キーワード:
窓ガラス / スマートウィンドウ / 調光窓 / 断熱 / 遮熱 / 冷暖房負荷 / 省エネルギー / エレクトロクロミック / メタロ超分子ポリマー / 銀析出型EC素子 / ポリチオフェン / 遷移金属酸化物 / 車載 / 調光フィルム / 透明有機EL / 液晶 / 高分子分散型液晶 / PDLC / 太陽光 / サーモクロミック / フォトクロミック / 導電性高分子 / 遮熱フィルム / 二酸化バナジウム / VO2 / 三酸化タングステン / WO3 / ガスクロミック / 調光膜 / 調光ミラー
刊行にあたって
近年、新しい窓ガラスとして「スマートウィンドウ」が注目されています。スマートウィンドウとは、ブラインドやカーテンを用いることなく、光学的性質(透過、反射、色など)を可逆的に変化させることができる窓ガラスのことを指し、特に、その使用による建物や移動体における冷暖房負荷の低減効果に大きな期待が集まっています。
スマートウィンドウは、電流、電圧、温度といった物理的刺激で光学的性質を可逆的に可変することができる材料(クロモジェニック材料)を、ガラス表面にコーティングするか、ガラスの間に挟み込むことによって実現することができます。最も典型的なクロモジェニック材料(電流によって変化するエレクトロクロミック材料)である酸化タングステン薄膜を用いたデバイスが電気刺激により透明⇔濃青色に変化することが発見されたのは50年以上前になります。当初、表示素子への応用が期待されたエレクトロクロミック材料でしたが、その後発見された液晶に席巻されてしまいました。ところが、新たな応用先として、液晶には無いメモリー性を活用する調光窓ガラスが注目されると、盛んに研究が行われるようになり、2012年にはアメリカのベンチャー企業が政府の援助により大規模製造工場を建設し、建物用の窓として商品化が行われました。また、同じ頃、航空機ボーイング787の窓としても採用され、その後も、いくつかのメーカーからエレクトロクロミック窓が製品として販売されています。また、エレクトロクロミック方式以外のスマートウィンドウとして、温度によって自動的に変化するサーモクロミック窓などもアメリカで実用化され、建物に導入されています。
ただ、このように、いくつかのスマートウィンドウは既に実用化されていますが、当初の見通しと比較しても、まだ広く使用される状況には至っていません。その最も大きな要因はコストの高さにあると思われます。そのため、現在、このコストをはじめとする様々な課題を克服すべく、色々なスマートウィンドウ用材料の研究が行われています。本書では、日本におけるこの分野の研究が俯瞰できるように、実際の研究を行っておられる研究者の方々に紹介していただきました。
スマートウィンドウにはいくつかの種類がありますが、第2章では、電流による酸化・還元反応により状態が変化するエレクトロクロミック材料、第3章では、電場(電界)により状態が変化する液晶・配向性分子材料、第4章では温度・紫外線で変化するサーモクロミック材料とフォトクロミック材料、また第5章では、雰囲気ガスにより変化するガスクロミック材料を紹介しています。
また、スマートウィンドウで期待されている省エネルギー効果ですが、スマートウィンドウを用いることによる冷暖房負荷の低減効果はかなり複雑で、建築工学の知識が無いと十分に理解することができません。そこで、本書では第1章において、窓ガラスの省エネルギー性能が何によって決まるかについて詳しい説明を行いました。
終わりに、ご多忙のところ、貴重な時間をさいて執筆下さった専門家の先生方に深甚な謝意を申し上げるとともに、本書が、スマートウィンドウ開発における新たなイノベーションのきっかけになることを願ってやみません。
(国研)産業技術総合研究所
吉村和記
著者一覧
樋口昌芳 (国研)物質・材料研究機構
井上泰志 千葉工業大学
宇治 駿 千葉大学大学院
中村一希 千葉大学大学院
小林範久 千葉大学大学院
今榮一郎 広島大学
阿部良夫 北見工業大学
田嶌一樹 (国研)産業技術総合研究所
福井理晃 林テレンプ㈱
内田孝幸 東京工芸大学
氏家誠司 大分大学
馬場潤一 九州ナノテック光学㈱
那谷雅則 大分大学
荻原昭文 神戸市立工業高等専門学校
宇部 達 中央大学
池田富樹 中央大学
木下 基 埼玉工業大学
堀川真希 熊本県産業技術センター
永岡昭二 熊本県産業技術センター
沖村邦雄 東海大学
和田英男 大阪工業大学
岡田昌久 (国研)産業技術総合研究所
三宅正男 京都大学
股村雄也 京都大学
池之上卓己 京都大学
平藤哲司 京都大学
宮崎英敏 島根大学
殷 澍 東北大学
長谷川拓哉 東北大学
大川采久 東北大学
西澤かおり (国研)産業技術総合研究所
胡 致維 (国研)産業技術総合研究所
山田保誠 (国研)産業技術総合研究所
目次 + クリックで目次を表示
1 はじめに
2 窓ガラスのエネルギー性能
3 窓ガラスの断熱性能
4 窓ガラスの遮熱性能
5 日射熱取得率の実測
6 断熱・遮熱と冷暖房負荷
7 日射の方角依存性
8 遮熱が冷暖房負荷に与える効果
9 まとめ
第2章 エレクトロクロミック
1 メタロ超分子ポリマーを用いたエレクトロクロミック調光デバイスの開発
1.1 メタロ超分子ポリマー
1.2 ECデバイス
1.3 ECデバイスと他の調光デバイスの比較
1.4 他のEC材料に対するメタロ超分子ポリマーの優位性
1.5 まとめ
2 吸着誘起型エレクトロクロミック現象に対する電解質濃度および温度の影響
2.1 はじめに―吸着誘起型エレクトロクロミック(AiEC)現象とは
2.2 InN薄膜の作製法および評価法
2.3 結果と考察
2.3.1 作製したInN薄膜の微細構造と結晶性
2.3.2 AiEC応答特性に対する電解質濃度の影響
2.3.3 AiEC応答特性に対する電解質温度の影響
2.4 おわりに―将来の応用展開
3 銀析出型エレクトロクロミック素子の光学特性
3.1 はじめに
3.2 種々のエレクトロクロミック材料
3.3 銀析出型EC素子による透明・黒・鏡状態の発現
3.4 プラズモニック銀ナノ粒子の電解析出によるLSP帯制御型カラーEC素子の構築
3.5 おわりに
4 有機合成化学的な手法による有機エレクトロクロミック材料の色調制御
4.1 はじめに
4.2 置換基制御したポリチオフェン
4.3 分子量制御したポリチオフェン(オリゴチオフェン)
4.4 耐久性向上を目指したシロキサンネットワークの導入
4.5 おわりに
5 遷移金属酸化物薄膜のエレクトロクロミック特性とそのスパッタ成膜技術
5.1 はじめに
5.2 遷移金属酸化物のエレクトロクロミック特性
5.3 遷移金属酸化物薄膜のスパッタ成膜技術
5.4 デュアルモードECスマートウィンドウへの応用
5.5 まとめ
6 車載応用を指向する塗布型調光フィルムの社会実装研究
6.1 はじめに
6.2 自動車に流入する太陽エネルギーをコントロールするには?
6.3 塗布型調光デバイスの研究開発
6.4 おわりに
7 透明有機ELと透明電気化学素子を組み合わせたスマートウィンドウ
7.1 はじめに
7.2 スマートウィンドウ
7.3 透明有機EL素子
7.4 銀析出型透明電気化学素子の作製と評価
7.4.1 銀析出型透明電気化学素子
7.4.2 銀析出型透明電気化学素子の作製
7.4.3 銀ナノ粒子の特性
7.4.4 銀析出型透明電気化学素子の動作
7.4.5 銀ナノ粒子の粒径と吸収波長
7.4.6 銀析出型電気化学素子における直進反射と拡散反射
7.5 透明有機EL素子
7.5.1 透明有機EL
7.6 銀析出型透明電気化学素子と透明有機ELを組み合わせた素子
7.7 銀析出型電気化学素子を1/50の模型の窓に用いた遮熱の検討
7.8 おわりに
第3章 電場(液晶や配向性分子など)
1 スマートウインドウの研究開発と展開~液晶系調光デバイスを中心に~
1.1 はじめに
1.1.1 調光デバイスの種類
1.1.2 クロミックデバイス
1.1.3 高分子含有率による液晶系調光デバイスの分類
1.2 PDLC
1.2.1 PDLCの調光モード
1.2.2 PDLCの調整法
1.2.3 PIPS法
1.2.4 電気光学効果
1.3 PDLCへの無機ナノ粒子の導入
1.3.1 金属酸化物
1.3.2 金属単体
1.3.3 ナノ炭素材料
1.4 応用
1.4.1 自律制御型PDLC
1.4.2 視野角調整
1.4.3 コレステリック液晶を用いた機能拡張
1.5 結言
2 高分子分散型液晶(PDLC)の温度依存性を用いたスマートウィンドウ
2.1 はじめに
2.2 太陽光中のスペクトルの熱への影響
2.3 温度依存性を有する高分子分散型液晶
2.3.1 温度変化に伴う光変調原理
2.3.2 レーザ散乱光を用いたデバイス作製
2.3.3 分光透過率の温度依存性
2.3.4 変化による内部構造観察
2.4 まとめ
3 太陽光自律応答型スマートウィンドウ
3.1 はじめに
3.2 液晶材料における光による光透過スイッチング
3.2.1 光相転移
3.2.2 光照射によるキラルネマチック相のらせんピッチ変調
3.2.3 光熱効果
3.3 太陽光自律応答型スマートウィンドウ
3.4 おわりに
第4章 サーモクロミック・フォトクロミック
1 光や熱に応答する柔らかい調光材料
1.1 はじめに
1.2 色素を用いる液晶の配向変化と調光素子への応用
1.3 近赤外線を用いた調光材料
1.4 まとめ
2 導電化CNFとpNIPAMを併用した高速感温調光ガラスの開発
2.1 はじめに
2.2 遮熱・遮光材料
2.2.1 温度応答性材料を用いた遮光材料
2.3 合わせガラス中間層の設計
2.3.1 温度応答性材料およびそのLCSTの制御
2.3.2 CNFの選択と温度応答性高分子への配合
2.3.3 CNFの遮熱・調光ガラス中間層への配合効果
2.3.4 導電性高分子の配合
2.4 導電性高分子,PEDOT/硫酸化セルロースナノファイバー(s-CNF)
2.4.1 PEDOT/硫酸化セルロースナノファイバー(s-CNF)の特性
2.4.2 PEDOT/s-CNF配合の配合効果
2.4.3 PEDOT/s-CNFを配合した温度応答性遮光・調光ガラス
2.4.4 白色化速度の加速化
2.5 フィルム化
2.5.1 遮熱・調光フィルムの作成
2.5.2 遮熱・調光フィルムの特性
2.6 おわりに
3 相転移酸化物薄膜コーティングによる省エネルギー用スマートウィンドウ開発
3.1 はじめに
3.2 反応性スパッタ法によるVO2薄膜堆積方法とスマートウィンドウの性能評価法
3.2.1 基板バイアス印加反応性スパッタ法
3.2.2 酸化亜鉛バッファー層の堆積
3.3 作製した積層膜の基礎物性とスマートウィンドウ性能評価の結果
3.3.1 VO2/ZnO/glass積層膜の結晶性,IMT特性及び光学スイッチング特性
3.3.2 VO2/ZnO/glass積層膜のスマートウィンドウ性能評価
3.3.3 ZnOナノロッドバッファー導入による特性改善
3.4 光学設計に基づくSiO2反射防止膜堆積によるスマートウィンドウ性能の改善
3.4.1 光学シミュレーションによる性能予測
3.4.2 SiO2膜コーティング時の光学特性シミュレーション
3.4.3 SiO2/VO2/ZnO/glass 4層構造の光学特性とスマートウィンドウ性能評価結果
3.5 まとめ
4 MOD法(金属有機化合物分解法)を用いた二酸化バナジウム薄膜のサーモクロミックガラスへの応用
4.1 はじめに
4.2 MOD法による酸化バナジウム薄膜の作製
4.3 ガラス基板上へのVO2薄膜の作製と結晶性評価
4.4 サーモクロミックガラスの光学特性
4.5 HZOバッファ層形成による屈折率緩和と不純物拡散防止効果
4.6 FDTD法による熱放射抑制シミュレーション
4.7 近赤外線顕微カメラによる透過画像観察
5 二酸化バナジウムを用いたサーモクロミックシート
5.1 はじめに
5.2 VO2のサーモクロミズムと材料合成技術の概要
5.3 マイクロ波水熱法によるVO2(M)ナノ粒子の高速合成
5.4 VO2(M)ナノ粒子を用いたサーモクロミックシート
5.5 おわりに
6 スマートウィンドウに向けた二酸化バナジウム膜のミストCVD法による作製
6.1 はじめに
6.2 ミストCVD法
6.3 ミストCVD法によるVO2製膜
6.4 ミストCVDで得られたVO2膜の特性評価
6.5 おわりに
7 三酸化タングステンをベースとしたフォトクロミックスマートウインドウ
7.1 フォトクロミズムを利用したスマートウインドウ
7.2 WO3コーティングによるフォトクロミックスマートウインドウ
7.3 WO3ナノ粒子コンポジット膜によるフォトクロミックスマートウインドウ
7.4 WO3コンポジット膜の太陽光下でのフォトクロミックスマートウインドウ特性
7.5 まとめ
8 スマートウィンドウ用インジウムフリー機能性ナノ材料の創製
8.1 はじめに
8.2 サーモクロミック機能VO2ナノ粒子の創製と機能評価
8.2.1 ハロゲン元素をドープしたVO2
8.2.2 カチオンドープと複合イオン共ドープVO2
8.3 混合原子価状態タングステンブロンズ物質群(MxWO3)及びタングステン酸化物(W18O49)の合成と赤外線遮蔽機能
8.4 結言
第5章 ガスクロミック
1 酸化タングステン薄膜を用いたガスクロミック素子の開発
1.1 はじめに
1.2 酸化タングステン薄膜を用いたガスクロミック調光膜の低温作製法の開発
1.3 常温・大気中で作製できる酸化タングステン薄膜を用いたガスクロミック調光膜
1.4 おわりに
2 有機材料と金属錯体材料を用いたガスクロミック素子の開発
2.1 はじめに
2.2 初めて開発された,有機導電性高分子を使ったガスクロミック調光膜
2.3 新規PB系金属錯体ガスクロミック調光膜の開発
3 調光ミラーの開発
3.1 調光ミラーとは
3.2 マグネシウム・イットリウム合金を調光層に用いた調光ミラー
3.2.1 光学特性とスイッチングに対する繰り返し耐久性のY組成依存性
3.2.2 透明時における光学特性の改善
3.2.3 調光ミラーの光学的・熱的性能
3.3 低コスト化の取り組み:調光ミラーのシート化と触媒層の改良
3.4 スイッチングシステム
3.5 まとめ
エレクトロクロミックデバイスの開発最前線
価格(税込): 71,500 円
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価格(税込): 58,300 円
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