キーワード:
マルチマテリアル/異種・異材接合/軽量化/金属/セラミックス/樹脂/ゴム/CFRP/自動車/電子部品/宇宙・航空機/産業機器/接着・接合/劣化/耐久性/標準化/評価/射出成形/レーザ接合/電子ビーム溶接/摩擦撹拌接合/スポット・アーク溶接/ろう付
刊行にあたって
近年、「マルチマテリアル」という言葉が製造産業において注目されている。これは異なる性質を有する材料を適材適所で組合せて、最大の材料パフォーマンスを得ようとする考え方、あるいは設計思想である。その代表的な適用対象として自動車がある。すなわち、地球温暖化防止や大気環境保全の観点から、自動車の排ガス規制が一段と強化され、燃費向上のためにも自動車車体の軽量化が急務となっている。
車体の軽量化の方法として、強度の高い高張力鋼を用いて薄板構造にする、あるいは鉄よりも軽い軽量金属材料であるアルミニウム合金やマグネシウム合金を使用する、さらに、より軽量化が期待できる樹脂材料や炭素繊維強化複合材料(CFRP)を利用するなどの方法が実用化の視野に入ってきている。しかし材料コストと製造コストを考慮すると、もはや単独材料での車体軽量化は実用的には困難な状況である。このために、これらの材料をうまく組合せて、軽量化と生産コストの両方の課題を同時に克服しようとするものが「マルチマテリアル」であり、自動車の車体軽量化においては特に注目されるキーワードとなっている。
しかし、この「マルチマテリアル」による軽量化を実現するためには、接合が困難な鉄とアルミニウム合金のような金属材料同士の異材接合のみならず、最近では、まったく材料構造が異なる金属と樹脂、あるいは金属とCFRPとの接合までもが要求されてきている。すなわち文字どおりの異種材料接合技術が必要とされてきているのである。
また、「マルチマテリアル」は、接合継手の機能として、現在特に注目されている軽量化のみならず、耐食性、耐熱性、低温靭性、耐摩耗性、電気伝導性、熱伝導性、電磁気特性など多様な材料機能を対象にできるものであり、今後の展開が大いに期待されている。
材料は、その基本構造から金属材料、高分子材料およびセラミックス材料に分類される。材料構造が基本的に異なるこれらの材料間の接合技術は、これまでごく一部の材料組合せで実用化されてきたものである。このため、「マルチマテリアル」の実用化のためには、異種材料間の接合技術に関して、接合方法、接合メカニズム、接合継手の機械的・化学的諸特性やその評価方法、ならびにこれらを考慮した構造設計などについて、新たにそのデータベースを構築し、技術開発を進めることが焦眉の急となっている。
本書は、異種材料接合技術について、接合メカニズムや評価法の基礎から、接合継手の作製方法の実際や継手特性に関して、最新のデータに基づいて、特に関心の高い金属/樹脂・CFRPの組合せを中心に、金属材料/高分子材料/セラミクス材料の組合せに関して、幅広い異種材料接合技術を、学術界ならびに産業界の専門家が、分かりやすく解説したものである。
異種材料接合技術を包括的に理解し、また実用技術として使いこなすためのに必要な知識を得るための最適の一冊であり、材料技術開発、ならびに生産技術開発に係わる研究者やエンジニアの方々などにご活用頂ければ、著者一同の喜びとするところである。
本書は2016年に『異種材料接合技術』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
中田一博 大阪大学名誉教授;大阪大学 井上雅博 群馬大学 立野昌義 工学院大学 早川伸哉 名古屋工業大学 佐藤千明 東京工業大学 塩山 務 バンドー化学㈱ 高橋正雄 大成プラス㈱ 林 知紀 メック㈱ 三瓶和久 ㈱タマリ工業 花井正博 多田電機㈱ 吉川利幸 多田電機㈱ 水戸岡 豊 岡山県工業技術センター | 日野 実 広島工業大学 前田知宏 輝創㈱ 望月章弘 ポリプラスチックス㈱ 永塚公彬 大阪大学 佐伯修平 ㈱電元社製作所 北本 和 ㈱電元社製作所 岩本善昭 ㈱電元社製作所 榎本正敏 ㈱WISE企画 瀬知啓久 鹿児島県工業技術センター 堀内 伸 (国研)産業技術総合研究所 鈴木靖昭 鈴木接着技術研究所 |
執筆者の所属表記は、2016年当時のものを使用しております。
目次 + クリックで目次を表示
第1章 接着・接合技術のための化学結合論
1 はじめに
2 化学結合とは何か
2.1 化学結合の概念
2.2 分子中の電荷分布に起因する化学結合の性質
2.3 金属結合のモデル化
3 2つの分子間に発生する化学的相互作用
3.1 van der Waals力
3.2 水素結合の形成
4 化学的相互作用を解析するための古典モデル
4.1 水素結合の古典的なモデル化
4.2 溶解度パラメータ
4.3 古典モデルの適用限界
5 分子軌道論に基づく界面結合形成の解析
5.1 酸・塩基仮説の考え方
5.2 分子軌道論に基づく界面相互作用の解析
5.3 電子の化学ポテンシャル
5.4 電子の化学ポテンシャルの微分による反応性指標の導入
5.5 フロンティア分子軌道論と酸・塩基仮説の比較
5.6 現実の系で界面電子移動が発現する条件
6 おわりに
第2章 異種材料接合界面の力学
1 はじめに
2 異種材料接合界面端近傍における力学的問題点
2.1 異材界面端近傍の応力
2.2 Dundursの複合パラメータ
2.3 特異応力場
3 セラミックス/金属接合体の引張り強度と破壊様式
3.1 接合体引張り強度および破壊様式に及ぼす接合処理温度の影響
3.2 接合体引張り強度に及ぼす接合界面端形状の影響
4 おわりに
第3章 金属と樹脂のレーザ接合における表面処理と接合強度
1 はじめに
2 レーザ接合の原理
2.1 熱可塑性樹脂のレーザ溶着
2.2 金属と樹脂のレーザ接合
2.3 接合面の到達温度
3 アルミニウムとアクリルの接合
3.1 金属接合面の前処理
3.1.1 サンドブラスト処理
3.1.2 陽極酸化処理
3.2 レーザ光吸収率
3.3 接合強度
3.4 接合面の観察
3.4.1 アルミニウムの接合面(接合前)
3.4.2 アクリルの接合面(接合後)
3.4.3 サンドブラストと陽極酸化の処理効果の比較
3.5 金属微細孔への樹脂の流入深さ
3.5.1 樹脂の流入深さと接合強度の関係
3.5.2 接合面内の温度分布と樹脂の流入深さの関係
4 チタンとアクリルの接合
5 おわりに
〔第2編 異種材料接合における技術開発〕
第1章 接着法
1 次世代自動車へのCFRPの適用と接着技術の課題
1.1 はじめに
1.2 現状における接着接合の車体構造への適用
1.2.1 スチール製車体の接着接合
1.2.2 アルミ製車体の接着接合
1.2.3 プラスチック材料の車体への適用と接着接合
1.2.4 複合材料の車体への適用と接着接合
1.3 今後の車体軽量化への取り組みと接着接合技術
1.3.1 マルチマテリアル化
1.3.2 組み立て工程への適合性
1.3.3 接着剤の硬化速度の問題
1.3.4 インプロセス塗装,アウトプロセス塗装への対応
1.3.5 接着技術にも求められる環境対応
1.4 おわりに
2 ゴムと金属の直接接着技術
2.1 はじめに
2.2 ゴム固有の問題
2.3 直接加硫接着技術
2.3.1 ブラスとゴムの直接加硫接着
2.3.2 亜鉛とゴムの直接加硫接着
2.4 今後の技術開発について
第2章 射出成形(インサート成形)による接合
1 異材質接合品への耐湿熱性能の付与
1.1 はじめに
1.2 NMT
1.3 新NMT
1.4 射出接合可能な樹脂
1.5 恒温恒湿試験
1.6 腐食による接合部の破壊
1.7 NMTへの耐湿熱性能の付与
1.8 アルミ以外の金属での湿熱性能
1.9 まとめ
2 粗化エッチングによる樹脂・金属接合
2.1 はじめに
2.2 アマルファ処理について
2.3 各種金属での粗化形状
2.4 インサート射出成形による接合強度測定サンプルの作成
2.5 インサート射出成形による接合強度測定結果
2.6 考察
第3章 高エネルギービーム接合
1 レーザ技術を用いたCFRP・金属の接合技術と今後の課題
1.1 はじめに
1.2 自動車の軽量化と材料の変遷
1.3 自動車構成材料のマルチマテリアル化と異材接合
1.4 樹脂材料のレーザ溶着技術
1.5 樹脂と金属のレーザ溶着技術
1.5.1 化学的な結合による方法
1.5.2 機械的な結合による方法
1.6 CFRPと金属材料の接合
1.6.1 CFRPの自動車部材への適用と課題
1.6.2 熱可塑性CFRTPの接合技術
1.7 今後の課題と展望
2 電子ビーム溶接による銅とアルミニウムなどの異種金属接合
2.1 はじめに
2.2 電子ビーム溶接法について
2.2.1 原理
2.2.2 特長
2.2.3 他工法との比較
2.2.4 適用用途
2.3 異種金属材料の溶接事例
2.3.1 銅-銅合金の接合事例
2.3.2 銅-アルミの接合事例
2.3.3 銅-ステンレスの接合事例
2.3.4 アルミ合金の溶接事例
2.4 電子ビーム溶接機について
2.5 現状の課題と今後の展望について
3 エラストマーからなるインサート材を用いた異種材料のレーザ接合技術
3.1 はじめに
3.2 インサート材を用いたレーザ接合
3.2.1 開発プロセスの特徴
3.2.2 プラスチックとの接合
3.2.3 金属との接合
3.2.4 他の異種材料接合プロセスとの違い
3.3 現在の取り組み
3.3.1 スマートフォンへの採用
3.3.2 様々な分野への拡がり
3.4 今後の展開
3.4.1 熱可塑性CFRPの接合
3.4.2 新たな接合の可能性
3.5 おわりに
4 インサート材を用いた異種材料のレーザ接合のための金属表面処理
4.1 はじめに
4.2 接着に適した金属表面の改質
4.2.1 熱可塑性エラストマーをインサートしたアルミニウム-プラスチックレーザ接合
4.2.2 接着性に優れたアルミニウム合金への陽極酸化処理
4.3 おわりに
5 ポジティブアンカー効果による金属とプラスチックの直接接合
5.1 はじめに
5.2 金属-プラスチック直接接合技術の概要
5.3 ポジティブアンカー効果による金属とプラスチックの接合
5.4 PMS処理
5.4.1 PMS処理概要
5.4.2 PMS処理方法
5.4.3 PMS処理条件
5.5 金属とプラスチックの接合
5.6 おわりに
6 樹脂表面へのレーザ処理による異種材料接合技術
6.1 緒言
6.2 AKI-Lock®の概要
6.3 AKI-Lock®の諸特性
6.3.1 接合強度
6.3.2 従来の接合技術とAKI-Lock®の接合強度比較
6.3.3 耐久性
6.3.4 かしめ,収縮による圧着効果
6.3.5 まとめ
6.4 結言
第4章 摩擦撹拌接合
1 摩擦攪拌接合による異種材料接合の展望
1.1 状態図から見た金属材料同士の異材接合の可能性評価
1.2 異材接合が可能となる接合界面構造
1.3 摩擦攪拌接合(FSW)法
1.4 FSWによる異材接合継手形成例
1.4.1 鉄/アルミニウム 異材接合
1.4.2 鉄/銅 異材接合
1.4.3 鉄/チタン 異材接合
1.4.4 アルミニウム/チタン 異材接合
1.4.5 アルミニウム/銅 異材接合
1.4.6 アルミニウム/マグネシウム 異材接合
1.4.7 マグネシウム/チタン 異材接合
1.4.8 鋳物・ダイカスト材と展伸材との異材接合
1.4.9 複合材料(粒子分散型アルミニウム基合金)と展伸材との異材接合
1.5 摩擦攪拌点接合FSSWによる異材接合
2 摩擦重ね接合法による金属と樹脂・CFRPの接合
2.1 はじめに
2.2 摩擦重ね接合
2.3 金属/樹脂の接合
2.3.1 Al合金/ポリアミド6の接合特性に及ぼすAl合金中のMg添加量の影響
2.3.2 鉄鋼材料/樹脂の接合に及ぼす樹脂中の極性官能基の影響
2.4 金属/CFRTPの接合
2.5 金属への表面処理が接合特性に及ぼす影響
2.6 ロボットFLJによる金属/CFRTPの接合
2.7 まとめ
第5章 その他の接合方法
1 シリーズ抵抗スポット溶接による金属とCFRPの接合
1.1 はじめに
1.2 シリーズ抵抗スポット溶接を用いた金属/樹脂・CFRPの接合
1.3 実験方法
1.4 実験結果および考察
1.5 まとめ
2 アルミニウムとチタンのアーク溶接
2.1 はじめに
2.2 異種金属材料接合の基本的な考え方
2.3 A6N01と純TiのTIG溶接
2.3.1 供試材および溶接条件
2.3.2 溶接結果
2.4 おわりに
3 レーザろう付による金属とセラミックス・ダイヤモンドの接合
3.1 はじめに
3.1.1 レーザろう付(レーザブレージング)とは
3.1.2 セラミックスと金属の異材接合
3.1.3 セラミックスと金属の異材接合へのレーザブレージングの応用
3.2 接合方法と装置の特徴
3.2.1 接合方法
3.2.2 装置の特徴
3.3 代表的な接合事例
3.3.1 SiC,サイアロンならびに単結晶ダイヤモンドと超硬合金への適用事例
3.3.2 界面反応層の生成状況とせん断強度
3.4 まとめ
〔第3編 評価〕
第1章 異種材料接合の国際標準化
1 背景
2 樹脂-金属接合界面特性評価方法の開発
2.1 引張り接合特性(突合わせ試験片)
2.2 せん断接合特性
2.3 剥離強度特性
2.4 樹脂-金属接合界面の封止特性評価
2.5 冷熱衝撃試験,高温高湿試験
2.6 疲労試験
3 国際標準化活動
第2章 異種材料接合部の耐久性評価と寿命予測法
1 アレニウスの式に基づいた温度による劣化および耐久性評価法
1.1 化学反応速度式と反応次数
1.2 濃度と反応速度および残存率との関係
1.3 材料の寿命の決定法
1.4 反応速度定数と温度との関係
1.5 アレニウス式を用いた寿命推定法
2 アイリングモデルによる機械的応力,湿度などのストレス負荷条件下の耐久性加速試験および寿命推定法
2.1 アイリングの式を用いた寿命推定法
2.2 アイリング式を用いた湿度に対する耐久性評価法
2.2.1 Lycoudesモデルによる寿命予測方法例
2.2.2 Lycoudesモデルによる寿命予測の具体例
2.3 Sustained Load Test
2.3.1 接着剤A(一液性120℃/1h硬化エポキシ系)の場合
2.3.2 接着剤F(二液性60℃/3h硬化エポキシ系)の場合
2.3.3 フィルム型接着剤(177℃ 加熱硬化 ノボラック・エポキシ系)の場合
3 ジューコフ(Zhurkov)の式を用いた応力下の継手の寿命推定法
3.1 ジューコフの式
3.2 ジューコフの式による接着継手のSustained Load Test結果の解析
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