刊行にあたって
人間にとっての有害微生物の制御技術すなわち抗菌・抗カビ技術は,生活環境の多様化と生活意識の変化に伴ってそのニーズが広がり,急速な進歩を遂げている。微生物制御技術には抗菌・抗カビ剤を使用する方法以外にも紫外線や放射線などを使う方法,加熱や冷却さらにはろ過技術などを使ったいわゆる物理的な方法も数多くある。さらに最近では酸化チタン光触媒を用いた方法なども注目を集めている。
抗菌・抗カビ剤を中心とする化学的な微生物制御技術は,この領域の科学と技術に携わる研究者や技術者のたゆまぬ努力により,衣食住をはじめとする生活関連分野から,プラスチックス工業や電子部品工業など,ありとあらゆる産業関連分野のきわめて広範囲にわたって応用されている。
しかし,固定化殺菌剤の開発,無機系抗菌剤の利用,酸化チタン光触媒の応用と,目まぐるしくその技術が発展していくなかで,抗菌・抗カビ剤を用いる微生物制御技術の基礎から応用に至るまで総合的に書かれた書物は数少ない。
本書は,『抗菌抗カビ技術と応用』として1996年1月に初版が刊行された。その多くは現在においてもあらゆる産業分野で十分活用される内容となっているため,今回普及版として刊行するに至った。内容的には改定されているわけではないが,それぞれの章において,現在でもその分野で最も造詣の深い方々にご執筆いただいているので,基礎的なこともやさしく的確に解説され,しかも応用性のある重要事項も十分に網羅されている。
最後に,本普及版が抗菌・抗カビ技術を必要とするあらゆる分野の研究者や技術者の座右の書として活用され,抗菌・抗カビ技術のより一層の進歩につながることを期待したい。
2005年5月 山野美容芸術短期大学 内堀毅
著者一覧
(現)山野美容芸術短期大学 副学長,教授
西村民男 北里大学 名誉教授
大谷朝男 群馬大学 工学部 教授
仁科淳良 日本油脂(株) 食品研究所
(現)群馬産業技術センター
斉藤俊夫 (株)竹中工務店 技術研究所
田中丸眞 ダイソー加工材(株) 営業部 営業課 担当課長
桑田実 兵庫県立工業技術センター 皮革工業指導所 主任研究員
(現)兵庫県立工業技術センター ものづくり開発部 研究主幹
松岡正幸 丸和バイオケミカル(株) 技術顧問 主幹
藤井均 大日本印刷(株) 包装研究所 部長
(現)大日本印刷(株) 包装総合研究センター シニアエキスパート
小笠原靖正 丸石製薬(株) 学術情報部
鴻巣正幸 三愛石油(株) 研究所 グループリーダー
伊藤洋亮 (株)片山化学工業研究所
木村由和 カネボウ化成(株) 技術開発グループ 化成品技術開発課
(現)富士ケミカル(株) 技術開発部 開発室
野坂宣嘉 (株)タイショーテクノス 開発室 室長
友杉喬 (元)(株)タイショーテクノス 開発室
美野勉 奥野製薬工業(株) 食品研究課 課長
(現)(株)ポオトデリカトオカツ 神戸工場 品質管理係 リーダー
浅賀良雄 (株)資生堂 掛川工場 製薬部 品質管理グループ 課長
篠治男 (元)東京都立工業技術センター 有機化学部 防かび研究室
金子則夫 (株)ニコン 相模原製作所 技術開発部 企画課
(現)(株)ニコン コアテクノロジーセンター 技術戦略部 技術戦略課 マネジャー
角名郁郎 近畿大学 教養部
米虫節夫 近畿大学 農学部 助教授
(現)近畿大学 農学部 教授
上島一浩 近畿大学 農学部
(現)(株)その興産 サーチ事業部 部長
中川善博 凸版印刷(株) パッケージ事業本部 包装研究所
(現)凸版印刷(株) パッケージ事業本部 環境開発部
松永是 東京農工大学 工学部 物質生物工学科 教授
(現)東京農工大学 大学院 共生科学技術研究院 生命機能科学部門 工学府長,工学部長,教授
大河内美奈 東京農工大学 大学院 工学研究科
渡部俊也 東陶機器(株) 基礎研究所 研究主査
(現)東京大学 先端科学技術研究センター 教授
(執筆者の所属は,注記以外は1996年当時のものです。)
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第1章 抗菌・抗カビ剤の最近の利用技術と応用
1. はじめに
2. 防菌・防カビ剤の利用技術と応用
3. 防菌・防カビ剤の将来展望
第2章 抗菌・抗カビ剤の最近の応用市場
1. はじめに
2. 原料別応用製品動向
3. 業界別応用製品動向
[抗菌・抗カビ編]
第3章 有機系合成抗菌防カビ剤
1. はじめに
2. ホルムアルデヒド縮合殺菌剤
3. イソチアゾロン
4. 第四アンモニウム基
5. ホスホニウム塩
6. 電子吸引基の結合している炭素にハロゲン基が結合している化合物
7. 電子吸引基により活性化されたハロゲン基をもつ芳香族化合物
8. ハロゲン原子により活性化された炭素-炭素二重結合あるいは三重結合をもつ化合物
9. トリハロメチルチオ化合物
10. チオシアナト化合物
11. ベンズイミダゾール誘導体
12. フェノール類
13. おわりに
第4章 無機系抗菌剤
1. はじめに
2. 無機系抗菌剤の殺菌機構
3. 無機系抗菌剤の基本的構成
4. 無機系抗菌剤の利点
5. 無機系抗菌剤の使用例
6. 今後の展望
第5章 天然系抗菌剤
1. はじめに
2. 食品業界を取り巻く情勢
3. 食品分野で問題となる有害微生物
4. 天然物とは
5. 天然系抗菌剤に要求される性能
6. 食品添加物リストに掲げられた抗菌剤
7. 食品用天然系抗菌剤の実際
8. 食品用抗菌剤の市場規模
9. 非食品分野における天然系抗菌剤の需要
10. おわりに
[応用編]
第6章 木材・建築用資財
1. はじめに
2. 室内空間における微生物環境汚染
3. 抗菌・抗カビ建材に期待する性能
4. 最近の抗菌・抗カビ建材の動向
5. 室内空間環境改善と抗菌・抗カビ建材
6. おわりに
第7章 塗料
1. はじめに
2. 水ガラス系無機質防カビ塗料
3. ケイ酸アルカリ硬化体の防カビ材
4. カビ(真菌)と防カビ剤
5. 菌の種類と抗菌剤
6. 防カビ塗料
7. 抗菌性・防カビ塗料
8. 抗菌性・防カビ塗料
9. おわりに
第8章 皮革製品
1. はじめに
2. 皮革製造工程と微生物
3. 皮革用防菌防黴剤
第9章 接着剤
1. はじめに
2. 接着剤の汚染菌
3. 薬剤の毒性
4. 防菌,防黴剤
5. デンプン系接着剤
6. 今後
7. 結論
第10章 包装材料
1. 食品包装と抗菌性材料
2. 抗菌性ゼオライト含有包材
3. 植物の精油成分利用包材
4. 抗菌性フィルムの応用例
第11章 医療器材
1. はじめに
2. 殺菌効力による消毒薬の評価分類
3. 消毒薬の殺菌効力による分類
4. 医療器械,器具の分類
5. 器械・器具の消毒法
6. 各消毒薬の性質
7. おわりに
第12章 金属加工油用
1. はじめに
2. 金属加工油の腐敗
3. 防腐効力試験法
4. 金属加工油用防腐剤
5. バイオスタティックな考え方
6. 油剤の日常管理手順
7. おわりに
第13章 紙パルプ
1. 紙パルプ工業における微生物障害
2. スライムトラブル
3. ウエットパルプの発カビトラブル
4. 抄紙工程用添加剤の腐敗トラブル
第14章 抗菌グッズ
1. はじめに
2. 防菌の概念について定義する
3. 最近・カビの生物界における位置付け
4. 抗菌・抗カビ剤について
5. 無機系抗菌剤「バクテキラー」について
6. 抗菌・抗カビ剤の加工方法
7. 抗菌・防カビ性効果の評価
8. 市場に出回る抗菌製品
9. 最近の無機系抗菌剤についての動向
10. おわりに
第15章 食品保存料,防かび剤,殺菌剤
1. はじめに
2. 保存料
3. 防カビ剤
4. 殺菌料
5. おわりに
第16章 日持向上剤
1. はじめに
2. 日持向上剤
3. 化学的合成品の食品添加物
4. おわりに
第17章 化粧品・トイレタリー
1. 化粧品等に汎用の抗菌防黴剤
2. 化粧品への抗菌防黴剤の配合目的
3. 抗菌防黴剤の評価法
4. 殺菌剤の配合
第18章 ゴム,プラスチックフィルム
1. 概要
2. ゴム・プラスチック・フィルムの概要
3. 微生物との関係
4. 抗菌剤,防黴剤による微生物の防除
5. 抗菌剤,防黴剤
6. 薬事法,食品衛生法等との関係
7. おわりに
第19章 光学機器
1. はじめに
2. 光学機器のカビによる被害
3. 光学機器の抗菌防カビ技術
4. 光学薄膜による抗菌防カビ技術
5. 光学機器の抗菌防カビ技術の今後
第20章 畜産・水産用
1. はじめに
2. 畜産分野の消毒剤
3. 水産分野の防汚剤
第21章 環境殺菌剤
1. 微生物災害の現状
2. 主要環境殺菌剤の種類とその特性
3. 環境殺菌の一般的方法と留意点
4. 殺菌処理へのステップと環境殺菌の処方
5. 環境殺菌の今後の展望
[新技術トピックス編]
第22章 高圧殺菌
1. はじめに
2. 高圧処理装置
3. 高圧殺菌における温度および圧力の影響
4. 各種微生物に対する高圧殺菌効果
5. 高圧殺菌における共存物質の影響
6. 高圧殺菌効果の予測
7. 高圧殺菌と他の微生物制御手段の併用
8. 殺菌作用操作
9. 高圧殺菌の実用上の問題
第23章 電気殺菌の可能性
1. はじめに
2. 細胞の電極反応と殺菌への応用
3. 半導体微粒子を用いた殺菌
4. 水道水の殺菌への応用
5. 生物付着の電気化学的制御
6. おわりに
第24章 活性酸素発生による脱臭・殺菌技術
1. はじめに
2. オゾン酸化
3. 光触媒酸化
4. その他の方法
5. むすび
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