キーワード:
相溶性/相分離/混和性/モルフォロジー/構造制御/物性制御/溶融混練/リアクティブプロセッシング/相容化剤/重合反応/成形加工/マテリアルリサイクル/ケミカルリサイクル/ポリ乳酸/プラスチック/フィラー/シミュレーション/評価/解析
刊行にあたって
地球環境問題が声高に言われる中、プラスチックのリサイクル技術の開発は重要な課題の一つである。しかしながら、プラスチックと一口に言っても、その種類は多種多様であり、一つの製品や一つの包装容器を取ってもみても、一種類だけのプラスチックからできているというのは稀である。そして、これら多種多様な高分子材料は「混ぜればゴミ、分ければ資源」と言われるように、混合状態で再利用するのは大変難しい。それは、各種高分子材料が互いに“非相溶”という混ざりにくい性質を有するためであるが、これはまた後述するように“高分子”という特徴を有する材料としての宿命でもある。
また、高分子材料として多様な用途展開を図る上で、各種要求特性(熱的、機械的、電気的特性等)を満足する新規な材料を新たに合成するには時間的にも金銭的にも多大な負担が生じる。Utrackiによると、“ある樹脂会社の1986年の試算では、新規の高分子材料開発には、研究開発に1500万ドル、パイロットプラントへの投資はさらに1億5000万ドルが必要であるのに対して、既知ポリマーを利用したポリマーブレンド・ポリマーアロイの開発では200万~300万ドルもあれば十分”とされている。そのため、現在我々の身の回りで多く使われている汎用材料を用いて、それぞれの特徴を活かした複合材料(ポリマーアロイ)が調製できれば安価で安心な材料が、比較的短時間で開発できるというメリットがある。
一方、近年の高分子材料に対する社会の風当たりが強くなっているが、その大きな要因として挙げられるのが“海洋ゴミ”「マリンリッター(Marine Litter)」問題である。ジョージア大学のJ. R. Jambeckらが2015年にScienceに発表した論文によると、192の海洋に面した国々において2010年にプラスチックごみが2億7500万トン発生し、このうち480~1270万トンが海洋に流出したと推定されている。また、同論文では、廃棄物管理インフラの改善が成されない場合、海洋廃棄プラスチックの累積量は、2025年には2010年の10倍スケールに達すると予想されている。その流出した海洋廃棄プラスチックが、太陽光や風浪により劣化・微細化されることにより5mm以下の「マイクロプラスチック」化し、海洋生物に悪影響を与えているとされている(マイクロサイズで製造されたマイクロビーズなどの“一次的マイクロプラスチック”と、自然環境中で破砕・細分化されてマイクロサイズになった“二次的マイクロプラスチック”を分けて考える必要があるが、ここでは両方含めて“マイクロプラスチック”とする)。マイクロプラスチック問題を複雑にしているのは、海洋生物の死骸を解剖した際に、消化器系から大量のプラスチックゴミが出てくるというショッキングな映像以外にも、マイクロプラスチックが海水中のポリ塩化ビフェニル(PCB:発癌性があり生体に対する毒性が高い材料)を吸着しやすい性質を有し、更には石油系プラスチック中に含まれる微量の触媒残渣(重金属)や各種添加剤(酸化防止剤、UV吸収剤等)が食物連鎖過程で生物濃縮されていく危険性が指摘されているためである。そのため、フランスは、「プラスチック製使い捨て容器や食器を禁止する法律」を制定し、2020年の1月以降、あらゆる使い捨てのプラスチック製食器について「コンポストで堆肥化可能な生物由来の素材を50%以上使わなければならない」ことを義務付けた(2025年までに、この割合は60%にまで引き上げられる予定)。
このような背景のもと、もはや“ワンウェイ(使い捨て)”用途に高分子材料を使用することは難しくなる一方で、地球温暖化問題としての二酸化炭素の削減の行動目標も達成しなければならず、また経済活動の活性化・維持も同時に行うというジレンマ・トリレンマを抱えている。そのため、現在の高分子材料の置かれている立場としては、「今まで使い捨てで使用されてきた高分子材料・プラスチック複合材料を如何にマテリアルリサイクルするか?」が喫緊の課題であり、その一つの答えとして“ポリマーアロイ・ポリマーブレンド”が注目され始めているようにも感じている。
そのような状況のもと、今まで数多くのポリマーアロイ・ポリマーブレンドに関する成書も刊行されている中で、“設計技術と実用化事例”に関する書籍の企画構想と監修依頼が(株)シーエムシー出版よりあり、今一度ポリマーアロイ・ポリマーブレンドを見直す実用書を世に問うには時宜を得たものと感じ、小職の非力を顧みずお引き受けした。なお、各章の執筆は第一線で活躍されている研究者・技術者の方々にお引き受け頂くことができましたので、本書が“実用化事例のハンドブック”として幅広く活用されることを切に望むとともに、高分子材料の特徴を活かした豊かな社会実現に向けた一助となることを願うばかりである。
滋賀県立大学
徳満勝久
著者一覧
西谷要介 工学院大学
森冨 悟 住友化学㈱
今井昭夫 テクノリエゾン事務所
浦川 理 大阪大学
斎藤 拓 東京農工大学
山口政之 北陸先端科学技術大学院大学
附木貴行 金沢工業大学
河田順平 豊田中央研究所
駒場京花 筑波大学
後藤博正 筑波大学
北畑雅弘 東レ㈱
山本 海 東レ㈱
森田裕史 (国研)産業技術総合研究所
清水 博 ㈱HSPテクノロジーズ
辰巳昌典 ㈱プラスチック工学研究所
酒井忠基 静岡大学
竹中幹人 京都大学
宮内康次 ㈱UBE科学分析センター
馬殿直樹 ㈱日本サーマル・コンサルティング
中嶋 健 東京工業大学
原 光貴 東京工業大学
武藤史浩 三菱エンジニアリングプラスチックス㈱
小林定之 東レ㈱
若原章博 ビックケミー・ジャパン㈱
目次 + クリックで目次を表示
第1章 ポリマーアロイ・ブレンドのレオロジー挙動および材料設計
1 はじめに
2 ポリマーアロイ・ブレンドのレオロジー的性質
3 ポリマーアロイ・ブレンドの溶融粘弾性
4 ポリマーアロイ・ブレンドの溶融粘弾性の事例
4.1 PA12E/TPUブレンド系
4.2 PA6/PPブレンド系
4.3 多成分系複合材料の溶融粘弾性
5 おわりに
第2章 混練・分散技術によるポリマーアロイの構造・物性制御
1 はじめに
2 相溶系アロイと非相溶系アロイ
2.1 相溶系ポリマーアロイ
2.2 非相溶系ポリマーアロイ
3 ポリマーアロイの設計
3.1 衝撃強度の発現
4 ポリマーアロイの構造制御
4.1 溶融混練技術
4.2 リアクティブプロセッシングによる構造制御
4.3 含官能基ゴムによるポリマーの改質
5 おわりに
【第II編 相溶性と相容性(混和性)のコントロール】
第1章 ポリマーアロイ・ブレンドにおける相容化剤の選定
1 はじめに
2 ポリマーの相溶化と相容化
2.1 相溶と非相溶
2.2 相溶化と相容化
3 相容化剤
3.1 非反応性相容化剤
3.2 反応系相容化剤
4 溶解性パラメーター
4.1 高分子の混合と溶液論
4.2 溶解性パラメーター
4.3 高分子の混合と溶解性パラメーター
5 ナノサイズレベルの分散と第四世代ポリマーアロイ
6 おわりに
第2章 分子間相互作用による相溶性および物性の制御
1 相溶系と非相溶系ポリマーブレンドの物性
2 分子間相互作用による相溶性の制御
2.1 相互作用パラメータ
2.2 相溶ブレンドのガラス転移温度に関する混合側
2.3 相溶ブレンドの動的不均一性
3 非相溶系アロイの物性
3.1 力学モデル(相分離構造と物性の関係)
【第III編 高機能化】
第1章 ポリマーブレンドにおける高分子の高性能化
1 はじめに
2 二相系ブレンドの界面の接着
3 相反転
4 ミクロ相分離構造の制御
5 相溶性ブレンドの光学特性
6 ブリードアウト現象
7 結晶化
第2章 ポリマーブレンドによる熱可塑性樹脂の成形加工改質
1 はじめに
2 相溶系ブレンド
3 反応性改質剤とのブレンド
4 臨界点近傍ゲル
5 柔軟なナノ繊維とのブレンド
6 長鎖分岐高分子との相分離系ブレンド
7 Tgの高いポリマーとのブレンド
第3章 リアクティブプロセッシングによるマテリアル/ケミカルリサイクルの精密制御〜ポリマーアロイからのポリ乳酸の資源循環〜
1 はじめに
2 ポリ乳酸系ポリマーアロイの展開
3 PLLA/ABS複合材料の熱分解シミュレーション解析と選択的資源循環
4 材料
4.1 PLLA/ABSおよびPLLA/ABS/MgOブレンド体の熱分解反応
4.2 PLLA/ABSブレンド体の分解反応の活性化エネルギー
4.3 PLLA/ABSブレンド体からの熱分解生成物
4.4 PLLA/ABSブレンド体の熱分解反応のシミュレーション解析
5 リアクティブプロセッシング(反応押出)による実証試験
5.1 残渣樹脂のMFR
6 おわりに
第4章 バイオマスプラチックにおけるアロイ・複合化による高機能化
1 はじめに
2 PP/PA11バイオ樹脂アロイ
2.1 バイオ樹脂アロイの作製
2.2 相構造制御
2.3 バイオ樹脂アロイのキャラクタリゼーション
2.4 バイオ樹脂アロイのサラミ構造による力学特性向上の要因
2.5 バイオ樹脂アロイの高性能化
2.6 バイオ樹脂アロイの実用化
3 さいごに
第5章 「液晶ブレンド電解重合」によるポリマーブレンドの作成とカイラリオン
1 はじめに
1.1 導電性高分子
1.2 液晶
1.3 液晶中電解重合
1.4 ポリマーブレンド
2 実験
3 結果・考察
3.1 偏光顕微鏡観察
3.2 赤外線吸収スペクトル
3.3 サイクリックボルタンメトリー
3.4 エレクトロクロミズム
4 結論
【第IV編 計算科学・マテリアルズインフォマティクス利用】
第1章 企業における分子シミュレーション活用事例〜アロイ・ブレンドの設計に向けて〜
1 はじめに
2 大規模全原子分子動力学シミュレーション活用事例
2.1 PVDF/NMP溶液と水の混合自由エネルギー
2.2 PVDF/水間の界面自由エネルギー
3 粗視化分子動力学シミュレーション活用事例
3.1 粗視化シミュレーションモデル
3.2 錯体形成挙動の統計的解析
4 まとめ
第2章 アロイ・ブレンド・コンポジットのコンピューターシミュレーションの基礎
1 はじめに
2 粗視化モデル
3 粗視化シミュレーション手法の概要
4 適用可能性としての事例紹介
5 まとめ
【第V編 混練・押出成形技術】
第1章 高せん断成形加工法による新規ナノコンポジット創製
1 はじめに
2 高せん断成形加工法の概要
3 新規なポリマーナノコンポジットの創製
3.1 高分子/高分子系:非相溶性ポリマーブレンドのナノ混合・相溶化
3.1.1 PVDF/PA11ナノブレンドの創製
3.1.2 PC/PMMA透明ナノブレンドの創製
3.2 高分子/フィラー系:CNT等ナノサイズフィラーの高分子へのナノ分散化によるナノコンポジット創製
3.2.1 フィラーのナノ分散化の要因
3.2.2 熱可塑性エラストマー/CNT系ナノコンポジット
3.2.3 ポリマー/層状ケイ酸塩系ナノコンポジット
3.3 高分子/高分子/フィラー系(三元系):階層的構造制御(高分子ブレンドにおける共連続構造形成とフィラー選択的分散の同時制御)によるナノコンポジット創製
3.4 高分子/フィラー/フィラー系(三元系):炭素繊維強化複合材料
3.5 高せん断場と反応場との統合によるエコマテリアルの創製
4 おわりに
第2章 可視化解析システムによる省エネ型押出機
1 はじめに
2 可視化解析システム概要
3 押出機に要求される項目
4 可視化単軸押出装置
5 省エネ押出
6 おわりに
第3章 二軸スクリュ押出し技術を活用したポリマーアロイの形成装置
1 はじめに
2 ポリマーアロイの創製に用いられる二軸スクリュ押出機
3 二軸スクリュ押出機の構成と技術的な進展
3.1 二軸スクリュの溝深さの増大
3.2 スクリュ回転の高速化
3.3 スクリュ長さ〔L/D〕の拡大
3.4 スクリュ駆動トルクの増大
3.5 各種ミキシングエレメントの進展
4 二軸スクリュ押出特性に対する理論解析技術の進展
5 二軸スクリュ押出機を用いたポリマーアロイの形成技術
5.1 二軸スクリュ押出機を用いる利点
5.2 ポリマーアロイの物性に関連する二軸スクリュ押出機の操作因子
5.2.1 各種材料の供給順序の選定
5.2.2 相容化剤の供給順序によるポリマーアロイの物性への影響
5.2.3 反応を伴うポリマーアロイの供給方法による物性への影響
5.3 二軸スクリュ押出機内でのポリマーアロイの生成過程の解析手法
6 二軸スクリュ押出機のスケールアップの考え方
7 まとめ
【第VI編 評価・解析】
第1章 散乱法によるポリマーアロイの構造評価法
1 はじめに
2 散乱の理論
3 光散乱法によるポリマーブレンドのスピノーダル分解過程の解析
3.1 スピノーダル分解初期過程
3.2 スピノーダル分解中期・後期過程
4 パラクリスタル理論によるミクロ相分離構造の解析
第2章 NMR法によるポリマーアロイとしてのグラフトポリマーの構造解析
1 はじめに
2 相溶化剤(Compatibilizer):MA-g-PO
2.1 MA-g-POとは
2.2 グラフトMA構造解析の従来法と新規解析法
3 高感度二次元相関NMR法による末端グラフトモノマー構造の直接解析
3.1 高濃度溶液作成およびNMR実験条件
3.2 各種二次元相関NMR法による構造解析
4 化学反応およびNMR法を組み合わせた超微量グラフトMAの高感度解析
4.1 グラフトMAのメチル化反応
4.2 メチル化グラフトMAの1H NMR分析
5 おわりに
第3章 ナノスケール赤外分光分析の原理,特徴とポリマーアロイ・ブレンドの化学構造解析
1 はじめに
2 AFM-IRの原理と装置概要
3 ポリマーアロイ・ブレンドの分析例
3.1 ポリスチレン(PS)/ポリメチルメタクリレート(PMMA)
3.2 ポリエチルメタクリレート(PEMA)/ポリメチルメタクリレート(PMMA)
3.3 ハイインパクトポリプロピレン(HIPP)
3.4 ポリカプロラクトン(PCL)/ポリエチレングリコール(PEG)
4 まとめ
第4章 ナノ触診AFMによるポリマーアロイの力学物性評価
1 はじめに
2 ポリマーアロイにおける相分離構造制御
3 ナノ触診AFMによる反応誘起型ポリマーアロイの物性解析
3.1 試料と引張物性
3.2 未伸長試料の弾性率マップ
3.3 伸長試料の弾性率マップ
3.4 仲立ち効果
4 まとめ
【第VII編 実用化/用途事例】
第1章 ポリマーアロイの用途事例
1 はじめに
2 高分子材料の非相溶性について
3 PE/PP系ポリマーアロイの物性改質効果について
4 PET/PE系ポリマーアロイの物性改質効果について
5 PLA/PA12系ポリマーアロイの物性改質効果について
6 おわりに
第2章 PBT樹脂に於ける複合化技術及びその実用化事例
1 諸言
2 本論
2.1 エラストマー添加による耐衝撃性付与
2.2 ポリマーアロイによる各種機能性付与
2.2.1 PBT/PCアロイ
2.2.2 PBT/PETアロイ
2.2.3 PBT/スチレン系樹脂アロイ
2.3 ポリマー型臭素系難燃剤による難燃性付与
3 総括
第3章 ポリマーアロイの実例
1 はじめに
2 リアクティブプロセッシングによるナノ構造制御
3 スピノーダル分解によるナノ構造制御
4 “ナノアロイ”の今後の展望
第4章 ポリマーアロイ・ブレンドを容易にし,新たな機能を付加する添加剤技術
1 はじめに
2 界面で働く添加剤概要
3 ポリマーのグラフト化 添加剤の製法と特徴
4 相溶化剤による軟らかいポリマーと固いポリマーのブレンド
5 プラスチックへのガラス繊維の分散
6 プラスチックへの木質繊維の分散
7 層状無機粒子(ナノクレイ)による物性向上と難燃性向上
8 プラスチックへの有機顔料などの分散
9 プラスチックの耐スリキズ性を向上させる添加剤
10 製造プロセスで働く添加剤:臭気ストリッピング
11 おわりに
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