キーワード:
マイクロ・ナノバブル/分離/殺菌・洗浄/ナノ粒子分散系/ミセル・ベシクル/ナノエマルション/乳化/脂質酸化/マイクロ・ナノカプセル化/穀類微粉細化/特性解析/ナノスケール評価/食品素材評価/規制動向/抗酸化/免疫/フードナノテクノロジー
刊行にあたって
ナノテクノロジーというと、材料やエレクトロニクス、医療などの分野が連想され易い。しかし、食品の分野でも深い関心が寄せられており、研究開発や商品化も着実に進んでいる。
平成14~18年度に農林水産省のプロジェクト「生物機能の革新的利用のためのナノテクノロジー・材料技術の開発」が、さらに平成19~23年度に「食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発」が推進された。その成果が、第2期の中間報告の形で、2009年に㈱シーエムシー出版より「フードナノテクノロジー」として出版された。その後も研究は継続され、新たな知見が蓄積されてきた。
このような進展を受け、上記のプロジェクトに参画した研究者に、さらに新たな執筆者を加えて本書を企画した、本書は5章よりなる。第1章から第3章は、分散相がそれぞれ気体、液体および固体の場合を扱っている。主に、第1章はナノバブル、第2章はエマルション、第3章は穀物の微粒子を取り上げている。第4章はナノスケール系を計測または評価する方法を紹介する。さらに、第5章では、規制や動向、技術の各方面からフードナノテクノロジーを取り巻く状況を解説した。
ナノスケールという独立した世界があるわけではない。マイクロからダウンサイズ、またはピコからアップサイズした世界がナノの世界であり、広いスケールでの現象の理解からナノの世界の特徴が理解できる。そのような観点から、前著の巻頭言に書かれているように、食品の分野では「数ナノメートル~数マイクロメートルの範囲で対象物や装置の物理構造を制御することで機能性・利用性を高めたシステムであって、マイクロエンジニアリングを含むもの」をナノテクノロジーと解釈している。したがって、本著はナノメートルのオーダーに限定せず、もう少し広い範囲を取り扱い、ナノの特徴を抽出しようとしている。
フードナノテクノロジーは、まだまだ進歩の途上であり、そのような時期に著書としてまとめることが時宜を得ているかは悩んだところである。しかし、上述した平成14年度のプロジェクトの開始から10年余を経過したこの時期に、一度立ち止まって前途を展望し、さらなる進展を期すことができればと思った次第である。読者のみなさまにも同様の視点でお読みいただき、忌憚のないご意見などをお寄せいただければ幸いである。
2013年10月
京都大学 安達修二、筑波大学 中嶋光敏、(独)農業・食品産業技術総合研究機構 杉山 滋
本書は2013年に『食品素材のナノ加工を支える技術』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
安達修二 京都大学 中嶋光敏 筑波大学 杉山 滋 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 中村宣貴 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 椎名武夫 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 大下誠一 東京大学 市川創作 筑波大学 黒岩 崇 東京都市大学 王 政 筑波大学 中川究也 京都大学 合谷祥一 香川大学 吉井英文 香川大学 四日洋和 香川大学 Neoh TzeLoon 香川大学 古田 武 鳥取大学 小林 功 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 | 関 実 千葉大学 北村義明 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 堀金 彰 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 岡留博司 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 松村康生 京都大学 松宮健太郎 京都大学 清水直人 北海道大学 火原彰秀 東京工業大学 塚本和己 茨城県立医療大学 行弘文子 (独)農業生物資源研究所 田畑 仁 東京大学 佐藤記一 群馬大学 立川雅司 茨城大学 松尾真紀子 東京大学 稲熊隆博 帝塚山大学 小倉孝太 ㈱スギノマシン |
執筆者の所属表記は、2013年当時のものを使用しております。
目次 + クリックで目次を表示
1 マイクロ・ナノバブル水の作製と利用
1.1 はじめに
1.2 MNBの作製条件と作製されるMNBの特性
1.2.1 製造方法のバブルの物性への影響
1.2.2 添加剤のMNBの作製および物性への影響
1.2.3 食品製造などにおけるMNBの可能性
1.3 食品関連分野におけるMNB利用技術の開発動向
1.3.1 溶存酸素濃度の管理
1.3.2 分離・分解
1.3.3 殺菌・洗浄
1.4 おわりに
2 ナノバブル水の動的特性と生体への影響
2.1 はじめに
2.2 ナノバブルの安定性
2.3 ゼータ電位,粒径分布および動的特性
2.3.1 バブルのゼータ電位と粒径分布
2.3.2 バブル水の動的特性
2.4 生体への影響
2.5 おわりに
第2章 ナノ粒子分散系の作製と特性
1 ミセル,ベシクルの作製
1.1 はじめに
1.2 ミセル,逆ミセル,マイクロエマルション
1.3 ベシクル
1.4 ミセル,マイクロエマルション,ベシクルの食品関連分野への利用
1.5 おわりに
2 ナノエマルションの調製法
2.1 はじめに
2.2 ナノエマルションの調製法
2.2.1 高圧乳化
2.2.2 転相乳化法
2.2.3 液中乾燥法
2.2.4 溶媒置換法
2.2.5 自己組織化
2.3 乳化安定性
2.4 おわりに
3 凍結を利用してナノカプセル・ナノ粒子の特性を制御する技術
3.1 はじめに
3.2 ナノ粒子・ナノカプセル製造に関わるプロセス工学的課題
3.3 凍結を利用した微粒子作製の提案
3.4 凍結を利用したナノ粒子作製の実施例
3.4.1 カゼインの自己凝集ナノ粒子
3.4.2 ゼラチン-アカシアガム複合コアセルベーションを利用したコアシェル型ナノ粒子
3.5 おわりに
4 状態図を活用したナノエマルションの調製
4.1 調製方法概論
4.2 状態図を活用した界面化学的乳化法によるナノエマルション作成
4.2.1 緒言
4.2.2 試料および方法
4.2.3 状態図
5 エマルション系での脂質酸化に及ぼす油滴径の影響
5.1 緒言
5.2 バルク系での脂質酸化動力学
5.2.1 脂質の酸化過程を記述する速度式
5.2.2 脂質酸化における酸素との化学量論
5.2.3 混合系での脂質酸化
5.3 O/Wエマルション系における脂質酸化
5.3.1 界面での酸素の移動が律速となる油滴径
5.3.2 ナノ粒子化による酸化安定性の向上
5.4 粉末化系における脂質酸化
5.4.1 脂質の粉末化
5.4.2 粉末化脂質の酸化過程の特徴
5.4.3 表面油率に及ぼす油滴径の影響
5.5 結言
6 食品機能成分のマイクロ・ナノカプセル化技術
6.1 はじめに
6.2 機能性成分粉末化の意義と粉末化手法
6.3 噴霧乾燥による油脂,食品フレーバー粉末の作製
6.3.1 乳化オイルの噴霧乾燥
6.3.2 表面オイルと包括オイル
6.3.3 エマルションサイズが粉末内の機能性物質の安定性に及ぼす影響
7 マイクロチャネル乳化・ナノチャネル乳化
7.1 はじめに
7.2 マイクロチャネル乳化
7.2.1 マイクロチャネルアレイ基板
7.2.2 マイクロチャネル乳化装置
7.2.3 マイクロチャネル乳化特性
7.2.4 単分散食品用マイクロ・ナノ分散系の作製
7.3 ナノチャネル乳化
7.4 おわりに
8 マイクロ流体システムを利用した微粒子の分級
8.1 はじめに
8.2 微粒子の分離・分級
8.3 マイクロ流体デバイスを用いた微粒子分離法
8.4 ピンチド流路を用いた粒子の分級(PFF法)
8.5 粒子の濃縮・分級(HDF法)
8.6 おわりに
第3章 粉体の微粒子化と特性
1 穀類の微粉細技術とその利用
1.1 はじめに
1.2 穀類を微粉化する利点
1.3 ナノスケール加工の臼式製粉技術の開発
1.3.1 低温製粉装置の開発
1.3.2 微細全粒粉の粉体特性
1.3.3 表面研削装置の開発
1.3.4 低温微細製粉法による穀類全粒粉を原料とする高付加価値加工品の開発
1.4 今後の課題と展開
2 澱粉系素材のマイクロ・ナノスケール粉砕とその特性
2.1 はじめに
2.2 ジェットミル等による米のマイクロ・ナノスケール粉砕について
2.3 乾式粉砕したマイクロスケール米粉の特性について
2.4 微粉砕による澱粉素材の特性変化について
2.5 おわりに
3 微粒子の特性解析
3.1 はじめに
3.2 様々なサイズの米粉の特性解析
3.3 市販米粉の加熱および微細化によるコロイド特性の変化
3.4 米粉の乳化系への応用
3.5 まとめと今後の展望
4 微粉砕穀物の特性と利用
4.1 はじめに
4.2 米デンプン:多様性,構造と特性
4.3 超遠心粉砕機による玄米のクラリオ微粉末化とその素過程の解析
4.4 酸─エタノール処理米デンプンのマイクロプロセッシング
4.5 おわりに
第4章 食品素材のナノスケール評価
1 マイクロ・ナノ空間の物性
1.1 マイクロ・ナノ空間と分子の数
1.2 マイクロ・ナノ流体へのサイズ効果1
1.3 マイクロ・ナノ流体へのサイズ効果2
1.4 まとめ
2 ナノ粒子分散系の光散乱計測
2.1 光散乱の原理
2.2 静的光散乱法
2.3 レーザー回折・散乱法
2.4 動的光散乱法
2.5 電気泳動光散乱法
2.6 おわりに
3 走査型プローブ顕微鏡による食品のナノスケール観察
3.1 はじめに
3.2 脂質のAFM観察
3.3 澱粉内部微細構造のAFM観察
3.3.1 澱粉について
3.3.2 樹脂法埋切片作製時におけるアーティファクトの評価
3.3.3 トウモロコシ澱粉内部構造のAFM観察
3.4 おわりに
4 電子顕微鏡技術による食品ナノスケール観察
4.1 はじめに
4.2 透過型電子顕微鏡
4.2.1 薄切法
4.2.2 フリーズフラクチャー法(凍結割断レプリカ法)
4.2.3 ネガティブ染色法
4.2.4 クライオ透過型電子顕微鏡
4.3 透過型電子顕微鏡によるナノ分散系の観察
4.4 おわりに
5 熱レンズ顕微鏡によるナノ粒子分析法
5.1 はじめに
5.2 吸光法・蛍光法・光熱変換分光法の感度
5.3 熱レンズ顕微鏡の原理と装置
5.4 熱レンズ顕微鏡による分析例
6 テラヘルツ分光法による食品評価
6.1 はじめに
6.2 テラヘルツ分光とは
6.3 適用事例
6.3.1 糖─レクチン特異結合の直接(非蛍光修飾)検出
6.3.2 水和状態の評価Ⅰ:ゼラチンのゾル─ゲル転移
6.3.3 水和状態の評価Ⅱ:生体関連分子の水和状態
6.3.4 食品分野への応用
6.4 まとめと今後の展望
7 食品素材評価のためのマイクロ人体モデルの開発
7.1 はじめに
7.1.1 培養細胞を用いたバイオアッセイ
7.1.2 マイクロチップ
7.1.3 マイクロバイオアッセイ
7.2 バイオアベイラビリティを考慮に入れたバイオアッセイチップ
7.2.1 消化器モデル
7.2.2 腸管吸収モデル
7.2.3 肝臓モデル
7.2.4 消化吸収代謝の複合モデル
7.3 循環器マイクロモデル
7.4 おわりに
第5章 フードナノテクノロジーの現状と期待
1 フードナノテクをめぐる規制の国際動向:米欧を中心に
1.1 はじめに
1.2 国際機関による取り組み:FAO/WHO,OECD
1.3 アメリカにおける規制動向とその特徴
1.3.1 FDAによるナノテク・タスクフォース
1.3.2 定義および表示に関して
1.3.3 新技術の規制に関する基本原則
1.4 EUにおける規制動向とその特徴
1.4.1 食品添加物規則,新規食品規則,食品情報規則
1.4.2 欧州食品安全機関における検討
1.5 リスク・ガバナンス上の課題
2 食品加工におけるナノテク(動向と期待)─高齢社会と食品─
2.1 はじめに(高齢社会と健康)
2.2 食への期待(健康長寿でいるために)
2.3 食品加工としてナノテクへの期待
2.3.1 タンパク質の摂取(3食でいいのか─間食の重要性)
2.3.2 抗酸化力の向上
2.3.3 免疫力の向上
2.4 最後に(高齢社会のために)
3 フードナノテクを支える技術(フードナノ素材とその製法)
3.1 はじめに
3.2 ウォータージェット技術を利用した微細化法
3.3 BiNFi-sの物性
3.3.1 BiNFi-sのラインナップと形状
3.3.2 BiNFi-sの安全性
3.3.3 BiNFi-sセルロースの粘度特性
3.4 BiNFi-sの効能
3.4.1 BiNFi-sの分散安定性および乳化安定性
3.4.2 BiNFi-sの保水性および保形性
3.4.3 実際の応用事例
3.5 おわりに
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