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グラフェンの特異な物理/グラフェンの作製,膜厚の評価,観察/シリコン基板上のグラフェン薄膜成長/グラフェンの化学的作製法と有機半導体素子電極への応用/グラフェンの超高周波光・電子デバイス応用/グラフェンのスピンデバイス/LSI配線技術への応用
刊行にあたって
グラファイトは機械的,熱的,電気的に優れた性質を持つため古来より工業的に重用され,また,その電子状態の解明も古くからなされてきた。2004年,バルクグラファイトを粘着テープで劈開してSiO2基板上へ擦りつけることによって単層のグラファイト(グラフェン)が単離され,それが高い移動度,量子ホール効果などの興味深い物性を発現することが明らかになって燎原の火のように世界中にグラフェン研究が広がり,今日に至っている。一方エッジ局在状態などに起因した異常な電子状態は1990年代から着目されていたが,現在のグラフェン研究の中でその重要性があらためて認識されている。
固体物理における基礎科学的な興味に加えて,その高い移動度は新しい半導体材料としての応用が期待され,さらにグラフェンが示す量子現象を新奇デバイスへ展開する研究も始められ,まさに基礎から応用に至る広範囲な物質科学の領域でグラフェンはホットマテリアルになっている。このような現状に鑑み,現在までの研究成果を理論,物性,デバイス応用の多岐にわたって網羅した本があることは,これからグラフェンの研究に参入する研究者,技術者のみならず,現在グラフェンの研究をおこなっている者にとっても有意義であると考えられる。今回,企画するにあたり,研究の今後の広がりを意識してグラフェンの新しい製法や,酸化グラフェン,カーボンナノウォール,カーボンアロイ触媒も含めることにした。進展の激しいこの分野においては現在研究に参画している者にとっても,周辺領域の情報が役に立つと考えたからである。
執筆者の方々にはお忙しい中を短い執筆期限の中で原稿を仕上げていただき深甚なる感謝を申し上げたい。現在,我が国でグラフェン研究を第一線でおこなっている多くのグループの方々の協力を得て刊行される本書が,上記の目的遂行の一助となれば監修に携わったものとして望外の喜びである。
(「はじめに」より)
2009年7月 斉木幸一朗,徳本洋志
本書は2009年に『グラフェンの機能と応用展望』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
初貝安弘 筑波大学大学院
池田隆司 (独)日本原子力研究開発機構
S.F.Huang 北陸先端科学技術大学院大学
M.Boero 北陸先端科学技術大学院大学
寺倉清之 北陸先端科学技術大学院大学
中村淳 電気通信大学
宮崎久生 (独)物質・材料研究機構
日浦英文 日本電気(株)
塚越一仁 (独)物質・材料研究機構
神田昌申 筑波大学
菅原克明 東北大学
佐藤宇史 東北大学
高橋隆 東北大学
福井賢一 大阪大学
小林陽介 東京工業大学
榎敏明 東京工業大学
八木隆多 広島大学
山内泰 (独)物質・材料研究機構
圓谷志郎 (独)物質・材料研究機構
永瀬雅夫 日本電信電話(株)
末光眞希 東北大学
上野啓司 埼玉大学
徳本洋志 中央大学
清水哲夫 (独)産業技術総合研究所
安藤淳 (独)産業技術総合研究所
堀勝 名古屋大学
平松美根男 名城大学
斉木幸一朗 東京大学
島田敏宏 東京大学
野口卓也 東京大学
半澤明範 東京大学
長谷川哲也 東京大学
尾辻泰一 東北大学
白石誠司 大阪大学大学院
二瓶瑞久 (株)富士通研究所
執筆者の所属表記は、2009年当時のものを使用しております。
目次 + クリックで目次を表示
第1章 グラフェンの特異な物理(青木秀夫)
1. はじめに
2. グラフェンの試料
3. グラフェンの構造とバンド構造―massless Dirac粒子
4. グラフェンのさまざまな異常物性
4.1 電気抵抗―Zitterbewegung
4.2 量子ホール効果
4.2.1 クラインのパラドックス
4.2.2 光学物性
4.2.3 スピン・ホール効果
4.2.4 負の屈折率
4.2.5 多体ギャップを持った状態
4.2.6 超伝導
5. グラフェンの特異なランダウ準位と量子ホール効果
5.1 グラフェンのランダウ準位
5.2 グラフェンの量子ホール効果
5.3 グラフェンの量子ホール効果のトポロジカルな見方
6. グラフェンの端状態―平坦バンド
7. いくつかの話題
7.1 多層グラフェン
7.2 Dirac cone
7.3 N=0ランダウ準位の分裂―多体効果の可能性
8. おわりに
第2章 グラフェンのエッジ状態の起源(初貝安弘)
1. エッジ状態とは
1.1 エネルギーバンドと束縛状態
1.2 エッジ状態とバルク・エッジ対応
2. グラフェンとディラック電子
2.1 ゼロギャップ半導体
2.2 グラフェンとベリー位相
3. グラフェンのエッジ状態バルク・エッジ対応
3.1 ジグザグ境界とアームチェアー境界
3.2 ベリー位相とカイラル対称性,ゼロモードエッジ状態
3.3 磁場下のグラフェンの2種類のエッジ状態
3.4 カイラル対称性の破れと境界磁化
第3章 ドープしたグラフェンの電子状態・触媒活性(池田隆司,S.F.Huang,M.Boero,寺倉清之)
1. はじめに
2. グラフェンの電子状態
2.1 ジグザグエッジ状態
2.2 窒素置換の効果
3. カーボンアロイの触媒活性
3.1 第一原理分子動力学に基づいた化学反応のシミュレーション法
3.2 酸素分子吸着過程
3.2.1 ベーサル面の場合
3.2.2 アームチェアエッジの場合
3.2.3 ジグザグエッジの場合
3.3 酸素分子還元過程
3.3.1 エンドオン構造の場合
3.3.2 サイドオン構造の場合
3.4 触媒サイクル
4. おわりに
第4章 酸化グラフェンとコンポジット材料の電子状態(中村淳)
1. はじめに
2. 酸化プロセスによるグラフェンの精製と酸化グラフェン
3. グラフェンのunzipping
4. ナノスケール折紙(ORIGAMI)
5. グラフェン誘導体の物性制御
【II グラフェンの物性,評価】
第5章 グラフェンの作製,膜厚の評価,観察(宮崎久生,日浦英文,塚越一仁)
1. グラフェンの作製方法と評価法の背景
2. 簡単簡易グラフェン判定法
3. さらに新たなグラフェン観察法
4. おわりに
第6章 グラフェンの超伝導近接効果(神田晶申)
1. はじめに
2. 単層グラフェンにおける相対論的ジョセフソン効果:理論的側面
3. グラフェンでできたジョセフソン接合の伝導特性の実験
3.1 素子構造
3.2 ゼロバイアス抵抗の温度依存
3.3 電流電圧特性
3.4 超伝導臨界電流の温度依存性
4. おわりに
第7章 グラフェンの光電子分光(菅原克明,佐藤宇史,高橋隆)
1. はじめに
2. 光電子分光
3. グラフェンの電子構造
4. グラフェンの角度分解光電子分光
5. エッジ局在状態
6. 今後の展望
第8章 STM/STSによるグラフェン端の電子状態解析(福井賢一,小林陽介,榎敏明)
1. 背景
2. STM/STSの測定原理
3. 解析に適した試料の調製
4. 水素終端したグラフェン端に生じるエッジ状態
5. 今後期待される研究展開
第9章 単層グラフェンの輸送現象(八木隆多)
1. ゼロ磁場の伝導
1.1 伝導度のゲート電圧依存性
1.2 電子ホールパドル
1.3 移動度の向上の試み
1.4 ガスセンサーとしての応用
2. 磁場中伝導
2.1 グラフェンのシュブニコフドハース振動
2.2 量子ホール効果
2.3 最小伝導度点付近における磁気抵抗
3. 電子コヒーレンス効果
3.1 AB効果
3.2 弱局在
第10章 ニッケル単結晶基板上グラフェンのスピン偏極(山内泰,圓谷志郎)
1. はじめに
2. 単層グラフェンの成膜
3. スピン偏極準安定脱励起分光法(SPMDS)
4. グラフェンの電子状態とスピン偏極
5. おわりに
【III 新しい作製法】
第11章 SiC上のグラフェン成長と電気特性(永瀬雅夫)
1. はじめに
2. SiC上グラフェンの特徴
3. 層数同定技術
3.1 各種のSiC上グラフェンの膜厚計測方法
3.2 低エネルギー電子顕微鏡による層数同定技術
3.3 各種の顕微鏡法によるSiC上グラフェン像
4. 局所導電率計測
4.1 集積化ナノプローブ
4.2 ナノグラフェンの導電率像
4.3 2層グラフェンの局所導電率
5. 集積デバイス実現にむけて
第12章 シリコン基板上のグラフェン薄膜成長(末光眞希)
1. グラフェンデバイスの展望と課題
2. グラフェン形成とグラフェン・オン・シリコン(GOS)技術
3. 有機シランガスソースMBE法によるSi基板上SiCヘテロエピ成長
3.1 低温化バッファ層形成技術
3.2 赤外干渉法を用いたSi基板上SiC薄膜成長リアルタイム・モニタリング技術
3.3 Si基板上SiC薄膜成長条件の最適化
4. Si基板上SiC薄膜の上のグラフェン形成とそのラマン評価
4.1 グラフェンのラマン散乱分光による評価
4.2 Si基板上グラフェンのラマン評価
5. おわりに
第13章 グラフェンの化学的作製法と有機半導体素子電極への応用(上野啓司)
1. はじめに
2. グラファイト単結晶の化学的単層剥離と薄膜作製
2.1 酸化グラファイト形成による単層剥離
2.1.1 グラファイト単結晶粉末の酸化・単層剥離の手順
2.2 酸化グラフェン薄膜の塗布形成
2.3 酸化グラフェン薄膜の還元
2.4 酸化処理を行わないグラファイト単層剥離手法
3. 塗布形成したグラフェン薄膜の電極応用
4. グラフェン薄膜の導電性評価
5. グラフェン透明電極を用いた有機薄膜太陽電池
6. グラフェン電極を用いた塗布型有機FET
7. おわりに
第14章 ナノグラフェンの低温成長と物性解析(徳本洋志,清水哲夫,安藤淳)
1. はじめに
2. グラフェンの作製法の概観
2.1 HOPG層の機械的剥離法
2.2 エピタキシャル法
2.3 CVD法
3. 炭化物への無電解Niメッキによるグラフェン成長
3.1 炭化物への無電解Niメッキの基本的手順
3.2 グラフェンサイズの増大法
4. 無電解Niメッキ成長グラフェンの構造解析
4.1 電子顕微鏡による構造解析
4.2 ラマン散乱解析
4.3 AFMによる構造・物性解析
4.4 電気抵抗評価
4.4.1 ナノギャップデバイスによる電気抵抗測定
4.4.2 分散液滴下ナノグラフェンシートの電気抵抗測定
5. おわりに
第15章 カーボンナノウォールの成長と電子放出(堀勝,平松美根男)
1. はじめに
2. カーボンナノウォールの成長
2.1 ラジカル制御プラズマCVD法によるカーボンナノウォールの形成
2.2 電子ビーム励起プラズマを用いたカーボンナノウォールの形成
3. カーボンナノウォールの物性
4. 電子放出素子への応用
4.1 カーボンナノウォールからの電子放出
4.2 超臨界CO2堆積法を用いた白金ナノ粒子の担持
4.3 窒素プラズマ処理
5. カーボンナノウォールの電子デバイス応用に向けて
第16章 CVD法によるナノグラフェンの成長と電子状態(斉木幸一朗)
1. はじめに
2. ナノグラフェンの成長
3. ナノグラフェンの原子構造
4. ナノグラフェンのエピタキシャル方位
5. ナノグラフェン端の原子構造
6. ナノグラフェン端の電子状態
7. ナノグラフェン電子状態の分光学的検討
8. おわりに
第17章 超高温基板を用いた新規カーボン薄膜蒸着成長とラマン分光による評価(島田敏宏,野口卓也,半澤明範,長谷川哲也)
1. はじめに
2. 超高温基板加熱蒸着装置の開発
3. 超高温酸化物基板上への有機半導体分子を原料としたCVD
4. パルスレーザー蒸着で作製したアモルファス炭素の超高温アニールの効果
5. ラマン分光による評価
5.1 グラファイトとグラフェンのラマンスペクトル
5.2 乱れた炭素固体のラマンスペクトル
6. おわりに
【IV デバイスへの展開】
第18章 グラフェンの超高周波光・電子デバイス応用(尾辻泰一)
1. はじめに
2. 量産型グラフェン結晶成長技術の重要性
3. グラフェンチャネルFETの基本動作特性
4. GOSによるFET
5. グラフェンによるプラズモニックデバイスの可能性
6. グラフェンによる新原理テラヘルツレーザーの可能性
6.1 光学励起に対するキャリア緩和過程
6.2 グラフェンにおける負性導電率
6.3 フェムト秒レーザー励起によるテラヘルツ放射分光実験
7. おわりに
第19章 グラフェンのスピンデバイス(白石誠司)
1. はじめに―スピントロニクスとは―
2. なぜ分子を用いるのか?
3. 分子スピントロニクスにおける様々な問題―なぜグラフェンなのか―
4. グラフェンへのスピン注入とスピン流の創出
5. おわりに
第20章 LSI配線技術への応用(二瓶瑞久)
1. はじめに
2. カーボン配線の優位性
3. 配線応用へ向けた多層グラフェン成長技術
3.1 基板上へのグラフェン形成方法
3.2 触媒金属を用いないグラフェン形成:光電子制御プラズマCVD法
3.3 触媒金属を用いるグラフェン形成:熱CVD法
4. 横配線応用へ向けた課題
4.1 高伝導性のための品質向上
4.2 多層グラフェン/金属電極オーミックコンタクト
5. カーボン・アクティブ配線の可能性
6. おわりに
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