キーワード:
二酸化炭素/カーボンニュートラル燃料/e-fuel/メタノール/分離膜/再エネ水素/CO2水素化/メタノール合成触媒/合成燃料/FT合成/固体酸化物形電解セル/SOEC/航空燃料/SAF/モビリティー/船舶燃料/自動車用燃料/熱機関/エンジンシステム
刊行にあたって
現代の人間生活には石油由来のエネルギーや資源が必要不可欠である。一方,地球温暖化抑制に向けてCO2の実質排出量ゼロを目指すには化石資源の利用を段階的に制限していく必要がある。つまり,これまで石油に依存していた燃料を今後はカーボンニュートラルな方法で製造する燃料に置き換える必要がある。自然界から得られるエネルギーには太陽光,風力,水力,地熱,潮汐力などがある。CO2の排出がないという点では核エネルギーも同様である。これらのエネルギーはそのまま生活に使えるわけではなく,主に電力に変換して利用している。では,私たちの生活は電力があれば良いかというとそうではない。電力は同時同量の原則,電線供給が不可避というエネルギーの貯蔵・輸送方法に欠点がある。したがって,エネルギーを安定供給するためには,電気エネルギーを貯蔵・輸送できる化学物質に変換して,利用したいときに使えるような技術の開発・導入が必要である。電力から容易に変換できる化学物質に水素がある。水素は水の電気分解により効率的に製造できる。これからの社会は水素エネルギー社会と言われる所以である。しかし,水素は常温・常圧で気体であり,水素を高密度に貯蔵・輸送するには超高圧・極低温にする必要がある。したがって,水素は長時間の貯蔵には不向きである。そこで,これを常温・常圧で長期に貯蔵が可能な液体燃料に変換することが望ましい。そのためには空気中に約0.04%含まれるCO2を炭素源として利用する。CO2を回収して水素と化合させて常温・常圧で液体のアルコールや炭化水素に変換してしまえば,燃焼時に排出したCO2をまた燃料の一部として利用できる。これで自然のエネルギーを液体燃料に変換したことになる。ここまで変換できれば,これまでの社会基盤やモビリティーを大きく変更せずにこれまでの生活を継続することができる。特に,電力系統と接続できない航空機,船舶,自動車の燃料をカーボンニュートラル化するためには,このような取り組みが必要である。
本書では電力(水素)とCO2を利用してメタノール,炭化水素を製造する技術とそれらをモビリティーへ適用する取り組みについて,それぞれの専門家の立場で解説していただいた。現在,多くの産業でカーボンニュートラルに向けた取り組みを検討されていると思う。本書がその取り組みの一助になれば幸いである。
成蹊大学 理工学部 教授
里川重夫
著者一覧
里川重夫 成蹊大学 古野志健男 ㈱SOKEN 柴田善朗 (一財)日本エネルギー経済研究所 澤村健一 イーセップ㈱ 岡﨑あづさ 東洋エンジニアリング㈱ 松川将治 三菱ガス化学㈱ 姫田雄一郎 (国研)産業技術総合研究所 多田昌平 北海道大学 森 大和 北海道大学 岡崎未奈 茨城大学 菊地隆司 北海道大学 室井髙城 アイシーラボ 細野恭生 千代田化工建設㈱ | 梶田琢也 ENEOS㈱ 杉浦行寛 ENEOS㈱ 田中洋平 (国研)産業技術総合研究所 鎌田博之 ㈱IHI 寺井 聡 東洋エンジニアリング㈱ 西脇文男 武蔵野大学 岡本憲一 (一財)カーボンニュートラル燃料技術センター 田中光太郎 茨城大学 川野大輔 大阪産業大学 中原真也 愛媛大学 田口真一 ㈱商船三井 杉浦公彦 マンエナジーソリューションズ ジャパン㈱ 矢野貴久 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構 |
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1 カーボンニュートラル燃料の定義,種類,課題,必要性
1.1 はじめに
1.2 カーボンニュートラル燃料の種類,課題
1.2.1 e‒fuel
1.2.2 バイオマス燃料
1.3 カーボンニュートラル燃料の必要性
1.3.1 既販車のCO2低減
1.3.2 航空機のCO2低減
1.3.3 モビリティの航続距離とインフラ活用
1.3.4 日本の2050年CN達成の必須条件
1.4 おわりに
2 e‒fuelに求められる視点
2.1 はじめに
2.2 e‒fuelのメカニズム
2.3 社会実装に求められる制度
2.3.1 ‶e‒fuel=水素派生物″という基本原理に基づいた制度設計の必要性
2.3.2 ブルー水素からのe‒fuel製造が陥る自己矛盾の罠
2.4 将来のエネルギーシステムや産業構造を踏まえた議論
2.5 おわりに
第2章 e-メタノールの動向
1 CO2を原料としたメタノール製造技術の最前線
1.1 はじめに
1.2 メタノール合成用分離膜の開発動向
1.3 メンブレンリアクターの可能性と今後の展望
2 再生可能エネルギー由来の水素とCO2からのメタノール製造
2.1 はじめに
2.2 メタノールの需要と日本における位置づけ
2.2.1 メタノールの需要
2.2.2 日本における位置づけ
2.3 再エネ水素とCO2からのメタノールの合成方法
2.3.1 天然ガスからのメタノール合成方法との違い
2.3.2 メタノール合成反応器
2.3.3 再エネ由来の水素を使用する場合の課題
2.4 おわりに
3 環境循環型メタノールの現状と今後の展望
3.1 はじめに
3.2 メタノールとは
3.2.1 化学品
3.2.2 燃料,エネルギー
3.3 カーボンニュートラル社会に向けて
3.4 環境循環型メタノール
3.4.1 環境循環型メタノールCarbopathTM
3.4.2 環境循環型メタノールに関わる技術
3.5 おわりに
4 CO2からのメタノール合成の課題と新規触媒開発
4.1 緒言
4.2 CO2水素によるメタノール合成の熱力学
4.3 従来のメタノール合成触媒
4.4 錯体触媒を用いるCO2水素化によるメタノール合成
4.5 低温メタノール合成のための触媒設計
4.6 まとめ
5 CO2水素化反応によるメタノール合成に特化した触媒開発の動向
5.1 はじめに
5.2 これまでの触媒探索と反応機構
5.2.1 Cu触媒
5.2.2 Pd触媒
5.3 非晶質ZrO2を活用したメタノール合成触媒
5.4 おわりに
第3章 e‒fuelの動向
1 合成液体燃料製造触媒技術の動向
1.1 はじめに
1.2 合成液体燃料の製造法と触媒
1.3 MTGプロセス
1.4 ATJ(アルコールto Jet Fuel)
1.4.1 エタノールから航空燃料(ETJ)
1.4.2 メタノールから航空燃料(MTJ)
1.5 FT合成
1.5.1 FT合成の特徴
1.5.2 FT合成触媒
1.5.3 触媒劣化
1.5.4 触媒再生
1.6 小型FT合成装置
1.6.1 CANS反応器
1.6.2 マイクロチャネル反応器
1.7 Direct FT合成
1.7.1 Greyrock Energy社
1.7.2 GTI Energy
2 CO2原料合成液体燃料製造のサプライチェーンと持続可能性
2.1 はじめに
2.2 合成液体燃料の必要性とサプライチェーンの概要
2.2.1 合成液体燃料の必要性
2.2.2 合成燃料サプライチェーン
2.3 合成燃料製造のサプライチェーンの要素技術
2.3.1 水素/CO2供給
2.3.2 合成燃料製造
2.4 トータルシステムとしての持続可能性と事業性
2.4.1 エネルギー効率視点
2.4.2 炭素強度視点
2.4.3 経済性視点
2.5 技術開発・事業化動向と今後の展開
3 CO2を原料とした直接FT合成の研究開発
3.1 FT合成とは
3.2 直接FTについて
3.3 直接FT触媒の開発状況
3.3.1 鉄系触媒
3.3.2 コバルト系触媒
4 固体酸化物形電解セルを用いた液体合成燃料製造プロセス
4.1 はじめに
4.2 SOECを用いた液体合成燃料製造プロセスの特徴
4.3 液体合成燃料製造効率の向上
4.4 SOEC共電解性能評価手法と性能測定例
4.5 SOEC性能予測手法の開発
4.6 おわりに
5 PtLによるCO2を原料とした持続可能な航空燃料(SAF)の合成技術
5.1 はじめに
5.2 CO2を原料とした液体炭化水素の合成
5.3 CO2直接水素化触媒およびプロセスの開発
5.4 今後の展望
6 FT合成技術を中心としたSAF製造技術と今後の展開
6.1 はじめに
6.2 FT合成技術
6.2.1 FT合成技術概要
6.2.2 FT合成反応器
6.3 持続可能な合成ガス製造技術
6.3.1 ガス化技術を用いた合成ガス製造
6.3.2 水とCO2を原料とする合成ガス製造
6.4 おわりに
第4章 CO2由来液体燃料のモビリティーへの展開
1 「e‒fuel」はモビリティー脱炭素化の切り札となるか?
1.1 はじめに
1.2 次世代自動車燃料e‒fuel
1.2.1 自動車脱炭素化とe‒fuel
1.2.2 e‒fuelの開発・実用化で先行するドイツ
1.2.3 日本の取り組み
1.2.4 世界初のe‒fuel商業生産を目指すチリのHARU ONIプロジェクト
1.3 次世代船舶燃料アンモニアとメタノール
1.3.1 海運の脱炭素化
1.3.2 次世代船舶燃料の種類と特徴
1.3.3 欧州海運業界の取組み
1.3.4 日本はアンモニアを本命に
1.4 次世代航空燃料SAF
1.4.1 航空部門の脱炭素化
1.4.2 SAFの利用状況と将来需要見通し
1.4.3 SAFの利用と供給拡大に向けた規制と支援策
1.5 課題と展望
1.5.1 e‒fuelはカーボンニュートラルか?
1.5.2 e‒fuel製造コストはどこまで下がる?
1.6 おわりに~日本が取り組むべき施策
2 液体合成燃料e‒fuelの自動車用燃料への利用に向けた取り組み
2.1 はじめに
2.1.1 合成燃料の導入促進に向けた国内の取り組み
2.2 市販合成燃料の品質調査
2.2.1 調査燃料
2.2.2 調査方法
2.2.3 調査結果
2.3 FT合成燃料の自動車用燃料への適合化検討
2.3.1 FT合成による液体合成燃料の製造について
2.3.2 合成粗油の品質評価
2.3.3 燃料規格適合化のためのアップグレード検討
2.3.4 アップグレードによるFT合成ガソリンとFT合成軽油の燃料規格適合化検討
2.4 まとめ
2.4.1 調査結果
2.4.2 FT合成燃料の自動車用燃料への適合化検討
3 熱機関での利用を考慮したCO2と水素から再生可能エネルギーを用いて合成する合成燃料
3.1 はじめに
3.2 熱機関に必要な燃料
3.3 CO2と水素から合成する合成燃料
3.4 まとめ
4 e‒fuelの燃料性状を生かしたエンジンシステムの構築への取り組み
4.1 まえがき
4.2 解析対象の機関
4.3 数値解析手法
4.3.1 1Dシミュレーション
4.3.2 3Dシミュレーション
4.3.3 1D・3Dシミュレーションによる連携計算
4.3.4 燃料のサロゲートモデルの作成
4.4 軽油とFT燃料の燃焼特性の比較
4.5 FT燃料の燃焼特性に対するEGRの効果
4.6 FT燃料の燃焼特性に対するLIVCの効果
4.7 EGRとLIVCの併用によるFT燃料の燃焼改善効果
4.8 まとめ
5 e‒fuelの専燃・混燃の燃焼制御技術の開発
5.1 e‒fuelの専燃
5.2 e‒fuelの混燃
6 船舶への代替燃料導入に対する取組み
6.1 要旨
6.2 国際海運の特殊性,国際海運におけるCO2排出量の現状
6.2.1 国際海運の特徴とGHG削減推進の枠組み
6.2.2 地域における規制導入の動き
6.3 国際海運のCO2削減への取り組み
6.3.1 CO2排出量削減の3つの要素
6.3.2 国際海運の代替燃料転換の取り組み(LNG燃料・メタノール燃料・アンモニア・水素への転換)
6.3.3 主な多国間,並びに経済団体の動き
6.4 代替燃料候補の評価ポイント・主な課題
6.4.1 代替燃料候補の評価ポイント
6.4.2 代替燃料ごとの主な課題(生産・供給体制の確保に向けての海運以外の需要セクターの重要性)
6.5 船舶への代替燃料導入の課題
6.5.1 船舶燃料転換に必要なインフラ投資額
6.5.2 エネルギー産業・港湾との協業,価格差を埋める経済的手法と規制の重要性
6.5.3 結びとして:クリーン代替燃料の想定価格を踏まえたトランジション・マネジメントの重要性
7 低・脱炭素燃料に対応する機関開発への取組み
7.1 はじめに
7.2 二元燃料機関の普及度
7.3 2ストローク船舶用燃料供給方式・燃焼方式
7.3.1 燃料供給方式・燃焼方式
7.4 将来の船舶用燃料としてのアンモニアに関する考察
7.4.1 物性
7.4.2 アンモニア燃料の課題と利点
7.4.3 アンモニア焚機関の開発スケジュール
7.4.4 グリーンアンモニア生産への移行
7.5 アンモニア焚二元燃料機関の開発
7.5.1 アンモニア焚機関の基礎
7.5.2 燃料供給システムに関する考慮事項
7.5.3 排出削減技術
7.6 日本におけるアンモニア焚二元燃料機関搭載船プロジェクト
7.7 バイオ燃料
7.7.1 脂肪酸メチルエステル(FAME)とそのブレンド
7.7.2 水素化処理植物油(HVO)
7.7.3 バイオ燃料の課題とその影響
7.8 レトロフィット
7.9 まとめと展望
8 SAFを中心とした次世代燃料生産技術開発動向
8.1 はじめに
8.2 SAF導入の背景と規格・認証制度
8.2.1 SAF導入の国際動向
8.2.2 ASTM D7566規格
8.2.3 CORSIA認証
8.3 SAFの製造と原料調達
8.3.1 SAFのパスウェイの俯瞰図
8.3.2 SAF製造量の拡大見通しの検討例
8.3.3 製造プロセスの例
8.3.4 原料調達
8.4 おわりに
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