キーワード:
熱電変換技術/未利用熱/電源/フレキシブル/有機材料/CNT/素子/モジュール/ゼーベック係数/パワーファクター/熱伝導率/電気伝導率/測定/スマートアクチュエータ・テキスタイル・ヘルスケア/ウェアラブルデバイス/エネルギーハーベスティング/IoT
刊行にあたって
近年、モノのインターネット(IoT)やインダストリー4.0という言葉をビジネスニュースでも頻繁に聞くようになっています。これらは元々情報技術の世界からの提案ですが、既存の技術の組み合わせですぐにでも実現できそうなシステムから、情報の入り口としての新たなセンサーデバイスの開発を待たなければならないシステムまで、様々なものが考えられています。特に後者では、これまでに何も情報的機能を持たなかったモノや人体などに小規模電子回路を取り付けることになります。本格的に実世界の膨大な情報を集めるためには、新たに大量に設置される小規模電子回路を動作させるための電源をどうするかが問題になってきます。
その有効な解のひとつがエナジーハーベスティング技術です。使用環境に存在する光や熱や振動などの未利用エネルギーからその場で発電することによって、電源配線や電池を不要とするものです。これによって、電池交換の手間を省くことができるだけでなく、例えば10年間回路を動作させるために必要な電力を蓄えた電池による体積増や重量増を避けることができるという利点もあります。このような背景から、様々なエナジーハーベスティング技術とともに熱電変換、特にフレキシブルで軽量な熱電変換素子の研究も世界的に盛んになってきています。
熱電変換素子には、19世紀前半の有名なオームの実験に使われたことでもわかるように、100年以上の長い歴史があります。しかし、有機あるいは有機無機ハイブリッド材料を中心とするフレキシブル熱電変換素子に向けた研究が盛んになってきてからまだ10年経っておらず、本書「フレキシブル熱電変換材料の開発と応用」も、まだ研究途上の新材料や新技術が多数掲載されています。このようなホットな内容をお届けすることで、少しでも多くの研究者の方々に、フレキシブル熱電変換素子を世に送り出す研究に参加して頂く一助となれば幸いです。
なお、多忙な業務の合間をぬって本書の執筆にご参加頂いた第一線の研究者の皆様に厚く御礼を申し上げます。
奈良先端科学技術大学院大学
中村雅一
本書は2017年に『フレキシブル熱電変換材料の開発と応用』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
中村雅一 奈良先端科学技術大学院大学 戸嶋直樹 山口東京理科大学名誉教授 石田敬雄 (国研)産業技術総合研究所 町田 洋 東京工業大学 井澤公一 東京工業大学 小島広孝 奈良先端科学技術大学院大学 林 大介 首都大学東京 客野 遥 神奈川大学 中井祐介 首都大学東京 真庭 豊 首都大学東京 野々口斐之 奈良先端科学技術大学院大学;(国研)科学技術振興機構 河合 壯 奈良先端科学技術大学院大学 堀家匠平 神戸大学 石田謙司 神戸大学 宮崎康次 九州工業大学 末森浩司 (国研)産業技術総合研究所 小矢野幹夫 北陸先端科学技術大学院大学 | 荒木圭一 ㈱KRI 伊藤光洋 古河電気工業㈱ 桐原和大 (国研)産業技術総合研究所 中本 剛 愛媛大学 仲林裕司 北陸先端科学技術大学院大学 向田雅一 (国研)産業技術総合研究所 塚本 修 NETZSCH Japan㈱ 池内賢朗 アドバンス理工㈱ 橋本寿正 ㈱アイフェイズ 馬場貴弘 ㈱ピコサーム 関本祐紀 奈良先端科学技術大学院大学 竹内敬治 ㈱NTTデータ経営研究所 青合利明 千葉大学 中島祐樹 九州大学 藤ヶ谷剛彦 九州大学 桂 誠一郎 慶應義塾大学 |
執筆者の所属表記は、2017年当時のものを使用しております。
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第1章 有機系熱電変換材料研究の歴史と現状、そして展望
1 はじめに
2 有機熱電変換材料の特徴
2.1 物理学的視点
2.2 化学的視点
2.3 生物学的視点
2.4 工学的視点
3 導電性高分子を用いる有機熱電材料の研究
4 導電性ポリアニリンの熱電性能の改善
5 高電導度の導電性高分子の熱電変換材料
6 有機系ハイブリッド熱電材料の研究
7 CNTを含む三元系ハイブリッド有機熱電材料
8 まとめと将来展望
第2章 フレキシブル熱電変換技術に関わる基本原理と材料開発指針
1 はじめに
2 熱電変換素子の基本構造とエネルギー変換効率
3 ゼーベック係数を表す一般式およびゼーベック係数と導電率の相反性
4 ゼーベック係数の様々な近似式
5 フレキシブル熱電変換素子特有の条件
【第Ⅱ編 性能向上を目指した材料開発】
第1章 フレキシブル熱電変換素子に向けた有機熱電材料の広範囲探索
1 はじめに
2 有機熱電材料の広範囲探索結果
3 有望な材料系についての考察
第2章 高い熱電変換性能を示す導電性高分子:PEDOT系材料について
1 序
2 PEDOT系の合成,薄膜化技術
3 PEDOT系熱電材料の性能
4 おわりに
第3章 有機強相関材料における巨大ゼーベック効果
第4章 有機半導体材料における巨大ゼーベック効果
1 はじめに
2 巨大ゼーベック効果の発見
3 巨大ゼーベック効果の一般性
4 巨大ゼーベック効果の有用性
5 分子配向と巨大ゼーベック効果
6 基準振動解析
7 格子熱伝導率
8 おわりに
第5章 カーボンナノチューブのゼーベック効果
1 はじめに
2 ゼーベック効果と熱電変換素子
3 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)
4 SWCNTのゼーベック係数(計算)
4.1 半導体型(s-)と金属型SWCNT(m-SWCNT)のゼーベック係数
4.2 直径依存性(1本のSWCNT)
4.3 SWCNT-SWCNT接合の効果
4.4 m-SWCNTとs-SWCNTの混合
4.5 並列混合モデルの直径依存性
5 フィルムの熱電物性(測定)
6 最後に
第6章 カーボンナノチューブ熱電材料の超分子ドーピングによる高性能化
1 はじめに
2 ドーピングの重要性
3 ホスフィン誘導体を用いたn型カーボンナノチューブ
4 クラウンエーテル錯体を用いたn型カーボンナノチューブ
5 まとめ
第7章 有機強誘電体との界面形成に基づくカーボンナノチューブ熱電材料の極性制御
1 はじめに
2 カーボンナノチューブ熱電材料の極性制御手法
3 電界効果型ドーピングにおける有機強誘電体の利用
4 SWCNT/P(VDF/TrFE)積層素子の作製と熱電変換特性
5 π型モジュールの構築
6 おわりに
第8章 タンパク質単分子接合を用いたカーボンナノチューブ熱電材料の高性能化
1 はじめ
2 目指す接合構造とその作成法
3 タンパク質単分子接合による熱電特性の向上効果
4 おわりに
第9章 印刷できる有機-無機ハイブリッド熱電材料
1 はじめに
2 印刷の取り組み
3 ナノ粒子を用いた熱電薄膜
4 PEDOT:PSS-Bi2Te3コンポジット熱電
5 有機-無機材料界面の熱抵抗
6 まとめ
【第Ⅲ編 モジュール開発】
第1章 フレキシブルなフィルム基板上に印刷可能な熱電変換素子
1 はじめに
2 ユニレグ型フレキシブル熱電変換素子
3 まとめ
第2章 インクジェットを活用したBi-Te系フレキシブル熱電モジュールの開発
1 はじめに
2 Bi-Te系熱電インクの開発とインクジェット熱電モジュール
3 Bi-Te系熱電インクを用いたナノバルクの作製と高性能化
4 おわりに
第3章 π型構造を有するフレキシブル熱電変換素子
1 はじめに
2 フレキシブル熱電変換素子とは
3 ナノ粒子の合成
4 インク化
5 薄膜の作製~カレンダ処理
6 π型フレキシブル熱電変換素子の作製
7 ファブリックモジュール
8 まとめと今後の展望
第4章 カーボンナノチューブ紡績糸を用いた布状熱電変換素子
1 はじめに
2 布状熱電変換素子の構造
3 ウェットスピニング法によるCNT紡糸法概要
4 CNT分散法の検討
5 バインダーポリマー量の検討
6 CNT紡績糸のn型ドーピング
7 CNT紡績糸への縞状ドーピングによる布状熱電変換素子の試作と評価
8 おわりに
第5章 導電性高分子を用いた繊維複合化熱電モジュール
1 はじめに
2 繊維複合化PEDOT:PSS素子の作製と構造
3 繊維複合化PEDOT:PSS素子の物性
4 繊維複合化PEDOT:PSS素子の熱電出力の試算と最適化
5 素子と電極の実効的な接触抵抗の低減
6 繊維複合化素子で作製したモジュールによる熱電発電
7 おわりに
【第Ⅳ編 材料特性評価】
第1章 マイクロプローブ法を用いた熱電変換材料のゼーベック係数測定法の開発
1 はじめに
2 ゼーベック係数測定法
2.1 NagyとTóthの方法
2.2 定常法と微分法
3 マイクロプローブ法によるゼーベック係数測定装置
4 マイクロプローブ法を用いたゼーベック係数の分布測定
4.1 亜鉛-アンチモン系熱電変換材料
4.2 ビスマス-テルル系熱電変換材料
5 今後の展望と課題
第2章 異方性を考慮した有機系熱電材料の特性評価法
1 はじめに
2 有機熱電材料の評価
2.1 有機熱電材料について
2.2 PEDOT/PSSについて
2.2.1 構造異方性とその評価手法
2.2.2 異方性を考慮した特性評価結果
2.3 キャリア評価手法について
2.4 異方性を考慮した熱電モジュールデザイン
3 おわりに
第3章 SBA458 Nemesis(R)によるゼーベック係数測定とフラッシュアナライザーLFA467 HyperFlash(R)による熱拡散率・熱伝導率評価
1 はじめに
2 ゼーベック係数測定装置について
2.1 NETZSCH社製ゼーベック係数・電気伝導率測定システムSBA458 Nemesis(R)について
2.2 SBA458 Nemesis(R)でのゼーベック係数(S)の測定原理
2.3 SBA458 Nemesis(R)での電気伝導率(σ)の測定
2.4 SBA458 Nemesis(R)による熱電変換材料の測定事例
3 フラッシュ法による有機薄膜の熱拡散率・熱伝導率測定
3.1 フラッシュ法による薄膜試料の熱拡散率・熱伝導率測定
3.2 面内方向における熱拡散率・熱伝導率の評価
4 おわりに
第4章 熱電計測に関わる総括とフレキシブル材料への応用
1 はじめに
2 試料厚さと測定法
2.1 ゼーベック係数と電気抵抗率
2.2 熱伝導率
3 薄板試料の測定法
3.1 面内方向のゼーベック係数と電気抵抗率
3.2 光交流法を用いた熱拡散率評価
4 おわりに
第5章 温度波熱分析法による熱伝導率・熱拡散率の迅速測定
1 はじめに
2 熱物性と温度波法
2.1 熱物性
2.2 熱拡散方程式
2.3 熱拡散長・熱的に厚い条件と薄い条件
3 実際の装置
3.1 測定システム
3.2 温度波の位相変化から熱拡散率を求める方法
3.3 温度依存性
3.4 振幅の減衰から熱伝導率を測定する方法
3.5 交流型熱電能を求める方法
4 まとめ
第6章 パルス光加熱サーモリフレクタンス法による熱物性値の測定
1 はじめに
2 光パルス加熱法
3 レーザーフラッシュ法
4 パルス光加熱サーモリフレクタンス法
5 ピコ秒サーモリフレクタンス法
6 ナノ秒サーモリフレクタンス法
7 応答関数法
8 界面熱抵抗の測定
9 まとめ
第7章 3ω法による糸状試料の熱伝導率評価
1 はじめに
2 3ω法の概要
3 3ω法の測定原理
4 3ω法による熱伝導率測定例
5 おわりに
【第Ⅴ編 応用展開】
第1章 エネルギーハーベスティングの現状とフレキシブル熱電変換技術に期待されること
1 はじめに
2 エネルギーハーベスティング技術の概要
2.1 様々なエネルギーハーベスティング技術
2.2 光エネルギー利用技術
2.3 力学的エネルギー利用技術
2.4 熱エネルギー利用技術
2.5 電波エネルギー利用技術
2.6 その他のエネルギー利用技術
2.7 関連技術
3 エネルギーハーベスティング技術の市場動向
3.1 昔からあるエネルギーハーベスティング製品
3.2 スタンドアロン製品からIoT応用へ
3.3 IoT分野への熱電発電デバイスの活用
4 フレキシブル熱電変換技術に期待されること
4.1 熱電変換技術全般への期待
4.2 フレキシブル熱電変換技術への期待
第2章 フレキシブル熱電変換技術の応用展開と技術課題
1 はじめに
2 有機系熱電変換材料
2.1 導電性ポリマー系熱電材料
2.2 有機無機ハイブリッド系熱電材料
2.3 CNTコンポジット系熱電材料
3 フレキシブル熱電変換モジュールの構造
3.1 π型モジュール
3.2 Uni-Leg型モジュール
3.3 Planar型モジュール
3.4 In-Plane型モジュール
4 フレキシブル熱電モジュールの応用展開
4.1 センサネットワークにおける中低温排熱利用の微小自立電源
4.2 エネルギーハーベスタを目指した富士フイルムの有機熱電変換モジュール
4.3 健康社会実現に向けた体温利用のヘルスモニター電源
5 今後に向けたフレキシブル熱電モジュールの技術課題
5.1 有機系熱電材料の課題
5.2 フレキシブルモジュールの課題
第3章 「未利用熱エネルギー革新的活用技術」プロジェクトにおける有機系熱電変換技術への期待
1 序
2 プロジェクト内における有機系熱電材料の目指す応用出口,研究内容について
3 有機系熱電材料の性能について
4 有機系材料のための計測技術開発
5 おわりに
第4章 大気下安定n型カーボンナノチューブ熱電材料の探索
1 緒言
2 単層CNTシートのn型化
3 n型単層CNTシートの大気安定化
4 最後に
第5章 温熱感覚を呈示するフレキシブルな熱電変換デバイス「サーモフィルム」
1 はじめに
2 「サーモフィルム」
3 「サーモフィルム」によるヒューマンインタフェースの応用イメージ
4 フレキシブル熱電変換材料が拓くイノベーション
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