刊行にあたって
デジタルペーパーあるいは電子ペーパーと呼ばれる新しいメディアは,紙,ディスプレイに次ぐ第三のメディアとして位置づけられる。この第三のメディアは,単なる省資源の役割を大きく越えて,「コンピュータとネットワークで形成される“手で触れられない”IT世界の情報を,新聞,本,書類などの物理的存在物と同じレベルの“手で触れられる”現実世界に持ち込む」という重要な役割を果たすと考えられている。このような位置づけと役割により,デジタルペーパーは加速度的に進みつつある情報化社会を,よりヒューマンフレンドリーで快適なものにする期待されている。
本書はこのようなデジタルペーパー技術の全容をその基本コンセプト,開発中の個別の技術候補,ヒューマンインターフェース面での検討,適用分野についてのねらい,応用事例などについて網羅的にまとめたものである。但し,本分野は完成された技術領域ではなく,発展初期の段階にあるため,本書に網羅された内容も未熟あるいは断片的なところが少なくないのが実態である。
しかし,その点こそがこの分野の魅力的なところであり,今後の研究開発により,その未成熟部分の急速な発展が期待される。その意味で,本分野に参入を考慮している段階の組織あるいは個人にとっても,この分野にはまだ手つかずの宝の山が豊富に存在するということができる。また,例えばデジタルペーパー用表示要素技術は,唯一のオールマイティー方式に最終淘汰されるのではなく,現在のプリンタ技術と同様,適材適所に様々な方式が共存する姿が想定される。その意味でも,新方式などの新たな提案が今後も多くなされるべき技術領域である。
今後多くの方々がこの分野の研究開発あるいはビジネスに参入され,我々自身の生活を豊かにする方向の技術成果が早期に蓄積され実用化されることを大いに期待したい。本書がそのささやかな一助となればと願う次第である。
2001年11月
東海大学 工学部 面谷 信
著者一覧
吉澤秀和 岡山大学 環境理工学部 環境物質工学科 助教授
堀田吉彦 (株)リコー サーマルメディアカンパニー 開発センター 第33グループ課長
関根啓子 大日本印刷(株) 中央研究所 ディスプレイ技術研究所
植田秀昭 ミノルタ(株) 高槻研究所 CNプロジェクト 課長研究員
青木康幸 王子製紙(株) 新技術研究所 上級研究員
玉置信之 産業技術総合研究所 物質プロセス研究部門 機能分子化学グループ研究グループ長
小林範久 千葉大学 工学部 情報画像工学科
水野 博 ミノルタ(株) 研究開発本部 画像メディア技術部 担当課長
佐野健二 (株)東芝 研究開発センター
吉田昌純 ミノルタ(株) 研究開発本部 画像メディア技術部 部長研究員
尾鍋史彦 東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 製紙科学研究室 教授
木村 豊 (株)沖情報システムズ ハードウエア開発第2部RS開発チーム
増田 章 三菱製紙(株) 新素材事業部
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1 はじめに
2 デジタルペーパーのコンセプト
2.1 定義と目標
2.2 関連用語の整理
2.3 デジタルペーパーのセールスポイント
2.4 デジタルペーパーの実現形態
2.5 紙に対する優位性の所在
2.6 表示ソフト技術の問題
3 書き換え記録表示技術の展望
3.1 応用範囲
3.2 利用シナリオ
4 今後の展望
5 まとめ
[各種方式 (要素技術) の開発動向]
第2章 非水系電気泳動型デジタルペーパーの開発動向
1 はじめに
2 電気泳動とは
2.1 拡散電気二重層
2.2 電気泳動およびζ電位
3 非水系電気泳動型デジタルペーパー
3.1 電気泳動型イメージディスプレイ (EPID システム)
3.2 In plane 式電気泳動型ディスプレイ (In plane 式EPD)
3.3 Twisting Ball 式デジタルペーパー
3.4 電気泳動型マイクロカプセルインク
3.4.1 E ink プロトタイプの開発
3.4.2 マイクロカプセル形成機構
3.4.3 E ink に関する最近の開発動向
4 おわりに
第3章 サーマルリライタブルの開発動向
1 はじめに
2 サーマルリライタブルの分類と特徴
3 物理変化タイプ
3.1 高分子/長鎖低分子分散タイプ
3.2 高分子液晶タイプ
3.3 液晶性中分子
4 化学変化タイプ
4.1 ロイコ染料/長鎖アルキル顕色剤
4.2 その他のロイコ染料系
5 記録プロセス
5.1 消去手段
5.2 オーバーライト方式
6 まとめ
第4章 PDLC 方式の最新動向
1 はじめに
2 PDLC とは
2.1 PDLC の表示原理
2.2 G H 型 PDLC の表示原理
2.3 PDLC を用いた記録媒体
3 サンプル作製
4 特性評価
4.1 接触印字方式
4.2 非接触印字方式
5 まとめ
第5章 カイラルネマチック液晶の開発動向
1 はじめに
2 CN 液晶の特徴
3 素子構成
4 表示原理
5 液晶材料
6 駆動方法
7 カラー素子構成と製造方法
8 試作パネル
9 評 価
9.1 明るさ
9.2 色再現
9.3 温度補償
9.4 省電力性
10 まとめ
第6章 フォトンモードでのフルカラー書き換え記録方式の開発動向
1 はじめに
2 コレステリック液晶の記録材料への応用
3 コレステリック液晶の干渉色
4 中分子コレステリック液晶
5 コレステリック分子配列の光化学的制御と可逆的固定
5.1 ジアルキルアゾベンゼンによるコレステリック分子配列の光制御
5.2 光応答性基を有する中分子液晶によるコレステリック分子配列の光制御
6 中分子コレステリック液晶のフォトンモードでのフルカラー可逆記録
7 おわりに
第7章 エレクトロクロミック方式の開発動向
1 はじめに
2 導電性高分子のエレクトロクロミズム
2.1 ポリピロール誘導体
2.2 ポリチオフェン誘導体
2.3 ポリアニリン誘導体
2.4 その他の導電性高分子
3 導電性高分子/機能性物質複合体のエレクトロクロミズム
3.1 導電性高分子/エレクトロクロミックドーパント
3.2 導電性高分子/無機エレクトロクロミック材料複合体
4 導電性高分子の光誘起エレクトロクロミズム (フォトエレクトロクロミズム)
4.1 光酸化または光還元による導電性高分子画像形成
4.2 光重合を用いた導電性高分子パターン形成
4.3 導電性高分子を用いた光書換え型記録材料への展開
5 おわりに
第8章 消去再生可能な乾式トナー作像方式
1 はじめに
2 出力技術を取り巻く環境
3 ハードコピー出力市場の状況
4 本方式の目的と概要
5 作像工程と転写シート
6 隔壁頂部クリーニング
7 画像品質
8 画像保持・保護特性
9 全面クリーニング
10 各種シート再利用方式の紹介
11 用紙リサイクルシステムに関して
12 非定着法の特徴
13 出力装置への応用
第 9 章 消去可能インクによる紙の再利用技術
1 はじめに
2 紙はどこから来てどこへ行くか
3 紙は使わなくなるか?
4 画材の消去原理と特長
5 ロイコ色素と発消色平衡
6 基本的材料と応用
7 消去可能トナー
8 社会情勢と消去可能インクの使われ方
9 電子の紙とリライタブルペーパー
第 10 章 記録材剥離によるメディアの再使用技術
1 概 要
2 水膨潤膜方式 RM とクリーニング原理
3 クリーニングマシン
4 R-OHP 専用クリーニングマシン
5 記録材料
6 プレプリント技術
7 まとめ
第 11 章 各方式の再整理およびその他の方式
1 はじめに
2 表示方式の分類
3 その他の各種方式
3.1 ツイストボール方式
3.2 イオン流照射書き込みによる電気泳動方式
3.3 液晶方式
3.3.1 従来型の液晶方式
3.3.2 液晶技術の新しい考え方
3.3.3 光書き込みによる液晶表示方式
3.4 トナー表示方式
3.5 各種クロミズム方式
3.6 メカニカル構造利用方式
4 各種方式の比較
5 おわりに
[応用開発技術の現状と展望]
第 12 章 ハードコピーとソフトコピーの作業性比較
-デジタルペーパーの理想的ヒューマンインターフェース条件を求めて-
1 はじめに
2 作業効率比較実験
2.1 単純な足し算作業における LCD と印刷物の比較 (実験①)
2.2 文章読解作業における LCD と印刷物の比較 (実験②)
2.3 英文問題作業における CRT, LCD, 印刷物の比較 (実験③)
2.4 3 つの実験の比較とまとめ
3 その他の種々の比較実験
3.1 脳波測定による検討
3.2 表示媒体の理想形態を求める検討
4 まとめ-デジタルペーパーに求められる特性
第 13 章 ブックオンデマンドへの応用
1 はじめに
2 ブックオンデマンドとは何か
3 人間が本を読むという行動の歴史的変遷
4 本とは何か
5 ブックオンデマンドの一つの実験
5.1 電子書籍コンソーシアムによる実証実験
5.2 メディア理論による情報処理過程の解釈
5.3認知科学モデルの応用
5.4 メディア理論と認知科学モデルの結合
5.5 紙メディアと電子メディアの読書空間
5.6 認知科学的に見たブックオンデマンドのためのデジタルペーパーの条件
6 読書のためのデジタルペーパー開発の現状
7 おわりに
第 14 章 サーマルリライタブル技術のアプリケーション探索
1 はじめに
2 サーマルリライタブルシステム
2.1 プリンターアプリケーション
2.2 ボードアプリケーション
2.3 ファクトリーアプリケーション
2.4 ディスプレイアプリケーション
2.5 POP アプリケーション
2.6 その他のアプリケーション
3 エコプリ TM (プリンターアプリケーション)
3.1 エコプリ TM 機構
3.2 エコプリ TM 使用例
4 エコメッセ (ボードアプリケーション)
5 サーマルリライタブル媒体
5.1 エコプリ用 A4 シート
5.2 エコメッセ用 (A1) シート
6 おわりに
第 15 章 サーマルリライタブル技術の電子黒板などへの応用
1 緒 言
2 三菱製紙製ロイコ染料型リライト材料
(商品名:サーモリライト) について
2.1 原理
2.2 特長
2.3 用途
3 表示用途の要求品質
4 サーモリライト表示装置について
5 今後の課題
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