キーワード:
日本のエネルギー/水素社会/シェールガス・石炭/光合成微生物/PSA法/低温熱化学/水熱分解/圧縮水素容器/アンモニア/水素ステーション/固体水素源型燃料電池/家庭用燃料電池/水素エンジン自動車/自動車用燃料電池/産業用燃料電池/水素火力発電所
刊行にあたって
現在、日本は東日本大震災の影響で国内の全ての原子力発電所が停止しており、在来型炭化水素を主体としたエネルギー構成となっている。一方で日本は総人口減少による国力低下等の多くの問題に直面している。これら国難を解決するため、日本の国力と英知を持って立ち上がる時である。日本は明治維新により急速に近代化を果たし、欧米諸国と肩を並べ、また第二次大戦で荒廃した国土を短期間で先進国に築き上げた過去の実績がある。
この国難を乗り越える推進力の要はエネルギーの安定供給で、震災前の日本は石油、石炭、天然ガスおよび原子力等でベストエネルギーミックスを構築して、繁栄を支えてきた。
日本が再び繁栄の道を進むために、既存の石油、石炭及び天然ガスのエネルギー効率の高度化および環境負荷低減を図り、次に新星のシェールガス・オイルを確保し、エネルギーミックスを早急に構築する。更に再生可能エネルギーの供給量、供給時期、経済性及び利便性を見極めて、水素社会の夜明け前の新ベストエネルギーミックスを具現化させる。
現在、世界の多くの人々は次世代の水素社会のイメージは持っているが、水素社会が人々の目の前に浮き彫りにされていないのが現状である。
本書では、日々の生活環境の視点でエネルギー計画の中での水素社会の様子を描いた。次に水素社会の要の水素を確保する方法として、石油、天然ガスおよび石炭等の在来型炭化水素からの水素製造方法及びシェールガス・オイル等の非在来型炭化水素からの水素製造方法を説明した。吸着分離プロセスを用いた水素精製についても述べた。クリーンな水素を確保する将来技術として水の電気分解、バイオマスからの水素製造方法を説明した。
また、水素のインフラ整備に関し、貯蔵技術では水素タンクの構造・運用、運送技術ではアンモニアの活用、水素ステーションの構造・運用等を述べ、水素の応用技術では産業用・家庭用燃料電池、固体水素源燃料電池および燃料電池自動車の現状や将来を述べ、将来の水素火力発電、水素エンジン自動車を予想した。
今回の国難を吉と捉え、日本の輝ける未来の要のエネルギーである水素エネルギーで水素社会を構築し、日本が主役となって世界の持続可能な発展を牽引する時である。
水素社会は夢の世界でなく、人類の視野に入ってきた次世代社会であることを本書のまとめとした。
(本書「まえがき」より)
本書は2014年に『水素エネルギーの開発と応用』として刊行されました。普及版の刊行にあたり、内容は当時のままであり、加筆・訂正などの手は加えておりませんので、ご了承ください。
著者一覧
橘川武郎 一橋大学 幾島賢治 愛媛大学 幾島嘉浩 IHテクノロジー㈱ 幾島將貴 IHテクノロジー㈱ 朝倉隆晃 大阪ガス㈱ 池田耕一郎 大阪ガス㈱ 清水 翼 大阪ガス㈱ 東 隆行 ㈱KRI 原田道昭 (一財)石炭エネルギーセンター 林 石英 (一財)石炭エネルギーセンター 内田正之 東洋エンジニアリング㈱ 若山 樹 国際石油開発帝石㈱ 藤本和之 ㈱エア・ウォーター総合開発研究所 宮岡裕樹 広島大学 郷右近展之 新潟大学 児玉竜也 新潟大学 | 高野俊夫 JFEコンテイナー㈱ 小島由継 広島大学 荒島裕信 ㈱日本製鋼所 伊藤秀明 ㈱日本製鋼所 垣見裕司 垣見油化㈱ 平尾一之 京都大学 永嶋浩二 京都大学 ビスバル ヘイディ 京都大学 石坂 整 アクアフェアリー㈱ 神澤 公 ローム㈱ 三浦 弘 ローム㈱ 池松正樹 JX日鉱日石リサーチ㈱ 首藤登志夫 首都大学東京 金子哲也 ㈱野村総合研究所 氏家 孝 富士電機㈱ 幾島宗津(世津子) 裏千家茶人 |
執筆者の所属表記は、2014年発行当時のものを使用しております。
目次 + クリックで目次を表示
第1章 日本のエネルギー展望
1 水素の重要性に言及した新「エネルギー基本計画」
2 「木を見て森を見ず」
3 「元に戻る再稼動」ではなく「減り始める再稼動」
4 2030年の原発依存度は15%程度か
5 リアルでポジティブな原発のたたみ方
6 なぜ「リアル」さと「ポジティブ」さにこだわるのか
7 原発からの出口戦略
第2章 水素社会とは
1 背景
2 現状の水素の用途および製造
3 水素社会に向けての動向
3.1 家庭用燃料電池
3.2 燃料電池自動車
3.2.1 自動車の概要
3.2.2 水素ステーション
3.3 水素火力発電所
第Ⅱ編 製造編
第3章 シェールガスからの水素製造
1 シェールガスの概説
1.1 シェールガスの新掘削技術
1.1.1 水平掘削
1.1.2 水圧破砕
1.1.3 水銀除去
1.2 シェールガスの現状
1.2.1 埋蔵地域
1.2.2 市場動向
2 シェールガスからの水素製造
2.1 水蒸気改質
2.2 部分酸化法
2.3 自己熱改質法
2.4 水素分離型改質
2.5 低温プラズマ改質
第4章 天然ガスからの水素製造
1 はじめに
2 水素製造法
2.1 改質部門
2.1.1 脱硫
2.1.2 改質
2.1.3 CO変成
2.2 精製・分離部門
2.2.1 吸収法
2.2.2 深冷分離法
2.2.3 吸着法
2.2.4 膜分離法
3 最近の水素製造法の進歩
3.1 大型の合成ガス製造装置
3.1.1 無触媒部分酸化(POX)プロセス
3.1.2 自己熱改質(ATR)プロセス
3.1.3 自己熱改質(AATG)プロセス
3.2 オンサイト型小型水素製造技術
3.2.1 工業雰囲気ガス用
3.2.2 自動車用水素供給ステーション
4 新規水素製造技術の開発
4.1 膜分離型水素製造法
4.2 熱分解法
4.3 プラズマ分解法
4.4 ベンゼン併産法
4.5 CO2固定型
5 おわりに
第5章 石炭からの水素製造
1 緒言
1.1 一次エネルギー源としての石炭
1.2 石炭からの水素製造
2 石炭ガス化からの水素製造
3 石炭ガス化技術
3.1 石炭ガス化の反応原理
3.2 石炭ガス化炉の分類
3.3 噴流層ガス化炉
3.3.1 Shellガス化炉
3.3.2 GE(前Texaco)ガス化炉
3.3.3 EAGLEガス化技術
4 HyPr-RING法による水素製造技術
5 コークス炉ガス(COG)からの水素製造
6 まとめ
第6章 石油精製における水素製造
1 はじめに
2 製油所の装置構成
3 製油所からの水素製造
3.1 接触改質装置
3.2 水素製造装置
4 製油所の水素製造余力
5 オフガス水素の回収
6 製油所における水素の貯蔵
7 国内製油所がエネルギー水素供給に貢献する可能性
第7章 光合成微生物による水素製造
1 緒言
2 光合成微生物による水素製造とは
2.1 水素を製造可能な光合成微生物
2.2 光合成微生物によるCO2固定能
2.3光合成微生物による水素製造に関する最新研究
3 光合成細菌による光水素製造のコストと環境性
3.1 光合成微生物による水素製造システム
3.2 前提諸条件の試算
3.3 試算結果
4 結言
第8章 PSA法による水素精製
1 水素PSAの歴史
2 吸着分離プロセスの特徴
2.1 吸着を利用した気体分離方法の比較
2.2 PSAに用いられる吸着剤の種類と性質
2.3 吸着剤の選定
2.4 PSA装置の構成
3 水素PSA装置の概要
3.1 主な水素源
3.2 代表的な水素精製方法
3.3 水素PSAの運転パターン
4 当社の水素PSA紹介
4.1 納入実績
4.2 特徴
4.2.1 吸着剤
4.2.2 運転プロセス
4.2.3 運転レート
4.3 装置性能
5 おわりに
第9章 アルカリ金属系サイクルを用いた低温熱化学水素製造
1 はじめに
2 熱化学水素製造
3 M-Redoxサイクル
3.1 反応サイクルとその特徴
3.2 非平衡反応を用いた熱力学特性制御
3.3 水素製造特性
4 おわりに
第10章 二段階水熱分解ソーラー水素製造システムの開発
1 はじめに
2 水熱分解ソーラー反応器の研究開発動向
3 反応器試験に関する現在の取り組みと今後の展開について
第Ⅲ編 輸送・貯蔵・インフラ編
第11章 圧縮水素容器の種類と技術課題
1 緒言
2 高圧水素容器の技術基準
2.1 国内外の技術基準の動向
2.1.1 70MPa FCV搭載用容器
2.1.2 35MPa輸送用車両搭載用容器
2.1.3 82MPa蓄圧器用容器
2.2 海外の技術基準の動向
3 複合容器の種類と構造及び製造プロセス
3.1 種類・構造・構成材料
3.2 アルミ合金ライナーC-FRP容器の製造プロセス
3.3 プラスチックライナーC-FRP容器の製造プロセス
4 高圧ガス容器の要求仕様
4.1 要求仕様
4.2 適用事例
4.2.1 高圧水素運送車両へのType 3容器の適用
4.2.2 海外の蓄圧用Type 2容器の適用
5 本格普及に向けて水素ステーションの低コスト化への取組
5.1 NEDOの取組
5.2 蓄圧用複合容器の低コスト化に関わる研究
5.2.1 Type 4複合容器の開発
5.2.2 アルミ合金ライナーType 3複合容器の開発
5.2.3 スチールライナー複合容器の開発
6 蓄圧器用複合容器の今後の技術課題
6.1 Type4容器ライナー材料の要求性能
6.1.1 水素透過性
6.1.2 既存の樹脂ライナーの耐久性と設計思想
6.1.3 機械構造用プラスチックの耐久性
6.2 アルミ合金ライナーType 3容器の疲労寿命
6.3 Type 1容器用候補材料(SCM435)の水素脆性
7 まとめ
第12章 アンモニア
1 はじめに
2 アンモニアの特性
3 アンモニアの生産
4 アンモニアを用いた水素エコノミー
4.1 アンモニア製造技術
4.1.1 CO2フリーアンモニア製造
4.2 アンモニア輸送技術
4.3 アンモニア利用技術
4.3.1 水素輸送媒体(水素キャリア)
4.3.2 内燃機関
4.3.3 アンモニアSOFC
5 まとめ
第13章 高圧鋼製蓄圧器と水素吸蔵合金を用いたタンク
1 高圧鋼製蓄圧器
1.1 はじめに
1.2 鋼製蓄圧器材料
1.3 水素ガス中の疲労き裂挙動
1.4 水素ステーション用鋼製蓄圧器
2 水素吸蔵合金を用いたタンク
2.1 はじめに
2.2 自動車への適用
2.3 水中船舶用
2.4 燃料電池スクーター
2.5 水素吸蔵合金キャニスター
2.6 再生可能エネルギーの貯蔵
2.7 おわりに
第14章 水素ステーション(水素スタンド)普及のための具体的提言
1 はじめに
2 何故 今 水素社会なのか
2.1 原発停止と円安で,日本の国富は海外に流出中
2.2 都知事選での原発問題と東京都民としての筆者の責任
2.3 燃料電池自動車の発電能力に期待
3 自動車向けのガス体エネルギーの歴史から学ぶ
3.1 天然ガス自動車が普及しなかった理由
3.2 LPガス自動車がタクシー業界に普及した理由
3.3 一般車にまでは普及しなかった理由
4 FCVは魅力ある車なのか,普及するか 筆者のFCVとの出会いと当初の不安
4.1 結論 一般消費者から見てFCVを乗ってみたい魅力ある車にする
5 水素スタンド普及を考える 魅力あるビジネスにするために
5.1 巨大な水素スタンドのイメージSSが完成
6 水素スタンドの更なるコンパクト化が急務
7 垣見油化八王子SSでの具体例
8 水素スタンド 垣見提唱ビジネスモデル
9 水素スタンドの数の拡大はSSに普及した格安レンタカーを参考に
10 FCV水素スタンド普及の起爆剤はタクシー会社への差額提供
11 オートスタンドも実は水素スタンドの有力候補
12 最終必要数は,約5,000カ所
13 最後の課題は,水素の搬入方法の確立
14 一般社会に対する水素社会やその普及のメリット等の情報発信やアピールが必要
第Ⅴ編 応用編
第15章 固体水素源型燃料電池
1 開発背景
2 開発内容
2.1 固体水素源
2.2 水素流量コントロール
2.3 薄型燃料電池
3 固体水素源型燃料電池の種類と特徴
3.1 小型タイプ(定格電圧5 VDC,発電量5 Whr)
3.2 高出力タイプ(定格電圧12or24 VDC,発電量200 Whr)
3.3 ハイブリッド高出力タイプ(マルチ出力5 V,USB・2口,AC100 V)
第16章 家庭用燃料電池の本格普及に向けての現状と課題
1 はじめに
2 家庭用固体高分子形燃料電池コジェネレーションシステムの開発概要
3 燃料電池システム構成要素毎の技術開発内容の概要
3.1 燃料処理装置および触媒の開発
3.2 セルスタック
3.3 システム制御装置
4 今後のさらなる高性能化と大量普及に向けての技術課題と展望
第17章 水素エンジン自動車
1 水素を自動車燃料とすることの意義
1.1 水素による電気エネルギーの貯蔵
1.2 自動車における水素利用と排出ガス
1.3 自然エネルギー利用における車両システムと水素
2 水素エンジン自動車の特徴と技術的課題
2.1 燃料電池自動車と比較した水素エンジン自動車の利点と課題
2.2 水素エンジンの出力と熱効率
2.3 水素エンジンの冷却損失低減
2.4 水素エンジンにおける窒素酸化物の生成とその低減策
3 水素の車両搭載方法とエネルギー密度
3.1 水素と二次電池のエネルギー密度
3.2 水素キャリアとしてのメタノール
3.3 水素による低温酸化抑制効果を利用した廃熱回収式メタノール改質HCCIエンジンシステム
4 まとめ
第18章 燃料電池自動車のポテンシャルと導入シナリオ
1 はじめに
2 FCVの利点
3 ユーザへの訴求ポテンシャル
4 FCVの普及シナリオ
5 FCVの導入セグメント
第19章 富士電機における産業用燃料電池
1 はじめに
2 定置用大型燃料電池の開発経緯
3 普及状況と新型機(FP-100i)の用途展開
4 おわりに
第20章 水素発電
1 背景
2 火力発電の概要
2.1 ボイラー
2.2 タービン
2.3 復水器および冷却器
2.4 煤煙処理設備
3 水素発電の現状
4 水素発電の今後
4.1 水素の製造
4.2 水素の運送・貯蔵
5 まとめ
あとがき 「おもてなしの心が導く水素社会」
1 地球の危機
2 おもてなしの心とは
3 おもてなしの心は茶道にあり
4 おもてなしが地球の危機を救う
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