キーワード:
撥水性/親水性/超撥水性/超親水性/ぬれ性/動的接触角/表面微細構造/陽極酸化/ナノインプリント/シリカ粒子/自己組織化/光誘起/ポリマーブラシ/非熱プラズマ/液相法/フッ素系/フッ素フリー/多孔体/表面処理/コーティング/防汚/高耐久性/バイオミメティクス/環境負荷低減/評価
刊行にあたって
生物は40 億年にわたる進化の過程で,過酷な自然環境,生存競争を生き抜くために必要不可欠な機能を,表面の微細構造とぬれ性を最適化することにより獲得してきた。例えば,ハスの葉の超はっ水性・セルフクリーニング機能,アメンボの水面を歩く能力,砂漠に生息するゴミムシダマシの水捕集機能,魚の鱗やカタツムリの殻の防汚機能,ウツボカズラ捕虫器内壁の高滑落性などが挙げられる。生物は再生可能エネルギーと地球上にふんだんに存在する安価で環境負荷の低いユビキタス(汎用)元素を使い,常温・常圧という極めて温和な条件下,生物独自のボトムアップ型の自己組織化プロセスにより表面微細構造を構築しているのに対し,人類のものづくりの手法は,レアメタル,化石燃料,有機フッ素化合物,高温・高圧,トップダウン型プロセスに依存しており,両者のパラダイムは全く異なる。生物が実証してきた自然と調和した低環境負荷なものづくりプロセスを手本にすることで,人類が直面している資源・環境問題の解決と持続的に発展できる社会の構築が可能になるのではないだろうか。
生物が生み出す多くの有益な機能の中で,“ぬれ”(はっ水・はつ油・親水性)は,我々の日常生活で大変馴染みの深い物理化学現象の一つである。我が国では,1990 年代からハスの葉を模倣した超はっ水性に関する研究が盛んに行われてきた(今では完全に中国に水を開けられている)。21 世紀に入り,世界的なバイオミメティクス(生物模倣技術)ブームの追い風を受け,超はっ水性に関連する論文は2004 年頃から急激に増加し,ここ数年を振り返っても,年間1000報を優に超える論文が発表されている。また,最近では,水だけでなく,油や有機溶剤のような低表面張力液体,マヨネーズのような粘性の高いエマルションに対してはつ液性(様々な液体をはじく性質)を示す表面や,曇りが生じず汚れが着きにくい親水性表面,氷雪あるいは海洋生物といった固体が付着しにくい表面の開発が世界中で進められており,この分野は大変な活況を呈している。
本書では,このように,現在,国際的に注目を集めている“ぬれ”をテーマとして取り上げ,ぬれに関する国内の最新の研究開発動向に焦点を当てた。はっ水・はつ油・親水性といった表面機能が発現する要因を物理的効果と化学的効果の大きく二つに分類し,産学官でご活躍の研究者の方々から,魅力的な機能を持つマテリアル/ 表面に関する数多くの最新の研究事例をご提供頂いた。内容も表面・界面科学の基礎的事柄から,表面処理/ コーティングといった実用的な応用研究と多岐にわたっている。本書は,ぬれについて初めて学ぶ学生のためだけでなく,実際の研究開発に従事している研究者,技術者の方々にも実用書として役立てて頂ける充実した内容となっている。(「はじめに」より)
著者一覧
矢嶋龍彦 埼玉工業大学
山内祥弘 (国研)物質・材料研究機構
内藤昌信 (国研)物質・材料研究機構
平井悠司 公立千歳科学技術大学
植村 駿 公立千歳科学技術大学
内田欣吾 龍谷大学
西村 涼 龍谷大学
横島 智 東京薬科大学
眞山博幸 旭川医科大学
菊地竜也 北海道大学
中島大希 北海道大学
近藤竜之介 北海道大学
鈴木亮輔 北海道大学
夏井俊悟 東北大学
井上 僚 ダイキン工業㈱
山口央基 ダイキン工業㈱
賀川みちる ダイキン工業㈱
柳下 崇 東京都立大学
石井大佑 名古屋工業大学
井須紀文 ㈱LIXIL
藤間卓也 東京都市大学
伊藤 匠 東京都市大学
石﨑貴裕 芝浦工業大学
藪 浩 東北大学
佐藤知哉 (国研)産業技術総合研究所
大久保雅章 大阪府立大学
中谷達行 山理科大学
酒井宗寿 茨城大学
石黒 斉 (地独)神奈川県立産業技術総合研究所
中島 章 東京工業大学
島本章弘 ウシオ電機㈱
金子宗平 日本ペイントホールディングス㈱
河村 剛 豊橋技術科学大学
松田厚範 豊橋技術科学大学
須賀健雄 早稲田大学
伊藤隆彦 ㈱フロロテクノロジー
鈴木一子 ㈱KRI
福井俊巳 ㈱KRI
米元篤史 日華化学㈱
金森主祥 京都大学
吉田直哉 工学院大学
浦田千尋 (国研)産業技術総合研究所
宮本知典 住友化学㈱
櫻井彩香 住友化学㈱
小林元康 工学院大学
目次 + クリックで目次を表示
1 表面のぬれ性の基礎知識
1.1 これまでのぬれ性の評価指標
1.2 固体表面のぬれを説明する理論
1.2.1 Youngの式
1.2.2 Dupréの式,Young-Dupréの式,Girifalco-Goodの式
1.2.3 Wenzelの式,Cassieの式,Cassie–Baxterの式
1.3 動的ぬれ性とその評価の重要性
1.3.1 動的(前進/後退)接触角,接触角ヒステリシス,転落/滑落角
1.3.2 最近の超はつ液性の定義
1.4 まとめ
2 近年の研究・開発動向
2.1 はじめに
2.2 表面の化学的性質と超ぬれ性
2.3 表面微細構造の利用
2.4 表面の微細構造と超撥水性~ダブルラフネス表面:ロータス効果のモデル
2.5 オムニフォビック表面~SLIPS
2.6 リキッドライク膜
第2章 表面微細構造を利用した撥水・撥油・親水化
1 ハリセンボンに発想を得た高耐久超撥水材料の開発
1.1 超撥水性を実現するには?
1.2 超撥水性材料の弱点と解決法とは?
1.3 高耐久な超撥水性材料:我々の戦略
1.3.1 序論
1.3.2 本材料の着眼点と作成方法
1.3.3 テトラポッド構造を超撥水材料に使う理論的裏付け
1.3.4 超撥水性材料の最適化
1.3.5 超撥水性の磨耗・切断耐性の評価
1.3.6 超撥水性の曲げ・捻れ耐性の評価
1.3.7 まとめ
1.4 超撥水性材料の今後の展望
2 加硫ゴムの微細加工とぬれ制御
2.1 はじめに
2.2 加硫ゴム表面への微細構造転写
2.3 加硫ゴム微細突起構造と表面ぬれ性
2.4 微細突起構造の延伸による再配列とぬれ性の制御
2.5 加硫ゴム微細構造の形状記憶効果
2.6 まとめ
3 シロアリの翅を模した二重ぬれ性をもつ表面構造の作成
3.1 はじめに
3.2 テングシロアリの翅の構造
3.3 DAEの結晶表面における光誘起形状変化
3.4 DAEの光誘起結晶成長で作成したテングシロアリの二重ぬれ性を再現した結晶膜
3.5 二重ぬれ性の理解
3.6 おわりに
4 陽極酸化によるアルミニウム表面のナノ構造制御と超親水性・超撥水性の発現
4.1 はじめに
4.2 ピロリン酸を用いたアルミニウムの陽極酸化
4.3 ナノファイバー形成アルミニウム表面の超親水性
4.4 自己組織化単分子膜の修飾による超撥水性の発現
4.5 超撥水アルミニウム表面における水滴の滑落性
4.6 おわりに
5 μm オーダーシリカ粒子を用いた高耐摩耗性超撥水コーティングの開発
5.1 はじめに
5.2 超撥水表面の作製技術
5.3 ダイキン工業における超撥水コーティングの開発
5.3.1 nm オーダーシリカ粒子の超撥水コーティング
5.3.2 熱硬化系コーティングへの転換
5.3.3 μm オーダーシリカ粒子による耐摩耗性改善
5.3.4 Blend系超撥水コーティングの検討
5.3.5 動的撥液性についての提唱
5.4 実用化に向けた機能性評価:着雪試験
5.5 まとめ
6 ナノインプリントプロセスによるナノ・マイクロ階層構造の形成と撥水特性評価
6.1 はじめに
6.2 陽極酸化ポーラスアルミナの作製とナノインプリントモールドへの適用
6.3 撥水表面への応用
6.4 おわりに
7 撥水性/吸着性制御による微小水滴のマニピュレーション
7.1 緒言
7.2 自己組織化ハニカム膜と超撥水性
7.2.1 自己組織化ハニカム膜
7.2.2 ハニカム膜の二次加工による超撥水表面
7.3 無電解めっきによる金属複合化
7.3.1 自己組織化ハニカム膜およびピラー構造化膜の金属複合化
7.3.2 ハニカム膜の金属複合化による吸着超撥水性
7.4 超撥水表面を利用した水滴操作
7.4.1 水滴吸着性の異なる超撥水表面を用いた微小水滴移動
7.4.2 吸着性の勾配をもつ超撥水表面を用いた微小水滴センサー
7.5 まとめと展望
8 住宅用セラミックスの防汚・抗菌表面処理技術
8.1 はじめに
8.2 水使用量と防汚技術による環境負荷低減
8.3 タイルの防汚技術
8.4 トイレの防汚技術
8.5 トイレの抗菌技術
8.5.1 抗菌の概念と抗菌性能試験法
8.5.2 抗菌剤としての銀
8.5.3 銀を用いた抗菌釉薬
8.5.4 抗菌釉薬中の銀の存在状態
8.6 おわりに
9 階層性ナノ多孔層によるガラスの超親水化と応用技術
9.1 はじめに
9.2 階層性ナノ多孔層ガラスの形成方法とガラス材料
9.3 超親水性の持続と構造的特徴
9.4 HNLガラスの応用技術
9.4.1 耐指紋特性への新しいアプローチ
9.4.2 HNL構造内への高分子充填
9.5 おわりに
10 マグネシウム合金の耐食性向上を目指した超撥水処理
10.1 はじめに
10.2 二段階プロセスによる超撥水処理
10.2.1 超撥水表面の作製方法
10.2.2 浸漬時間の影響
10.2.3 超撥水膜の化学的耐久性
10.2.4 超撥水マグネシウム合金の耐食性評価
10.3 一段階プロセスによる超撥水処理
10.3.1 超撥水表面の作製法
10.3.2 作製した表面の評価
10.3.3 超撥水表面の耐食性
10.4 おわりに
11 水滴を鋳型とした撥水・撥液・撥気泡材料の創製
11.1 はじめに
11.2 Breath Figure(BF)法によるハニカム多孔体の作製
11.3 超撥水表面への展開
11.4 超親水/撥油・撥気泡表面への展開
11.5 滑液性表面への展開
11.6 油滴による気泡の制御・プラストロンへの展開
11.7 まとめ
第3章 材料・表面の化学的効果を利用した撥水・撥油・親水化
1 親水性ポリマーを用いた多機能バイオミメティック表面の開発
1.1 はじめに
1.2 ポリマーブラシを用いたぬれ性制御技術
1.2.1 ポリマーブラシ
1.2.2 ポリマーブラシの合成法
1.2.3 ポリマーブラシの大面積合成を可能にする新規重合開始層
1.2.4 ポリマーブラシによるぬれ性制御
1.3 生物の多機能性に学んだ自己修復型バイオミメティック皮膜
1.3.1 超親水性ヒドロゲル皮膜
1.3.2 超親水性ヒドロゲル皮膜の多機能性
1.4 おわりに
2 非熱プラズマを利用したガラス表面の親水性向上
2.1 はじめに
2.2 接触角の定義
2.3 APNPTを使用したガラスの表面処理改質技術
2.3.1 実験装置ならびに方法
2.3.2 実験結果ならびに考察
2.4 非熱プラズマアクチュエータによるガラス表面の親水性の動的制御
2.4.1 非熱プラズマアクチュエータの原理
2.4.2 スライディング放電プラズマ
3 DLC被覆人工血管チューブ内壁の親水化処理技術
3.1 はじめに
3.2 医用チューブ内腔面へのDLC成膜法
3.3 DLCコーティングの物性評価
3.4 DLC表面の平滑性および親水性評価
3.5 DLC人工血管の生体内評価(in vivo)
3.6 バイオミメティックスDLCの創成技術
3.7 表面電位を持つDLCの血液適合性
3.8 おわりに
4 酸化チタン光触媒による光誘起超親水性コーティング
4.1 はじめに
4.2 材料由来の親水性とTiO2光触媒による光誘起超親水性のメカニズムの違い
4.2.1 OH基の存在によるぬれ性の向上
4.2.2 光誘起超親水性のメカニズム
4.2.3 光誘起超親水性の維持性
4.3 酸化チタン光触媒による光誘起超親水性コーティングの基礎的概念
4.4 酸化チタン光触媒による光誘起超親水性の応用展開
4.5 光誘起超親水性の性能向上を目指した取り組み
4.5.1 ヘテロポリ酸/ブルッカイト型酸化チタン積層構造による親水性維持性の向上
4.5.2 可視光応答化
4.6 まとめ
5 真空紫外光によるフッ素樹脂表面の親水化
5.1 真空紫外光によるプラスチック表面の親水化
5.2 フッ素樹脂表面の親水化
5.3 真空紫外光とエタノールによるPTFEの親水化
5.4 他の有機溶媒・フッ素樹脂を用いた処理
5.5 大面積処理への展望
5.6 フッ素樹脂表面の親水化以外への適用
5.7 おわりに
6 滑水性に優れる親水化処理剤の開発
6.1 はじめに
6.2 エアコン熱交換器向け親水化処理剤の開発動向
6.2.1 熱交換器向け親水化処理
6.2.2 暖房運転時の熱交換器への着霜問題
6.2.3 親水滑水化処理
6.3 親水滑水化処理剤サーフアルコート9340の親水滑水性
6.4 親水性材料と疎水性材料の分散性を向上させたSAT9340皮膜の親水滑水性
6.5 表面官能基の動きに着目した親水滑水性皮膜
6.6 おわりに
7 液相法による撥水・親水コーティングの作製と応用
7.1 緒言
7.2 様々な液相法で作製できる撥水・親水コーティング
7.2.1 交互積層法
7.2.2 ゾル-ゲル法
7.2.3 その他の方法
7.3 最近の研究例
7.4 結言
8 水中CO2捕捉に基づく親水性スマートコーティングへの展開
8.1 はじめに
8.2 微量CO2の捕捉による両性イオンのその場形成
8.3 ジアミン誘導体の水中でのCO2付加反応
8.4 中性子反射測定(NR)によるジアミンポリマーのCO2応答親水化挙動
8.5 まとめと将来展望
9 フッ素系コーティング剤による撥水・撥油コーティング
9.1 はじめに
9.2 フッ素系コーティング剤の概要
9.2.1 撥水撥油処理剤
9.2.2 保護・防湿コーティング剤
9.2.3 反応型撥水撥油コーティング剤
9.2.4 樹脂成形用金型離型剤
9.2.5 UV硬化型防汚コーティング剤
9.3 超撥水
9.3.1 超撥水表面の問題点
9.3.2 超撥水の適切な用途例
9.4 環境への配慮
10 ナノ相分離構造を導入した滑落性に優れるフッ素フリー撥水撥油材料の開発
10.1 はじめに
10.2 フッ素フリー撥水撥油材料の作製
10.3 フッ素フリー撥水撥油材料の特徴
10.3.1 ナノ相分離構造
10.3.2 機械特性
10.3.3 耐熱性
10.3.4 プライマリーフリーでの成膜性
10.4 まとめ
11 繊維用フッ素フリー撥水剤の開発
11.1 繊維用撥水剤の歴史
11.2 撥水原理と撥水剤の種類
11.3 ネオシード シリーズの特徴と性状
11.3.1 ネオシード シリーズの特徴
11.3.2 ネオシード シリーズの性状
11.4 従来品との性能比較
11.4.1 処理条件及び評価方法
11.4.2 性能評価結果
11.5 推奨処方
11.6 おわりに
12 シリコーン系モノリス状多孔体表面の撥水・撥油機能
12.1 はじめに
12.2 ゾル-ゲル法によるシリコーン系多孔体の作製
12.3 マシュマロゲルとその撥液性
12.4 ポリビニルアルコキシシランを用いた材料への拡張
12.5 おわりに
13 シランカップリング剤を用いた撥水性表面の作製と動的撥水性の評価
13.1 はじめに
13.2 シランカップリング剤を用いた撥水処理
13.2.1 アルキルシランによる撥水処理
13.2.2 フルオロアルキルシランによる撥水処理
13.2.3 反応性の比較
13.2.4 静的・動的撥水性とその制御因子
13.3 まとめおよび今後の展望
14 防汚性・難付着性に優れたナメクジ模倣ゲル:Self-Lubricating Gel(SLUG)
14.1 はじめに
14.2 ナメクジの体表から着想を得たSLUG
14.2.1 SLUGの設計と離漿
14.2.2 SLUGの難付着性
14.2.3 温度応答性SLUGと機能化
14.2.4 再生機能を有する超撥水表面への挑戦
14.3 まとめ
15 平滑で透明な撥水撥油コーティング剤の開発
15.1 はじめに
15.2 動的接触角に着目した撥水撥油コーティング剤の開発
15.2.1 動的な撥水・撥油性能発現の原理
15.2.2 SCSグレード
15.3 新規撥水撥油コーティング剤の開発
15.3.1 SFSグレード
15.3.2 SSSグレード
15.4 まとめ
16 ポリマーブラシによる水中防汚性表面の創製
16.1 はじめに
16.2 ポリマーブラシの調製
16.3 ブラシのぬれと防汚機構
16.4 バイオ界面における防汚
16.5 水処理膜
16.6 海洋性付着生物による汚損とその抑制
16.7 さいごに
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