刊行にあたって
昨年,本書の姉妹書である「RFタグの開発と応用」を出版したところ,幸い好評を持って迎えられました。これは,昨今のRFタグを用いた流通システムの改革についての期待を反映したものと捉えています。上記姉妹書は,主にRFタグに関連する機器(RFタグ,リーダライタ)の技術的内容について,それらの機器のサプライヤーの立場から,それぞれの分野で第一線で活躍する方々に記述していただいたものです。
それに対して,本書はRFタグをどのように捉え,長所,活用方法を見出し,それぞれの固有の課題を解決しようとしているのかを,ユーザーの立場から記述したものです。従来RFタグは製造,流通,販売などそれぞれの業態の中で用いられてきており,その業態を超えて用いられることはありませんでした。しかし,昨今の想定されている使用方法は,RFタグを貼付する対象のライフサイクル管理など製造,流通,販売そしてリサイクルまで業態を超えて用いられるものです。このような用い方がされると,各社が固有の使用法をしていては,その効率的な運用はできないため,業界として標準が必要となり,業界としての統一的な活動である必要があります。従って,各業界団体の活動が非常に重要な意味を持ってきます。特に実証試験は,その具体的な活動の第一歩であり重要です。そこで,各業界の実証試験を主導する方々にその内容を分わかり易くご説明いただきました。
これら業態を超えた利用は,従来の繰り返し利用から一回利用になるに伴って,コストの課題に直面する他,通信距離の確保,コンテンツの標準化の課題に当面していました。これらの各課題は,関係者のご努力により,UHF帯の電波帯割り当てなど行政主導の活動と技術開発など民間主導の活動が相まって,解決の方向にあります。これらの諸課題の解決の努力の方向性を行政諸団体の第一線で活躍する方々によって記述して頂いています。
本書は,ユーザーの観点からRFタグ活用の可能性について述べていますが,単に利用者すなわち各業界の利用の観点だけでなく,大学,シンクタンクの学識経験者,各省庁からその専門とする分野について高い視点から記述頂きました。
これらの記述により,各業界がRFタグをどのように用いようとしているのかが明らかになり,当該業界の方の理解の共有が行えるとともに,これから活用の検討を開始しようとする業界の方の理解の共有が行えるとともに,これから活用の検討を開始しようとする業界の方への最良の手引きとなることと信じています。
本書が,動き始めたRFタグ活用の標準を加速し,日本の流通の効率化,食の安全,医療の安全の確保など国民生活の基盤となり,その向上に資することを願ってやみません。
2004年3月 (社)日本自動認識システム協会 RFID部会 寺浦信之
著者一覧
藤浪 啓 (株)野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 主任コンサルタント
藤本 淳 東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授
若泉和彦 電子商取引推進協議会 主席研究員
荒木 勉 上智大学 経済学部 教授
渡辺 淳 (社)電子情報技術産業協会 AIDC/WG4委員会 主査
;(株)デンソーウェーブ 開発部 開発企画 主幹
柴田 彰 (株)デンソーウェーブ 自動認識事業部 主幹
中谷純之 総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課 システム開発係長
新原浩朗 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長
三村和也 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 係長
中村俊介 総務省 情報通信政策局 技術政策課 研究推進室 研究推進係長
長峰徹昭 農林水産省 消費・安全局 消費・安全政策課 課長補佐
紀伊智顕 (株)富士総合研究所 社会経済グループ 経済・福祉研究室 主事研究員
田代信光 NTTコミュニケーションズ(株) ソリューション事業部 情報ビジネス営業部 課長
高木俊雄 (株)マーステクノサイエンス システム開発部 副部長
宮代 透 (株)NTTデータ ビジネス開発事業本部
山内康英 多摩大学 情報社会学研究所 教授
泉田裕彦 岐阜県新産業労働局長 ;前 国土交通省 貨物流通システム高度化推進調整官
福田 朗 次世代空港システム技術研究組合 専務理事
秋山昌範 国立国際医療センター 内科・情報システム部 部長
越塚 登 ユビキタスIDセンター;T-Engineフォーラム;YRPユビキタス・ネット
ワーキング研究所 副所長 ;東京大学 助教授
宮原大和 (財)流通システム開発センター 流通コードセンター 研究開発部 主任研究員
石橋 守 日本郵政公社 経営企画部門 国際・物流・事業開発部 グループリーダー
石川俊治 大日本印刷(株) ICタグ事業化センター 副センター長
根日屋英之 (株)アンプレット 代表取締役社長
;東京電機大学 工学部 電子工学科 講師 (工学博士)
目次 + クリックで目次を表示
第1章 RFIDタグの市場展望
1.はじめに
2.RFIDとユビキタスネットワークがもたらすビジネスパラダイム変化
3.RFタグのアプリケーションと市場拡大に向けた課題
4.今後の発展に向けたマーケティングのあり方
第2章 リサイクルとRFタグ
1.循環型社会の形成
2.リサイクルの効用:循環か非循環か
3.リサイクルと経済
4.リサイクルQCD
4.1 品質の一定な材料・部品等の調達
4.2 期間内での一定量の調達
4.3 リサイクルQCD実現の条件
5.ユーザの役割
6.RFIDを活用した情報システムの概念
7.おわりに
第3章 EDIとRFタグ
1.企業間の電子商取引を支えるEDI
1.1 EDIとは
1.2 EDIの歴史
1.3 EDIの応用範囲
2.EDIとRFタグの連携利用
2.1 RFIDによる情報伝達の特徴
2.2 EDIによる情報伝達の特徴
2.3 EDIとRFタグとを連携利用するメリット
2.4 入出荷検品のモデル
2.5 商品トレーサビリティのモデル
3.EDIとの連携利用におけるRFタグへの要件
3.1 ソースマーキング及び一貫した商品識別
3.2 最適なシンタックスルールの採用
3.3 リポジトリの共有と標準化の重要性
第4章 物流とRFタグ
1.物流からロジスティクス,SCMへ
2.物流とRFタグ
3.これからの物流とRFタグ
[標準化,法規制の現状と今後の展望編]
第5章 ISOの進展状況
1.RFタグ市場を取り巻く社会状況
2.RFタグ関連のISO標準化動向
3.「物」の管理用RFタグ
3.1 ISO/IEC18000-1
3.2 ISO/IEC18000-2
3.3 ISO/IEC18000-3
3.4 ISO/IEC18000-4
3.5 ISO/IEC18000-5
3.6 ISO/IEC18000-6
3.7 ISO/IEC18000-7
3.8 ISO/IEC15961とISO/IEC15962
3.9 ISO/IEC15963
3.10 TR18046
3.11 TR18047
第6章 RFIDを利用したアプリケーションの標準化
1.はじめに
2.市場ニーズ
3.社会インフラの整備
4.ユニークIDの規格開発
5.RFIDの規格開発
6.位置情報の規格開発
7.RFIDを利用したアプリケーション規格開発
8.おわりに
第7章 電子タグの新たな周波数について
1.はじめに
2.電子タグに関する周波数関連事項検討の背景
2.1 電子タグの利活用推進に係る周波数関連の視点
2.2 欧米における現状と動向
3.新たな周波数の利用可能性
3.1 新たな周波数のニーズ
3.2 周波数共有の可能性
3.3 専用帯域確保の可能性
4.新たな周波数確保に向けた今後の取り組み
4.1 必要となる取り組み
4.2 必要となる主な検討事項
5.今後の推進方策
[政府の今後の対応方針編]
第8章 RFタグの普及に向けた課題と政策
1.総 論
1.1 急激に高まってきたRFタグへの期待
1.2.RFタグ先進国である日本
1.3.克服すべき課題
1.4.標準化の重要性
1.4.1 なぜ標準化を推奨しなければならないのか
1.4.2 国際標準の重要性
2.具体的な施策
2.1 商品コード体系の標準化
2.2 技術企画の標準化
2.3 周波数
2.4 コストの低減:5円タグの実現
2.5 プライバシー
2.6 実証実験の実施
第9章 ユビキタスネットワークとRFタグ
1.はじめに
2.ユビキタスネットワーク社会
3.ネットワークによるRFタグの高度利用
4.RFタグの高度利活用
4.1 RFタグの高度利活用に関する考察
4.2 利活用ネットワークの拡大
5.タグに紐付く情報の高度化
6.RFタグの利活用高度化マップ
7.RFタグの経済波及効果
7.1 経済波及効果の試算額
7.2 経済波及効果の推移
8.おわりに
[各事業分野での実証試験及び適用検討編]
第10章 家電製品への適用とその実証実験について
1.はじめに
2.物流実証実験
2.1 実験の概要
2.2 RFタグ導入による実用性評価
2.3 RFタグ導入により期待される効果
2.4 今後の実用化に向けての課題
3.読み取り実証実験
3.1 実証実験の概要
3.2 実験結果
3.3 家電製品への実装に向けた課題
4.おわりに
第11章 出版業界への適用とその実証実験
1.はじめに
2.出版業界における現状と課題
3.RFタグ適用による現状改善の可能性
4.研究活動体制
5.出版業界RFタグ実証実験概要
6.今後の取り組み
第12章 アパレルへの適用における標準化検討とその実証実験について
1.はじめに
2.アパレル標準化検討の経緯
2.1 SPEEDプロジェクトでの実証実験概要
2.2 RFID研究委員会の検討状況
3.RFID研究委員会での標準化モデル
3.1 標準化業務モデル
3.1.1 業務モデル
3.1.2 RFIDデータ項目
3.2 RFIDシステムへの要求仕様
3.2.1 要求仕様の概要
3.2.2 要求仕様の実現方法
4.次世代物流効率化システム研究開発事業での標準化モデル
4.1 標準業務モデル
4.1.1 業務モデル
4.1.2 RFIDデータ項目
4.2 RFIDシステム標準仕様
5.次世代物流効率化システム研究開発事業での実証実験システム
5.1 実証実験の方法と評価
5.1.1 実証実験の目的
5.1.2 実証実験の方法と評価方法
5.2 機器開発概要
5.3 実証実験のシステムとその運用
6.おわりに
第13章 食品流通への適用とその実証実験について
1.食品流通へのRFタグの適用
2.食品流通RFID実証実験について
3.実証実験の概要
4.消費者の受容性
5.作業効率化
6.店舗作業効率化
7.実験の結果を受けて
第14章 空港手荷物の利用と実証実験について
1.はじめに
2.次世代空港システムとRFタグ:導入の経緯
2.1 手荷物管理システムとRFID
2.1.1 ロストバゲッジと実証実験
2.1.2 試行運用実験
2.2 出入国審査の簡素化
2.3 空港保安とRFID:米国の取り組み
2.3.1 サンフランシスコ空港のUHF実験
3.実証実験とシステム
3.1 手ぶら旅行の試行運用
3.2 e-タグ認識技術検証試験(2004年4月~9月)
3.3 UHF帯を利用したRFタグの日米相互運用検証試験
4.今後の展開
第15章 家電リサイクル実証試験
1.はじめに
2.製品のライフサイクル管理
3.静脈物流実証試験
3.1 構想
3.2 期待効果
3.2.1 家電リサイクル券運用の効率化
3.2.2 不法投棄の防止
3.3 現在の仕組み
3.4 電子帳票システムの仕組み
3.5 実証実験
3.5.1 排出品の集積とRFタグの貼付
3.5.2 電子帳票システムのシミュレーション
3.6 実験結果
4.手分解工程支援実証試験
4.1 構想
4.2 期待効果
4.2.1 手分解工程の工数低減
4.2.2 リサイクル率の向上
4.3 現状の工程
4.4 実証試験
4.4.1 排出品の集積とRFタグの貼付
4.4.2 荷捌き工程支援
4.4.3 手分解工程支援
4.5 実証試験の実施とその結果
5.おわりに
第16章 医療分野へのRFタグの適用検討-トレーサビリティと事故防止-
1.はじめに
2.米国医学院の報告
3.我が国の状況
4.情報システムと業務フロー
5.医療行為の発生時点管理システム(POAS:Point of Act System)
6.リアルタイムな記録
7.バーコードやRFタグの活用
8.欧米の状況
8.1 視察先施設
8.2 視察概要
8.2.1 コード管理機構の取り組み
8.2.2 医薬品メーカーの取り組み
8.2.3 欧米の医療機関の取り組み
9.医療行為分析における線から面へ
10.トレーサビリティに活用するバーコード,RFタグ
10.1 日本での課題について
10.2 中心課題
11.おわりに
[緒団体の活動編]
第17章 ユビキタスIDセンターの技術と活動
1.ユビキタスIDセンター
2.ユビキタスID技術
2.1 ユビキタスIDアーキテクチャ
2.2 ucode:ユビキタスコード
2.3 ucodeタグ
2.4 ユビキタスコミュニケータ
2.5 ucode解決サーバ
2.6 プライバシー保護技術
3.応用
3.1 店舗における応用例
3.2 食品トレーサビリティ
3.3 デジタルミュージアム
第18章 (財)流通システム開発センターのRFIDシステムへの取り組みについて
1.取り組み経緯
2.GCI研究会のインテリジェントWG
3.EPCシステムの概要とEPCglobalの役割
3.1 EPCglobalとは
3.2 EPCシステムの概要
3.3 EPCglobalの活動
3.3.1 EPCglobal本部体制
3.3.2 EPCglobal本部の役割
3.3.3 EAN加盟コードセンターの役割
3.3.4 EPCglobalメンバー
3.3.5 メンバー費用
3.3.6 会員企業の加入メリット
第19章 RFタグの郵便事業への活用アイデアについて
1.はじめに
2.基本アイデア~郵便物にRFタグを搭載!?~
3.基本アイデア~バーコードとの違い~
4.基本アイデア~RFタグをつける商品範囲~
5.基本アイデア~RFタグのつけ方~
6.応用アイデア(1):各家庭の受箱にリーダ/ライタ機能を付加
7.応用アイデア(2):配達日指定郵便物の選択
8.応用アイデア(3):転送郵便物の選別
9.応用アイデア(4):大口差出の事前入力
10.応用アイデア(5):差出時に配達局へ情報提供
11.応用アイデア(6):業務改善に利用
12.導入への課題
[チップ・実装編]
第20章 5円タグへの挑戦
1.はじめに
2.従来のRFタグ製造方法
2.1 RFタグの構成
2.2 アンテナの製造
2.3 ICチップの実装
2.4 従来のRFタグ製造方法の課題
3.最新のRFタグ製造方法
3.1 最新のRFタグ製造方法のアプローチ
3.2 FSA(Alien Technologies)
3.3 I-Connect(Philips Semiconductors)
3.4 Matrics社PICA方式(Matrics)
4.将来のRFタグ製造方法
4.1 将来のRFタグ製造方法のアプローチ
4.2 チップレスタグ
5.5円タグへの挑戦
第21章 微細RFIDとリーダ/ライタ
1.はじめに
2.RFIDシステムとは
3.RFID
3.1 RFIDの分類
3.2 反射型RFIDの変調回路
3.3 RFID内の包絡線検波回路
3.4 RFID内のメモリ
3.5 レクテナの設計
3.6 RFIDのアンテナ
4.リーダ/ライタ(質問器)
4.1 反射型パッシブRFID無線通信システムの通信距離
4.2 リーダ/ライタの内部構成
4.3 回路規模の少ない安価なリーダ/ライタの提案
5.コリジョン(衝突)対策
6.RFIDシステムの今後の課題