キーワード:
Click反応/分子修飾・連結ツール/ヒュスゲン反応/チオール-エン反応/ナノフィルム/蛍光標識/デンドリマー/ゲル/アクリルポリマー/トポロジカル高分子/多孔性配位高分子/インターロック分子/人工DNA/リード化合物探索/ペプチド縮合/創薬/試薬・反応剤
刊行にあたって
ノーベル賞を受賞されたのと同じ年2001年のSharplessらのClick Chemistryに関する論文(Angew. Chem.、 Int. Ed.、 40、 2004 (2001))を最初に見た時、面白い発想の総説だと思った。しかしながら、これはまるでシートベルトのバックルがカチッという音とともに繋がるが如くに二つのグループが簡単且つ確実に「結合」できる化学反応を改めて見直した・・・という感じの話だから、どこか「あたりまえ・・」とも感じていた。ところがどうして、この論文の引用回数は最近5000回を超え、今や化学だけでなく関連する広範な分野に及ぶ「共通」の方法、概念となっている。ノーベル賞化学者の慧眼に依るものであり、科学の進歩を地でいく話である。
Click Reaction(クリック反応)は、生命科学、超分子科学、さらには高分子科学、材料科学のような、比較的小さなユニットの積み重ねによってできる分子・材料が主要な役割を果たす分野で特に重要である。そして実際引用回数が示すようにその有用性は極めて高い。我が国でも、有用なクリック反応開発を目指す「基礎」から、クリック反応を利用して複雑な分子構築を行う「応用」まで、多くの研究者がクリック反応に携わっている。我々も、ニトリルオキシド基がアジド基よりも安全で触媒を要しない上、不飽和結合と炭素―炭素結合形成を行うなど、多彩なクリック反応を可能にする機能団と位置づけ、様々な研究を展開してきた。
ところが、研究を進める内に、これほど有用な反応にも拘わらず、クリックケミストリーに関するまとまった日本語の成書はなく、特に利用する側には情報不足であった。そんな折、昨年末奇しくもシーエムシー出版の伊藤氏からクリックケミストリーの企画を提案頂いた。まさに時節到来のご提案であった。そこで早速、この分野に造詣の深い北海道大学の小山先生と大阪大学の深瀬先生のご協力を仰ぎ、短期間の集中的な作業を経て、ここに国内で最初のクリックケミストリーの成書の刊行に至った次第である。
本書では、クリック反応を利用する側を特に意識し、各章には代表的な実験を一つずつ載せ、その鍵となる点やノウハウなども併せて記載した。また、終わりの章では、関連する試薬をまとめて紹介した。企業の技術者だけでなく大学の研究者にも大いに役立つ書に仕上がったのではないかと思う。刊行に至るまで特に小山先生には多くのプロセスで主要な役割を果たして頂いた。ここに付して感謝したい。
東京工業大学 高田十志和
本書は2014年に『クリックケミストリー ―基礎から実用まで―』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
高田十志和 東京工業大学 小山靖人 北海道大学 北山 隆 近畿大学 細谷孝充 東京医科歯科大学 吉田 優 東京医科歯科大学 難波康祐 徳島大学 谷野圭持 北海道大学 道信剛志 東京工業大学 正田晋一郎 東北大学 小林厚志 東北大学 野口真人 東北大学 折田明浩 岡山理科大学 大寺純蔵 岡山理科大学 稲木信介 東京工業大学 淵上寿雄 東京工業大学 國武雅司 熊本大学 青木健一 東京理科大学 遠藤 剛 近畿大学 松本幸三 近畿大学 宮田高治 近畿大学 早瀬 元 京都大学 金森主祥 京都大学 中西和樹 京都大学 | 髙坂泰弘 大阪大学 北浦健大 大阪大学 北山辰樹 大阪大学 山本拓矢 東京工業大学 手塚育志 東京工業大学 小門憲太 北海道大学 佐田和己 北海道大学 生越友樹 金沢大学 山岸忠明 金沢大学 武元宏泰 東京工業大学 西山伸宏 東京工業大学 片岡一則 東京大学 藤野智子 東北大学 磯部寛之 東北大学 廣瀬友靖 北里大学 砂塚敏明 北里大学 北條裕信 大阪大学 川上 徹 大阪大学 深瀬浩一 大阪大学 田中克典 ㈱理研基幹研究所 馬場良泰 塩野義製薬㈱ 田口晴彦 東京化成工業㈱ 田中紀子 シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社 |
執筆者の所属表記は、2014年発行当時のものを使用しております。
目次 + クリックで目次を表示
第1章 Click Chemistry-序論-
1 はじめに
2 クリックケミストリーの定義
3 クリック反応を利用した新物質の創出
4 おわりに
第2章 クリック反応に利用可能な反応
1 はじめに
2 クリック反応に利用可能な反応
3 おわりに
4 クリック反応一覧表
コラム1 Huisgen Click反応
【第2編 クリック反応のための新しい分子修飾・連結ツールの開発】
第3章 異種アジド基の反応性の差を利用した分子連結
1 はじめに
2 芳香族アジド基と脂肪族アジド基とを併せ持つプローブ分子の開発
3 生体分子アジドと小分子アジドの連結
4 かさ高い芳香族アジド基を利用する分子連結
4.1 かさ高い芳香族アジド基の意外な反応性の発見
4.2 かさ高い芳香族アジドの高いクリック反応性
4.3 両オルト位のかさ高い置換基が芳香族アジド基に及ぼす効果
4.4 種々のアルキンとかさ高い芳香族アジドとの反応
5 おわりに
実験項:ジアジド化合物7に対する位置選択的なクリック反応
第4章 Click反応を利用した小型蛍光分子の合成
1 はじめに
2 1,3a,6a-トリアザペンタレンの一段階合成法の開発
3 1,3a,6a-トリアザペンタレンの蛍光特性
4 2,4-二置換-1,3a,6a-トリアザペンタレン
5 2,5-二置換-1,3a,6a-トリアザペンタレン
6 おわりに
実験項1:アジドユニット(7a)
実験項2:TAPの一段階合成
第5章 ニトリルオキシドを用いるクリック反応
1 はじめに
2 ニトリルオキシドの発生法
3 ニトリルオキシドの自己反応性と安定化
4 芳香環に対するニトリルオキシドの付加環化反応
5 2官能性安定ニトリルオキシドの合成と反応
6 おわりに
実験項:ニトリルオキシドの分子内付加環化反応によるジヒドロベンゾイソオキサゾールの合成
第6章 アルキンとシアノ基含有アクセプター間のClick反応
1 はじめに
2 電子密度が高いアルキンとシアノアクセプターの組合せ
3 芳香族系高分子の機能化
4 高分子型イオンセンサーの開発
5 おわりに
実験項:ポリ(4-アジドメチルスチレン)側鎖への二段階クリック反応によるドナーアクセプター部位の構築
第7章 グリコシルアジドの一段階合成
1 はじめに
2 なぜクリック反応なのか
3 オリゴ糖のどこにアジド基を導入するか
4 既往のグリコシルアジド合成の問題点
5 配糖体の合成に内在する水溶性-脂溶性のジレンマ
6 水中でオリゴ糖のアノマー位だけを活性化する
7 水溶液中におけるグリコシルアジドの一段階合成
8 反応機構の解析
9 機能性グライコポリマーへの応用
10 おわりに
実験項:ジシアロオリゴ糖のアジ化
第8章 歪んだ環状ジインの簡便合成とClick反応への応用
1 はじめに
2 高歪み環状ジイン1の合成
3 二重脱離反応を利用した高歪み環状ジイン1の合成
4 高歪み環状アセチレン1への求核反応および求電子反応
5 高歪み環状アセチレン1を用いたアジドとの付加環化反応(クリック反応)
6 おわりに
実験項:高歪み環状アセチレン1の合成
コラム2 Huisgen反応の位置選択性とメカニズム
【第3編 クリック反応の活用・応用】
第9章 エレクトロクリック反応による表面修飾
1 はじめに
2 単分子膜の表面修飾
3 高分子膜表面の修飾
4 エレクトロクリック反応を用いた交互積層膜の作成
5 走査型電気化学顕微鏡を用いたエレクトロクリック反応
6 おわりに
実験項:電解発生Cu(I)を触媒としたアジド化ポリチオフェン誘導体の表面修飾
第10章 表面・界面でのクリック反応によるナノフィルム形成
1 はじめに 高分子反応としてのクリック反応の展開
2 固液界面でのクリック反応
3 アジド基やアルキン基を有するポリマーの合成
4 液液界面でのクリック反応を利用したナノフィルム形成
5 液液界面ホモクリック反応を利用したナノフィルム形成
6 ヘテロ界面クリック反応を利用したナノフィルム形成
7 最後に
実験項1:アルキン基を有するホモポリマーの合成
実験項2:アジド基を有するホモポリマーの合成
第11章 無触媒固相グラフト反応のための高分子ニトリルオキシド反応剤
1 はじめに
2 高分子ニトリルオキシド反応剤の合成
3 高分子ニトリルオキシド反応剤を用いる無触媒固相グラフト反応
4 高分子ニトリルオキシド反応剤を用いるガラス表面の無触媒修飾反応
5 おわりに
実験項:高分子ニトリルオキシド反応剤(PMMA-CN+O-)の合成
第12章 チオールエン・クリック反応を用いたデンドリマーの大量合成とフォトポリマーへの応用
1 はじめに
2 デンドリマーの大量合成に向けての指針
3 多段階交互付加(AMA)法によるデンドリマー合成の実際
4 デンドリマーを利用したフォトポリマー材料
5 おわりに
実験項1:ポリアクリルデンドリマー(Ac8,Ac16)の合成
実験項2:クリック反応によるデンドリマーの末端修飾例~ジアリルアミンによるポリアクリレートデンドリマーの末端修飾
第13章 5員環ジチオカーボナート-アミンClick反応
1 はじめに
2 高分子側鎖上の5員環環状カーボナートとアミンのClick反応を用いた高分子修飾
3 重合反応への利用
3.1 2官能性5員環環状ジチオカーボナートとジアミンの重付加を利用したポリマー合成
3.2 5員環環状ジチオカーボナートとアミンの付加反応とチオール-エン反応を組み合わせた3成分重付加反応によるポリマー合成
4 3官能5員環環状ジチオカーボナートのアミン付加体を利用したスターポリマーの合成
5 ラジカル重合と組み合わせたグラフトコポリマーの合成
6 おわりに
実験項1:5員環環状カーボナート基を持つポリマーとアミン、酸無水物の反応
実験項2:2官能性5員環環状ジチオカーボナートとモノアミンの付加を利用したポリマー合成
第14章 チオール-エン反応によるマシュマロゲルの表面処理と撥液性制御
1 はじめに
2 撥水性・親油性マシュマロゲルの作製
3 チオール-エン反応によるパーフルオロアルキル鎖の導入と撥油性
4 おわりに
実験項:超撥水・超撥油性マシュマロゲルの合成
第15章 クリック反応性基を有するアクリル系ポリマーの精密合成と反応
1 はじめに
2 末端にクリック反応性基を有するアクリル系ポリマーの精密合成と反応
2.1 リビングラジカル重合による合成
2.1.1 原子移動ラジカル重合
2.1.2 可逆的付加開裂連鎖移動重合
2.2 リビングアニオン重合による合成
3 クリック反応性側基を有するアクリル系ポリマーの合成と反応
実験項1:末端にクリック反応性炭素-炭素二重結合を有するシンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(st-PMMA)の合成
実験項2:末端にクリック反応性C=C結合を有するst-PMMAへのチオールの付加
実験項3:イソタクチックポリメタクリル酸プロパルギルの合成および部分修飾クリック反応
第16章 トポロジカル高分子の合成
1 はじめに
2 ESA-CF法
3 kyklo-telechelicsのクリック反応を用いたbridged型およびspiro型多環状高分子の合成
4 クリック反応を用いたH形telechelicsおよびfused型多環状高分子の合成
5 クリック反応およびオレフィンメタセシス反応を用いた四環3重縮合高分子の合成
6 クリック反応を用いた両親媒性環状・分岐状高分子の合成
7 クリック反応を用いた主鎖配向の制御された環状ステレオブロックポリ乳酸の合成
8 おわりに
実験項:三環spiro構造を有するkyklo-telechelics(5e)および両新媒性双環(8の字形)高分子(A1)の合成
第17章 多孔性配位高分子のクリックケミストリー
1 はじめに
2 Huisgen環化(CuAAC)によるMOFの事後修飾法
3 CuAAC以外のクリック反応を用いたMOFの事後修飾法
4 官能基分布を持ったMOFのクリック反応による合成
5 MOFのクリック反応事後修飾を用いた機能性材料
6 おわりに
実験項1:AzTPDCの合成
実験項2:AzMの合成
第18章 アルキン-アジドクリック反応を用いた柱状環状ホスト分子“ピラー[n]アレーン”の官能基化及びインターロック分子の合成
1 はじめに
2 柱状環状ホスト分子Pillar[n]areneの合成と構造
3 アルキン-アジドクリック反応を利用したPillar[n]areneの官能基化
4 アルキン-アジドクリック反応を利用したPillar[n]areneインターロック分子の合成
5 おわりに
実験項:アルキン-アジドクリック反応を利用した[2]ロタキサン16の合成
第19章 凍結濃縮現象によるClick反応加速
1 はじめに
2 反応率の時間依存性及び凍結融解処理の影響
3 凍結融解処理時の温度と反応率
4 反応物質濃度と反応率
5 他の高分子での実施例
6 おわりに
実験項:PEG-siRNAの凍結融解法に基づく合成
第20章 クリック伸長による人工オリゴヌクレオチドの合成
1 はじめに
2 TLDNA単量体の開発
3 TLDNAオリゴヌクレオチド固相合成法の開発
4 水易溶性トリアゾリウム連結DNAの開発
5 TLRNAオリゴヌクレオチド合成法の開発
6 TLDNAの天然DNAとの二重鎖形成
7 非天然塩基対を活用したTLDNA二重鎖の合成とその電荷輸送能
8 生命科学への展開:TLDNA酵素基質化
9 トリアゾール連結環状二量化核酸の開発
10 おわりに
実験項:TLDNA 12量体の合成
第21章 In situクリックケミストリーを利用した有用生物活性物質のリード探索
1 はじめに
2 キチナーゼ阻害剤Argifinからのアンカー分子調製とin situクリックケミストリー
3 X線共結晶解析を用いたSmChiBによるsyn-5形成促進効果の証明
4 おわりに
実験項:in situクリックケミストリーを利用したChi阻害剤スクリーニング
第22章 ペプチドチオエステルを用いるペプチド縮合法
1 はじめに
2 ペプチドライゲーション法
2.1 チオエステル法
2.2 ネイティブケミカルライゲーション(NCL)法
3 N-Sアシル基転位反応とペプチドチオエステル合成
3.1 NAC法
3.2 CPE法
4 ヒストンH3の合成
5 おわりに
実験項1:N-エチル-S-トリチルシステイン(25)の合成
実験項2:CPEペプチドの合成
第23章 アザ電子環状反応、Staudinger Ligation
1 アジド基を利用した位置選択的、部位選択的標識化:Staudinger ligationと歪み解消型クリック反応
2 アザ電子環状反応を用いた革新的リジン残基標識プローブの開発
2.1 可溶性糖タンパク質のPETイメージング:シアル酸含有糖鎖によるタンパク質の血中内安定性への影響
2.2 細胞表層の標識と細胞表層糖鎖エンジニアリングと細胞動態の可視化
2.3 タンパク質の位置選択的標識ならびに特定のタンパク質選択的標識
3 おわりに
実験項:Stella+(Lysine labeling unit)を用いた標識化
コラム3 クリックケミストリーの創薬研究への応用
【第4編 クリック反応に有用な試薬・反応剤】
第24章 クリック反応に有用な試薬・反応剤
1 はじめに
2 アルキニル基導入試薬
3 アジド基導入試薬
4 ライブラリー構築に有用なクリック反応試薬
5 銅イオンフリーなクリック反応試薬
6 その他のクリック反応を志向した試薬
7 おわりに
第25章 化学ライゲーションに有用な反応剤
1 ペプチドの化学合成とタンパク質の化学修飾
2 Native Chemical Ligation
3 Staudinger Ligation
3.1 Staudinger反応
3.2 Non-traceless Staudinger Ligation
3.3 Traceless Staudinger Ligation
4 有機アジドおよびアジド源
5 化学ライゲーションに有用な試薬
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