刊行にあたって
エレクトロニクスの発展は実に目覚しい。そのエレクトロニクスをハード面で支えている最重要技術が本書で取り上げる薄膜技術である。エレクトロニクスが高度化するにつれて,エレクトロニクスを構成するデバイスの最小寸法は,マイクロメートルから今やナノメートルの領域へと移行してきている。このようなデバイスを実現するには,材料は必然的に薄膜となり,材料作製に関してはナノメートルからオングストロームの制御性を必要とするようになってきている。すなわち,原始レベルで材料を制御しなければならない時代に達しているのである。
一方,工業的には,生産性を損なわずに材料・デバイスを高度化せねばならず,原子レベルの制御性を有するとともに,十分な薄膜形成速度を有する技術が要求される。さらに,デバイスの機能の多様化がどんどん進むため,対象なる材料も,半導体,磁性体,絶縁体,酸化物,誘電体,金属,超誘電体等々,実に広範囲になってきている。
このように,エレクトロニクス関連材料は、今後とも一層薄膜化するとともに,多様化,高機能化の道を突き進むと考えられ,それを可能とする薄膜作製技術は一段と高度なものが要求されてくることは想像に難くない。
本書では、次世代のエレクトロニクスで必要とされると思われる薄膜技術を中心に,その基礎と応用を述べたものである。取り上げた技術は,すでに生産現場に入っているもの,今後生産現場に導入されると思われる技術,あるいは新しい材料開発に大変威力を発揮する技術と,幅広いのも本書の特徴である。また、材料別にその薄膜作製で中心となる技術についての記述も行っている。したがって,本書は,第一線でエレクトロニクス用材料開発に携わっている研究者・技術者の参考となることはもとより、今後のエレクトロニクスの技術動向を検討する上でも、一助となるものと自負している。
なお,本書を編纂するにあたっては,2002年秋に新潟大学において開催された,応用物理学会主催の応用物理学会スクールのテキストを参考にさせていただいた。テキストの執筆者ならびに応用物理学会に対して誠意を表したい。
2003年5月 白木靖寛
著者一覧
久保百司 東北大学 大学院 工学研究科 助教授
高見誠一 東北大学 大学院 工学研究科 助手
宮本 明 東北大学 未来科学技術共同研究センター・大学院工学研究科 教授
湯浅基和 積水化学工業(株) R&Dテクノロジセンター NBO P2プロジェクト 開発部長
竹内良昭 三菱重工業(株) 長崎造船所 太陽電池事業室 主任
山内康弘 三菱重工業(株) 長崎造船所 太陽電池事業室 主席技師
髙塚 汎 三菱重工業(株) 長崎造船所 太陽電池事業室 室長
村田正義 三菱重工業(株) 長崎研究所 顧問
真島 浩 三菱重工業(株) 長崎研究所 応用物理研究室
川村啓介 三菱重工業(株) 長崎研究所 応用物理研究室
河合良信 九州大学大学院 総合理工学研究院 教授
増田 淳 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助手
和泉 亮 九州工業大学 工学部 電気工学科 助教授
梅本宏信 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助教授
松村英樹 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 教授
鯉沼秀臣 東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授
松本祐司 東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 助手
末松久幸 長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 助教授
鈴木常生 長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 助手
江 偉華 長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 助教授
八井 浄 長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 教授
梶 成彦 (株)半導体先端テクノロジーズ 第二研究部 バックエンドプロセスプログラム 主任研究員
川原孝昭 (株)半導体先端テクノロジーズ 第一研究部 High-K要素プロセスプログラム 主任研究員
猪俣浩一郎 東北大学大学院 工学研究科 教授
石原 宏 東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授
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1.はじめに
2.薄膜の歴史
3.薄膜の機能と応用
3.1 薄膜の特徴
3.2 薄膜特性の起源
3.3 薄膜機能の応用
第2章 計算化学による結晶成長制御手法
1.結晶成長シミュレータの開発と結晶成長プロセスの原子レベル制御への応用
1.1 はじめに
1.2 新機能エレクトロニクス材料の結晶成長シミュレータの開発
1.3 MgO(001)面のホモエピタキシャル成長過程
1.4 自己組織化3次元ナノドットの形成機構の解明
1.5 ジョセフソントンネル接合実現のためのバッファー層の理論設計
1.6 化学反応を扱うことが可能な結晶成長シミュレータの開発
1.7 高速化量子分子動力学法の開発とそれに基づく結晶成長シミュレータの開発
1.8 新しく考案した高速化量子分子動力学法の理論的特徴
1.9 さらなる高速計算を実現する「部分対角化法」の開発とその理論的特徴
1.10 電子移動を伴う結晶成長ダイナミックスのシミュレーション
1.11 化学反応を伴う固体表面上での高分子鎖の成長ダイナミックス
1.12 おわりに
2.結晶成長プロセスの原子レベル制御を実現するための「鼻薬(はなぐすり)の理論」構築
2.1 はじめに
2.2 「鼻薬の理論」構築のための方法論
2.3 触媒材料の結晶成長制御を実現するための「鼻薬の理論」構築
2.4 第一法則「電子の秩序的局在化」(電子レベル)
2.5 第二法則「単原子層制御の実現」(原子レベル)
2.6 第三法則「粒子成長制御と触媒活性制御」(マクロレベル)
2.7 「鼻薬の理論」に基づく高活性触媒の提言
2.8 エレクトロニクス材料の結晶成長制御を実現するための「鼻薬の理論」
2.9 「鼻薬の理論」構築における「逆転の発想」
2.10 おわりに
第3章 常圧プラズマCVD技術とその応用
1.はじめに
2.常圧プラズマ発生原理
3.常圧プラズマの特徴
4.常圧プラズマCVD技術
4.1 FPD用反射防止膜への応用
4.2 半導体・LCDプロセス対応
4.3 SiO2層間絶縁膜CVDへの応用
5.おわりに
第4章 ラダ-電極を用いたVHFプラズマ応用薄膜形成技術
1.はじめに
2.ラダー電極を用いたVHFプラズマの特性
3.アモルファスシリコン成膜への応用
3.1 成膜速度の周波数依存性
3.2 大面積成膜への応用
4.おわりに
第5章 触媒化学気相堆積法とその応用
1.はじめに
2.Cat-CVD法の概要
2.1 Cat-CVD法とPECVD法の差異
2.2 Cat-CVD法におけるガス分子の振舞い
3.Cat-CVD法の基礎原理
3.1 Cat-CVD法における堆積種の生成機構
3.2 堆積種の観測例
3.3 Cat-CVD法とPECVD法での膜堆積機構の差異
4.Cat-CVD装置構成の基礎
4.1 触媒体からの熱輻射の影響
4.2 触媒体からの金属汚染の抑制
4.3 面均一性の決定要因
4.4 大面積均一堆積の方法
5.Cat-CVD法で作製した薄膜の特性とデバイス応用
5.1 Cat-CVD法で作製したa-Si:H膜ならびにpoly-Si膜の特性とデバイス応用
5.2 Cat-CVD法で作製したSiNx膜の特性とデバイス応用
6.Cat-CVD法の今後の展開
6.1 最近の開発製品の例
6.2 Cat-CVD法の新規展開
7.おわりに
第6章 コンビナトリアルテクノロジー
-集積化薄膜技術による材料開発の革新-
1.はじめに
2.レーザーMBEとセラミックスナノテクノロジー
2.1 レーザーアブレーション法
2.2 原子レベル薄膜成長制御の要素技術
3.コンビナトリアル薄膜作製技術の開発と応用
3.1 コンビナトリアル薄膜合成法の原理
3.1.1 成長温度傾斜法
3.1.2 2元系・3元系組成傾斜膜の作製
3.1.3 超格子薄膜のコンビナトリアル合成
3.2 コンビナトリアル薄膜合成の応用と新材料開発の研究例
3.2.1 薄膜成長条件の最適化
3.2.2 基礎材料物性の系統的データの収集
3.2.3 既知の材料物性の最適化
3.2.4 新材料の発見
4.おわりに
第7章 パルスパワー技術と応用
1.はじめに
2.パルスパワーの発生
2.1 エネルギーの蓄積
2.2 パルスパワーの整形
3.パルスパワーの応用
4.パルスイオンビーム蒸着法(IBE法)
4.1 パルスイオンビームの発生
4.2 イオンビームアブレーションプラズマ
4.3 IBE法による薄膜作製
4.4 結晶質薄膜の室温作製
4.4.1 SrAl2O4:Eu,Dy
4.4.2 B12+xC3-x薄膜の作製
4.5 薄膜の基板依存性
4.5.1 TiFe薄膜
4.5.2 SrAl2O4:Eu,Dy薄膜
4.6 YBa2Cu3O7-δエピタキシャル薄膜の高速作製
5.パルス細線放電法による超微粒子の作製
6.おわりに
第8章 半導体薄膜の作製
1.はじめに
2.高誘電体ゲート絶縁膜
2.1 High-kゲート絶縁膜に対する要求
2.2 High-kゲート絶縁膜成膜技術
2.2.1 ALD法
2.2.2 MOCVD法
2.2.3 その他
2.3 今後の課題
3.低誘電率層間絶縁膜
3.1 低誘電率層間絶縁膜に対する要求
3.2 低誘電率層間絶縁膜技術
3.2.1 母体の低誘電率化
3.2.2 空孔の導入
3.3 低誘電率膜の評価手法
3.4 銅の拡散防止絶縁膜
3.5 次世代Low-k膜(kく2.5)のインテグレーション
3.6 今後の課題
第9章 ナノ構造磁性薄膜の作製とスピントロニクスへの応用
1.はじめに
2.金属人工格子と巨大磁気抵抗(GMR)効果
2.1 磁性薄膜研究の経緯
2.2 金属人工格子の作製法とその評価法
2.3 巨大磁気抵抗(GMR)効果
2.3.1 GMR効果のメカニズム
2.3.2 スピンバルブGMR
2.3.3 スピンバルブGMRのエンハンス
3.強磁性トンネル接合(MTJ)とTMR効果
3.1 TMRの原理
3.2 トンネル接合の作製法とTMR特性
3.3 TMRのバイアス電圧依存性
3.4 TMRの耐熱特性
3.5 二重トンネル接合のTMR
4.ナノ構造磁性膜の応用
4.1 超高密度磁気ディスク技術
4.1.1 ハードディスクの面記録密度
4.1.2 磁気ヘッド
4.1.3 ディスク媒体
4.1.4 垂直磁気記録(Perpendicular recording)
4.2 不揮発性磁気メモリMRAM
4.2.1 MRAMの構造と動作原理
4.2.2 MRAM開発の現状
4.2.3 MRAMの実用化課題
4.2.4 大容量化に向けて:MRAMのスケーリング
4.3 スピン量子ドット素子
第10章 強誘電体薄膜の作製とメモリ素子への応用
1.はじめに
2.FeRAMの分類と特徴
2.1 キャパシタ型FeRAM
2.2 トランジスタ型FeRAM
3.FeRAM用強誘電体材料の現状
3.1 代表的な強誘電体材料の特性
3.1.1 Pb(Zr,Ti)O3(PZT)
3.1.2 SrBi2Ta2O9(SBT)
3.1.3 (Bi,La)4Ti3O12(BLT)
3.2 強誘電体材料の問題点と対応策
4.BI2SiO5を添加した新規強誘電体薄膜
4.1 形成方法
4.2 BSO添加BIT膜の特性
4.3 超薄膜の形成
4.4 特徴のまとめ
5.BSO添加強誘電体膜の形成モデル
5.1 BSOの触媒作用
5.2 超高圧下でのペロブスカイト構造形成の可能性
6.BSO添加新規強誘電体膜の有用性
7.まとめ
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