2 二体分布関数を用いた構造解析
3 二体分布関数の原理とデータ変換の概要
4 二体分布関数の測定
5 二体分布関数の導出
6 二体分布関数の解釈と解析
7 二体分布関数の医薬品への応用例「リトナビルの構造解析」
8 おわりに
第17章 非晶質の過飽和能を活かす製剤設計
1 非晶質製剤イントロダクション:過飽和は十分に活かされているのか?
2 日進月歩のASD処方・製剤設計
3 吸収性を反映した溶解性評価とは?
3.1 Biorelevant dissolution model
3.2 LLPSと吸収性
3.3 コロイドやナノアグリゲーションの分析と吸収性
3.4 投与剤としての吸収性評価
4 過飽和を活かした製剤設計とは?
4.1 賦形剤及び崩壊剤によるゲル化抑制
4.2 塩析効果によるゲル化抑制
4.3 Mesoporous silica
5 まとめ
【第5編 バイオ医薬の開発技術】
第18章 プラズモン共鳴を利用したタンパク質結晶化促進プレートの開発
1 タンパク質の結晶化
1.1 タンパク質の結晶化
1.2 タンパク質の光化学反応
1.3 光-分子強結合場を用いた反応場
2 局在プラズモン励起による結晶化実験
3 金蒸着した基盤による反応場の構築と結晶化実験
第19章 抗体医薬の基礎物性評価
1 抗体医薬にもとめられる物性とは
2 熱安定性評価
2.1 示差走査型カロリメーター(DSC)
2.2 示差走査型蛍光法(DSF)
3 相互作用評価
3.1 表面プラズモン共鳴法(SPR)
3.2 等温滴定型熱量計(ITC)
4 コンフォメーショナルな物性評価
4.1 円偏光二色性スペクトル法(CD)
4.2 小角X線散乱法(SAXS)
4.3 ラマン分光法(Raman)
5 まとめ
第20章 タンパク質凝集体の分析
1 はじめに
2 タンパク質凝集体分析における課題
3 タンパク質凝集体の分析手法
3.1 タンパク質凝集体の定量分析
3.2 タンパク質凝集体の定性分析
4 おわりに
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