刊行にあたって
光と物質の相互作用は多彩である。光および物質がきわめて広範な意味合いを持つからである。さらに,具体的な目的に適う材料は途方に暮れてしまうほど多種多様である。材料を冠した学術雑誌に掲載される投稿論文すべての内容に関心を持ち,理解することは至難の技である。実際に,アメリカ化学会発光の学術誌の編集委員が同じことを告白したことがあった。したがって,光機能性材料といっても,研究開発の目的,研究者の興味や立場などにより,切り口が異なることになる。
光機能性高分子材料に関する本シリーズは,1984年に出版された「光機能性高分子の合成と応用」が最初であった。その当時は,光化学反応によって引き起こされる高分子,すなわち,感光性樹脂の研究開発が活発であったが,高分子材料の溶解性に着目した感光性樹脂以外の光関連材料を取り上げることをその狙いとした。ついで,1988年に応用を主体とする続編「光機能性高分子材料の新展開」には,光の波動性を重視する見地から,新しい光機能性高分子材料とそれらの応用が取り上げられている。これらの出版物を現在読み直しても,優れた執筆者のおかげで古さを感ずることはない。折々の時代背景を振り返ることができるだけでなく,依然として重要な開発課題が多々あるし,あるいは,温故知新とでもいうべく,当時とは異なる視点からの発想が湧いてくる気もする・
本書では,これらの既刊内容を十分に考慮したうえで,素材,素子材料,応用に大別して構成した。第2章では光機能性素材が取り上げられているが,多分にナノテクノロジーを意識している。この章では低分子有機物質も取り上げられているので,本書の題目に「有機」という言葉が入れ込んである。第3章はデバイス材料という観点から構成されているが,これは光機能材料が実際に利用される形態としてデバイスまでの組み上げが重要となっている事実が背景にある。一方,第3,4および5章では,これまでとの重複をできるだけ避けるために,従来とは異なる視点から応用へアプローチするテーマを取り上げている。第6章では,いくつかの典型的な光反応性高分子が取り上げてられているが,それぞれについて最新の研究開発動向を重視した記述となっている。
多くの執筆者のご協力により,意図した以上に充実した内容になった。幅広い応用への期待が大きな光機能性有機高分子材料のさらなる発展の一助となれば幸甚である。
2002年7月 市村國広
著者一覧
横山 士吉 通信総合研究所 関西先端研究センター 主任研究員
関 隆広 名古屋大学 工学研究科 物質化学専攻 教授
中川 勝 東京工業大学 資源化学研究所 光機能化学部門 助手
笠井 均 東北大学 多元物質科学研究所 助手
及川 英俊 東北大学 多元物質科学研究所 助教授
中西 八郎 東北大学 多元物質科学研究所 教授
荒川 裕則 産業技術総合研究所 光反応制御研究センターセンター長
堀田 収 (財)産業創造研究所 柏研究所 主席研究員
安藤祐二郎 キヤノン(株) 技術教育推進センター
河田 憲 富士写真フイルム(株) 足柄研究所 研Y 主任研究員
川月 喜弘 姫路工業大学大学院 工学研究科 物質系 助教授
生方俊 理化学研究所 フロンティア研究システム 基礎科学特別研究員
松元 史朗 NTTエレクトロニクス(株) 技術開発本部 技術部長
玉置 信之 産業技術総合研究所 物質プロセス研究部門 機能分子化学グループ 研究グループ長
三田 文雄 京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 助教授
遠藤 剛 山形大学 工学部 機能高分子工学科 教授
有光 晃二 東京理科大学 理工学部 工業化学科 助手
喜多 信行 元 富士写真フイルム(株)
三澤 弘明 徳島大学大学院 工学研究科 エコシステム工学 専攻 教授
河田 聡 大阪大学大学院 情報科学研究科 教授・理化学研究所
川田 善正 静岡大学 工学部 機械工学科 助教授
山岡 亞夫 千葉大学 工学部 情報画像工学科 教授
宮川 信一 千葉大学 工学部 情報画像工学科 助手
上野 巧 日立化成工業(株) 総合研究所 主任研究員
松川 公洋 大阪市立工業研究所 プラスチック課 研究主任
松浦 幸仁 大阪市立工業研究所 プラスチック課 研究員
井上 弘 大阪市立工業研究所 プラスチック課 課長
山下 俊 東京理科大学 理工学部 工業化学科 助教授
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1.はじめに
2.光化学反応から見た光機能発現
2.1 偏向光化学
2.2 二光子光化学
3.媒体の高次構造と光機能発現
4.コマンダー・ソルジャー概念に基づく光機能発現
4.1 触媒増幅とトリガー増幅
4.2 2つのプロセスの連結
4.3 3つのプロセスの連結
4.4 コマンド増幅系各論
5.ハイブリッド化による光機能発現
5.1 用語
5.2 ミクロ相分離
5.3 超微粒子分散
5.4 超薄膜
6.おわりに
【第1編】 ナノ素材
第1章 光機能性デンドリマー
1.はじめに
2.デンドリマーの光エレクトロニクスへの応用
3.3次元フォトリソグラフィーにおけるデンドリマーの利用
4.おわりに
第2章 光応答性高分子単分子膜
1.はじめに
2.アゾベンゼン系Langmuir膜と光応答
2.1 アゾベンゼンを導入したポリペプチド
2.2 付加重合系側鎖型
2.3 ブロックコポリマー型
2.4 主鎖型導入型
2.5 デンドロンおよびデンドリマー型
3.顕微鏡による可視化観測
3.1 ブリュースター角顕微鏡(BAM)
3.2 原子間力顕微鏡
4.おわりに
第3章 光機能性自己組織化単分子膜(光機能性SAM)
1.はじめに
2.感紫外線シランカップリング剤
2.1 光化学反応の分類とその応用
2.2 共有結合の光解離反応(タイプA)
2.3 官能基変換反応(タイプB)
2.4 光異性化・光二量化反応(タイプC)
2.5 感紫外線シランカップリング剤による光機能性SAMの展望
3.水素結合・静電結合を利用した感光性吸着剤
3.1 水素結合型感光性吸着剤
3.2 静電結合型感光性吸着剤
4.おわりに
第4章 有機ナノ結晶と光機能
1.サイズ制御された有機ナノ結晶の作製
2.ジアセチレンナノ結晶の固相重合挙動の解明
3.有機系ナノ結晶特有のサイズ効果の発見
4.材料化に向けた有機のナノ結晶の高濃度集積薄膜の作製
5.光材料に向けた有機ナノ結晶分散液「液・晶」
6.有機ナノ結晶の金属とのハイブリッド化
【第2編】 光機能デバイス材料
第1章 色素増感太陽電池と材料
1.色素増感電池の構成材料と発電機構
2.半導体薄膜光電極
2.1 チタニア(TiO2)光電極
2.2 非チタニア系酸化物半導体薄膜光電極
3.色素
3.1 新規な高性能金属錯体色素の開発
3.2 有機色素を用いた色素増感太陽電池の研究開発
4.電解質
4.1 電解質溶液
4.2 電解質溶液の固体化および擬固体化
5.対極
6.実用化への検討
6.1 耐久性
6.2 セルの集積化技術
7.おわりに
第2章 有機ELデバイスと材料
1.はじめに
2.有機ELデバイスとそれに用いられる材料
2.1 単層デバイスと積層デバイス
2.2 超構造デバイス
2.3 ドープ型デバイス
3.有機ELデバイスの機能的バリエーション
4.有機ELデバイスに用いられる材料のバリエーション
5.おわりに
第3章 トナーディスプレイと材料
1.はじめに
2.歴史と市場性
3.他方式ディスプレイとの特徴比較
4.実現方式
4.1 カールソン方式電子写真記録
4.2 背面露光方式
4.3 感光体を使わない方式
4.4 電気泳動,磁気泳動,粒子移動法(固体中,空気中)など薄層に閉じ込められたトナーを用いる形式
5.カラー化
6.試作,商品化例
6.1 高精細(文書表示)ディスプレイ
6.2 大画面静止画ディスプレイ
7.おわりに
【第3編】 分子配向と光機能
第1章 ディスコティック液晶膜
1.はじめに
2.ディスコティック液晶の光学機能素材としての意義
3.ハイブリッド配向したディコティック液晶薄膜
4.ホメオトロピック(水平)配向したディスコティック液晶薄膜
5.ホモジニアス(垂直)配向したディスコティック液晶薄膜
6.垂直捩れ配向したディスコティック液晶薄膜
7.おわりに
第2章 液晶材料の光配向制御と光学素子材料の創製
1.はじめに
2.液晶光配向制御の開発動向
3.光分子配向の原理と機構
4.液晶配向の分子論
5.ネマチック液晶のチルト角光制御
6.さまざまな液晶系の光配向制御
6.1 高分子液
6.2 キラルネマチック(コレステリック) 液晶
6.3 ディコチック液晶の光配向制御
6.4 リオトロピック液晶の光配向制御
7.おわりに
第3章 光配向性高分子結晶
第4章 低露光駆動型の光表面のレリーフ形成材料
1.はじめに
2.表面レリーフグレーティング形成
2.1 ハイブリッド膜の表面レリーフグレーティングの形成挙動
2.2 ハイブリッド膜における高感度化
3.高感度化の要因
3.1 前露光
3.2 ハイブリッド化条件
4.おわりに
第5章 ナノサイズ液晶分散ポリマー
1.はじめに
2.ナノサイズ液晶ドロップレットによる光制御
3.ナノサイズ液晶ドロップレットの作製方法
4.ナノサイズ液晶ドロップレット分散ポリマーの特性
5.ナノサイズ液晶分散ポリマーの応用
6.おわりに
第6章 光機能性中分子液晶材料
1.はじめに
2.コレステリック液晶の分子配列と光学的特性
3.ガラス化するコレステリック液晶
4.中分子コレステリック液晶
5.溶液からのコーティングによるコレステリック固体薄膜の形成
6.中分子・高分子コレステリック液晶の反射色の可逆的光制御と固定
7.コレステリック液晶性中分子による熱記録
8.中分子コレステリック液晶の光記録特性
9.おわりに
【第4編】 光・熱ハイブリッド材料
第1章 光・熱潜在性カチオン・アニオン重合触媒
1.はじめに
2.オニウム塩系潜在性触媒
2.1 スルホニウム塩
2.2 ビリジニウム塩
2.3 アンモニウム塩
2.4 ホスホニウム塩
3.非塩系潜在性触媒
3.1 ヘミアセタールエステル
3.2 スルホン酸エステル
3.3 リン酸エステル
3.4 アミンイミド
3.5 リンイリド
4.おわりに
第2章 酸および塩基増殖反応とフォトポリマー
1.はじめに
2.酸増殖反応
3.酸増殖型フォトポリマー
4.酸増殖反応の他のフォトポリマーへの応用
5.塩基増殖反応
6.エポキシ樹脂の光アニオン硬化への応用
7.おわりに
第3章 ヒートモード刷版の最近の進歩
1.はじめに
2.ヒートモード刷版の分類
3.現像タイプサーマル
3.1 熱架橋型ネガサーマル
3.2 熱重合型ネガサーマル
3.3 溶解抑制解除型ポジサーマル
3.4 熱分解型ポジサーマル
3.5 水なしサーマル
4.無処理刷版
4.1 アブレーションタイプ
4.2 機上現像タイプ
4.3 極性変化タイプ
5.おわりに
【第5編】 多光子励起と光機能
第1章 3次元有機フォトニック結晶
1.はじめに
2.高分子微粒子の自己組織化による3次元フォトニック液晶の作製・評価
3.集光フェムト秒レーザー加工による紫外線硬化樹脂を用いたフォトニック結晶の作製・評価
4.多光束干渉によるフォトニック結晶の作製
5.おわりに
第2章 レーザー光重合によるナノ構造の作成
1.光とナノテクノロジー
2.近赤外フェムト秒レーザー
3.ミクロ構造の形成
4.レーザー光重合の応用
第3章 3次元超高密度光メモリー
1.はじめに
2.フェムト秒レーザーによる3次元記録
3.光メモリーによる2光子過程
4.フォトンモード記録媒体
5.フォトクロミック材料を用いた光メモリー
6.多層構造を有する記録媒体を用いた光メモリー
7.おわりに
【第6編】 新展開を目指して
第1章 高感度フォトポリマーの材料設計
1.はじめに
2.感度
3.フォトポリマーの基本的構造変化(記録機構)と高感度化
3.1 光重合
3.2 光架橋
3.3 光架橋切断
3.4 光分解
3.5 光モディフィケーション
3.6 化学増幅型レジスト
3.7 増幅の分類
4.高感度フォトポリマーの具体例
4.1 結晶マトリックス重合
4.2 反応場による高感度化
4.3 測鎖にN-フェニルグリシンを含むポリマー
4.4 感光性マイクロゲル
4.5 光2量化反応
4.6 ビニルエーテルによるポジ型フォトポリマー
5.レーザー走査記録とフォトポリマー
6.おわりに
第2章 半導体リソグラフィーとレジスト材料
1.はじめに
2.リソグラフィーの動向とレジスト
3.KrF(248nm)リソグラフィー用レジスト
4.ArF(193nm)リソグラフィー用レジスト
5.F2レーザー(157nm)リソグラフィー レジスト材料
6.EUV(Extreme UV:13nm)用レジスト
7.電子線レジスト
8.おわりに
第3章 光機能性有機無機ハイブリッド材料
1.はじめに
2.ポリシランーシリカハイブリッド薄膜の作製
3.ポリシランーシリカハイブリッド薄膜の光学特性
3.1 光吸収・発光特性
3.2 光分解性
3.3 屈折率変化
3.4 発光異方性
4.おわりに
第4章 感光性ポリイミド
1.はじめに
2.感光性ポリイミドの構造
3.ネガ型感光性ポリイミド
4.ポジ型感光性ポリイミド
5.最近の感光性ポリイミド
6.次世代ポリイミド
7.感光性ポリイミドの展望
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