キーワード:
水センシング / IoT / AI / ケミカルセンサ / フィジカルセンサ / 加速度センサ / ゲリラ豪雨 / 排水 / 水素イオン指数 / 溶存酸素量 / ウェアラブルデバイス / 唾液マーカー / バイオマーカー
刊行にあたって
水、それは空気と共に、地球にとって重要な物質である。この広い宇宙の中で、生命が宿る惑星という意味で必要不可欠な物質と言われており、この水が液体で存在するかどうかが天体の生命の有無を判断する条件、つまり、生命居住可能領域(ハビタブルゾーン)と定義されている。われわれの普段の生活の中でも、朝起きてから就寝するまでに、飲料、食事、運動(汗)、排泄、入浴などすべて水が関与している。水があるのは当たり前の普段の生活であるが、例えば大震災などで、ひとたび水の供給が止まると多大な影響があることも身をもって経験された人も多いと思われる。地球上には多くの水が存在するものの、ひとの生活で容易に使用可能な水の量は有限である。地球上の人口が今後も増加し続ける状況を考えると、食糧同様、この利用可能な水についても、すでに争奪が始まっている。
ひとが水を必要としている主な目的は生命維持である。産業面では動力源、エネルギー源として必要不可欠である。水を科学的に見ると、水素原子と酸素原子が反応してできた分子である。構造も比較的単純で、状態も固体、液体、気体へと容易に変化する。ただ、現在の科学でも説明や解明ができていない水の特性等も数多く存在している。このように、水は不思議な物質の一つでもある。台風や地震など自然災害に水が伴うことによって、人命も巻き込む重大災害に陥ることもある。また、急激に体内の水分量が減ると脱水状態にもなり、生命の危険が生じることもある。このように、我々にとって水は「必要不可欠な物質」であると同時に、事象などによっては「無用の長物」にもなる両局面の性質がある。いずれの面においても、その状態を正しく計測して、判断する必要がある。身近な存在の水について、様々な分野で様々な計測要求があり、センサ開発は今後も重要なことから、主にケミカルセンサを中心として、そのあるべきセンシング技術の方向性と内容を明らかにする必要がある。
本書では、暮らしとひとに関する水センシングの動向を中心に、現状と諸課題、今後の展開も含めて調査と取りまとめを行った。基本的には、ケミカルセンサ分野を中心に調査を行いまとめる形としたが、現状ではフィジカルセンサを中心とした機器やシステムが圧倒的に多い状況である。このような中で、環境・自然分野では汚染物質の早期検知などで、また医療・健康分野では疾病などの早期診断に関して、フィジカルセンサよりもケミカルセンサの方が得意で有利な課題も数多く存在している。昨今のIoTやAIといった新しい技術の流れから、システム、データもキーワードとして総合的な技術開発が重要となっている。各センサの基本原理などについては数多くの類書があることから、本書ではできるだけ重複と偏りがないようなまとめ方と実例などを取り入れ、従来の書籍とは一線を画す形式とした。
(巻頭言」より抜粋)
著者一覧
安藤毅 東京電機大学
原和裕 東京電機大学
海福雄一郎 ㈱ガステック
小島啓輔 清水建設㈱
大薮多可志 NPO法人 日本海国際交流センター
山口富治 東京電機大学
竹井義法 金沢工業大学
平澤一樹 金沢工業大学
長谷川有貴 埼玉大学大学院
南戸秀仁 金沢工業大学
二川雅登 静岡大学
小松満 岡山大学
不破泰 信州大学
藤田夕希 オランダKWR水循環研究所
南保英孝 金沢大学
石垣陽 ヤグチ電子工業㈱/電気通信大学大学院
中島広子 (国研)防災科学技術研究所
島崎敢 名古屋大学
池沢聡 東京農工大学
小野寺武 九州大学
遠藤達郎 大阪府立大学
鶴岡典子 東北大学
平野研 (国研)産業技術総合研究所
外山滋 国立障害者リハビリテーションセンター研究所
目次 + クリックで目次を表示
1.1 はじめに
1.2 ひとと水との関わり
1.3 水センシングの定義と背景
1.4 まとめ
第2章 環境にかかわる水センシング
2.1 はじめに
2.2 気相の水(水蒸気)と様々な形態の水のセンシング
2.2.1 空気中の湿度のセンシング
2.2.2 大気中の水蒸気量のセンシング
1) 湿度のセンシング方式
2) 湿度センサ
3) 湿度センサの使用上の注意
2.2.3 高層大気中の湿度のセンシング
2.2.4 微量水分のセンシング
1) 微量水分とは
2) CRDS微量水分計による大気中の微量水分の計測
3) ボールSAWセンサによる微量水分の計測
2.2.5 農林水産物の水分含有量のセンシング
2.2.6 その他の水分量のセンシング
2.3 悪臭,腐食性物質のセンシングアプリケーション
2.3.1 下水道処理施設の悪臭,腐食問題
2.3.2 硫化水素の発生メカニズムと対策
2.3.3 多機能マンホールを使ったリアルタイム測定
2.3.4 多機能マンホールの構造・機能
2.3.5 多機能型マンホールで使用できる硫化水素計
2.3.6 センサ
2.3.7 マンホールへの機器設置
2.3.8 多機能型マンホールの維持管理性
2.3.9 まとめ
2.4 水処理施設における水センシング
2.4.1 凝集センサによる凝集剤注入量の自動制御
1) 流動電流計を用いた凝集剤注入量の制御
2) 光散乱方式凝集センサを用いた凝集剤注入量の制御
2.4.2 アンモニアセンサによる曝気風量の制御
2.4.3 バイオセンサによる水質監視
1) 魚類をセンサとして用いた水質監視
2) 微生物(硝化細菌・鉄酸化細菌)センサを用いた毒性物質の検出
2.4.4 今後の展望
2.5 河川水監視の現状と,非接触の水センシング
2.5.1 河川水の管理,監視の現状
2.5.2 簡易的な危機管理型水位計
2.5.3 カメラを活用した河川の監視
2.5.4 画像処理による河川水のセンシング
2.5.5 情報端末を活用した洪水,降雨のセンシング
2.5.6 さまざまな水センサを用いない水センシング例
2.5.7 まとめ
2.6 まとめ
<コラム>急速ろ過と緩速ろ過
第3章 自然にかかわる水センシング
3.1 はじめに
3.2 農業における水とセンシング
3.2.1 農業と水のかかわり
3.2.2 農業用水
3.2.3 ハウス栽培における水センシング
3.2.4 植物の生育モニタリングのための水センシング
1) 茎内水分センシング
2) 茎内水分センシングに関する現状技術
3.2.5 課題と展望
3.3 植物の水ストレスセンシング
3.3.1 植物の水ストレスと従来の評価方法
3.3.2 低侵襲,非侵襲な水ストレスセンシング
3.3.3 水ストレスのイメージセンシング
3.3.4 今後の展望
3.4 植物の生命活動を観る中性子ラジオグラフィ
3.4.1 植物と水
3.4.2 中性子ラジオグラフィ
1) 概要
2) 中性子ラジオグラフィの原理
3) 中性子源,コリメータ及び撮像系
4) 中性子ラジオグラフィの特徴
3.4.3 植物の中性子ラジオグラフィ
3.4.4 今後の展望
3.5 防災・農業のための土壌・培地センシング
3.5.1 自然環境のオンサイト計測
3.5.2 マルチモーダルセンサチップ
1) 土壌の観察情報
2) 水分量,EC,pH,温度一体型マルチモーダルセンサ
3) 土壌におけるpHセンサの計測安定度評価
4) 土中水分量センサの高精度化への取り組み
3.5.3 防災・減災分野への活用
3.5.4 農業分野への活用
3.5.5 今後の展望
3.6 土中水のセンシング技術
3.6.1 地盤中の水センシング
3.6.2 土中水の分類とその表示方法
1) 土中水の分類と浸透の形態
2) 地下水位
3) 土の状態表示
4) 土の透水性
3.6.3 観測技術
1) 飽和領域
2) 不飽和領域
3.6.4 斜面防災対策技術
1) 調査
2) 危険度評価
3) 防災対策
3.7 スマートセンシングを支えるセンサネットワーク基盤について
3.7.1 センサネットワーク基盤とは
3.7.2 長野県塩尻市におけるセンサネットワーク基盤の開発と構築・運用
1) 児童見守りシステム
2) 鳥獣害対策システム
3) 土砂災害警報システム
3.7.3 LPWAを用いたセンサネットワーク基盤
3.8 河川水・再生水のセンシング技術
3.8.1 河川の水質モニタリング技術
3.8.2 河川に流出した油の検知技術
3.8.3 河川水の浮遊物質検知技術
3.8.4 河川水・再生水の毒物検知技術
3.9 センシング技術の水道水管理への応用―オランダの事例紹介―
3.9.1 オランダの水道システムについて
3.9.2 オランダ水道セクターにおけるセンシング技術導入の動機と利点
1) 水道ビジネスとセンシング技術
2) 配水管におけるセンシング技術の活用
3.9.3 センサを用いた水道水の微生物的安全性の管理技術
1) 微生物検出センサ活用への期待
2) 微生物自動検出センサの技術
3) 微生物検出センサの社会実装への取り組み
4) 微生物検出センサ運用効果の試算例
3.9.4 早期異常検知システムの最適化にむけた取り組み
1) ケミカルセンサを用いた早期異常検知システム
2) 早期異常検知システムのコストリターン解析
3) 早期異常検知システムの効率化とデータ解析
3.9.5 今後の展望
3.10 まとめ
<コラム>アユは河川の水質センサ
第4章 生活にかかわる水センシング
4.1 はじめに
4.2 融雪装置における水センシング
4.2.1 融雪装置の各機器と散水の流れ
4.2.2 融雪装置の稼働
4.2.3 融雪装置に関わるセンシング
4.3 ゲリラ豪雨の検知と通知技術
4.3.1 ゲリラ豪雨とは
4.3.2 ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲のセンシング
4.3.3 ゲリラ豪雨と情報伝達
4.3.4 気象・防災用語における認識のズレ
4.3.5 今後の展開
4.4 マイクロバブルを用いた水質調査
4.5 まとめ
<コラム>水道事業民営化
第5章 医療・健康にかかわる水センシング
5.1 はじめに
5.2 体液
5.2.1 水分
5.2.2 血液,血清,血漿
5.2.3 尿
5.2.4 皮下組織液
5.2.5 汗
5.2.6 唾液
5.2.7 涙
5.3 血液・血清中のバイオマーカーセンシング
5.3.1 フォトニック結晶を用いたバイオセンシング
5.3.2 局在表面プラズモン共鳴を用いたバイオセンシング
5.4 尿中のバイオマーカーセンシング
5.4.1 表面プラズモン共鳴センサを用いたバイオマーカー検出
5.4.2 金ナノ粒子を用いた尿中バイオマーカー検出
5.5 皮膚組織液のセンシング
5.5.1 グルコース濃度のセンシングの用途
5.5.2 乳酸濃度のセンシングの用途
5.5.3 組織液の採取方法
1) 皮膚透過率を向上させて採取する方法
2) マイクロニードルの利用
3) 逆イオントフォレーシス
4) マイクロダイアリシス・微小還流
5.5.4 酵素電極によるグルコースおよび乳酸センシング
5.6 涙,唾液のセンシング
5.6.1 ペーパー流体デバイスによる涙のセンシング
5.6.2 FETデバイスによる唾液中ストレスマーカーの検出
5.6.3 マイクロ流体デバイスを用いた体液センシング
5.7 水分量のセンシング
5.7.1 皮膚水分量センサ
5.7.2 血漿浸透圧センサ
5.8 まとめ
<コラム>クレオパトラのワインとお肌の水分
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