キーワード:
スマートポリマー/ 環境応答/ 物理刺激/ 化学刺激/ 分子設計/ 構造制御/ 超分子/ 刺激応答性ゲル/ ゾル-ゲル/ ポリマーブラシ/ π電子系/ 人工核酸/ デンドリマー/ エラストマー/ 機能性色素/ 生体材料/ DDS/ 自己修復/ アクチュエータ/ 形状記憶/ スマート接着剤/ 発光性液体/ 省エネ/ 環境調和
刊行にあたって
本書では,刺激応答性高分子(あるいはスマートポリマー)の最近の開発の動向を幅広く紹介する。最近では,日本においても“スマート”という言葉が日常的に使われるようになり,スマートフォンやスマートグリッドなど,頭にスマートという言葉をつけた製品やシステムが身の回りにあふれるようになった。一般に,高分子の分野(特にバイオマテリアル)では,スマートポリマーというと刺激応答性ポリマーや環境応答性ポリマーのことを示す場合が多い。もともと“スマート”という言葉の語源はラテン語で「環境に適応可能な」という意味があり,米国の国防総省でも,「外部刺激に感応し,自身の性能を能動的な調節によって変化させて反応できる材料」を“スマートマテリアル”と定義している。上記の語源を考えると,外部の環境変化に応答してエネルギー的に安定な状態にコンフォメーションをシフトする刺激応答性ポリマーにはこの呼び方がまさに相応しく思われる。スマートポリマーと呼ばれているものの中で,最も報告例が多いのが温度応答性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)であろう。PNIPAAmに関する報告は1950 年代の米国や英国の特許などにすでにみられている。最近では,スマートポリマーの定義も広がり,形状記憶ポリマーや自己修復ポリマー,あるいは生分解性ポリマーもスマートポリマーの一つとして考えられることが多くなっている。
また,最近では科学技術基本法の第5 期のキャッチフレーズとして登場したSociety 5.0(スマート社会)という言葉が世間をにぎわしているが,「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会(Society)」を実現するためのキーマテリアルとしても刺激応答性高分子は各方面から大いに期待を集めている。実際に我々の周りに目を向けると,こうした外部環境変化をシャープに感受するシステムを持つ生物や植物が実に多く見受けられ,例えば爬虫類にみられる温度による性決定や光に応答した体色変化,アジサイなどの植物にみられるpH に応答した花色変化などが代表的なものとして挙げられる。このようにすでに生命が進化の過程で獲得してきたスマートな機能を積極的に社会に応用する技術はまさに今求められているといっても過言ではない。こうした背景のもと,本書では刺激応答性高分子を用いた最先端の研究例について,医療から身の回りの生活に関わる技術にいたるまで紹介できればと思う。
(本書「巻頭言」)
著者一覧
宮田隆志 関西大学
児島千恵 大阪府立大学
竹岡敬和 名古屋大学
大﨑基史 大阪大学
原田 明 大阪大学
髙島義徳 大阪大学
金 昌明 大阪大学
朴 峻秀 大阪大学
菊池明彦 東京理科大学
小松周平 東京理科大学
大山陽介 広島大学
今任景一 広島大学
山門陵平 山形大学
前田大光 立命館大学
大矢裕一 関西大学
粕谷有造 ㈱セルシード
池田英里子 ㈱セルシード
吉原愛澄 ㈱セルシード
増田 造 東京大学
坂本和歌子 東京工業大学
嶋田直彦 東京工業大学
丸山 厚 東京工業大学
中川泰宏 東京工業大学
藤澤七海 (国研)物質・材料研究機構;筑波大学
下元浩晃 愛媛大学
井原栄治 愛媛大学
和田健彦 東北大学
遊佐真一 兵庫県立大学
山田創太 慶應義塾大学
金澤秀子 慶應義塾大学
西浦正芳 (国研)理化学研究所
侯 召民 (国研)理化学研究所
麻生隆彬 大阪大学
三輪洋平 岐阜大学;JST
宇田川太郎 岐阜大学
沓水祥一 岐阜大学
高木賢太郎 豊橋技術科学大学
杉野卓司 (国研)産業技術総合研究所
釜道紀浩 東京電機大学
菊地邦友 和歌山大学
宇都甲一郎 (国研)物質・材料研究機構
小土橋陽平 静岡理工科大学
伊藤祥太郎 (国研)産業技術総合研究所
秋山陽久 (国研)産業技術総合研究所
磯田恭佑 香川大学
塚原剛彦 東京工業大学
﨑川伸基 シャープ㈱
垣内田 洋 (国研)産業技術総合研究所
原口和敏 日本大学
野々山貴行 北海道大学
目次 + クリックで目次を表示
第1章 刺激応答性高分子の基礎知識
1 はじめに
2 刺激応答性高分子の分類
3 刺激応答性高分子の歴史と応用例
4 刺激応答性高分子の分子設計
5 おわりに
第2章 刺激応答性高分子の研究動向
1 はじめに
2 分子スケールの刺激応答性高分子
3 刺激応答性ゲル
4 刺激応答性ゾル―ゲル相転移高分子
5 刺激応答性自己集合体・粒子・カプセル・薄膜
6 刺激応答性デバイス
7 形状記憶材料・自己修復材料
8 おわりに
【第2編 刺激応答性高分子の設計・合成技術】
第3章 多分岐ポリマーを用いた温度応答性高分子の合成
1 はじめに
2 温度応答性デンドリマー
3 エラスチンデンドリマー・コラーゲンデンドリマー
4 温度・pH二重刺激応答性ポリマー
5 おわりに
第4章 温度応答性ゲルのネットワーク構造制御
1 はじめに
2 ツール化した反応を段階的に利用した均一な網目構造を有する高分子網目の精密合成
3 必要な化合物を混ぜるだけで均一な網目構造を有する高分子網目を得る方法
4 ポリロタキサンを軸高分子としたボトルブラシポリマーをビルディングブロックに用いた高分子網目
5 まとめ
第5章 超分子を用いた刺激応答性高分子の作製技術
1 序論
2 各種の刺激に応答する高分子材料
2.1 刺激に応答したゾル―ゲル転移
2.2 刺激に応答する分子接着システム
2.3 ホスト-ゲスト修飾ポリマーゲルによる刺激応答性超分子アクチュエーター
2.4 分子マシンの運動により伸縮するアクチュエーター
2.5 Rotaxaneからなる超分子アクチュエーター
3 結言
第6章 自己修復性ポリマーの基礎と設計
1 はじめに
2 自己修復性ポリマーの発展
2.1 マイクロカプセルを用いた自己修復
2.2 Diels-Alder反応を用いた自己修復
2.3 超分子化学を利用した自己修復性ポリマー
2.3.1 水素結合を用いた自己修復
2.3.2 ホスト-ゲスト相互作用による自己修復
2.3.3 CD可動性架橋による自己修復
3 複数の相互作用による自己修復ポリマー
3.1 動的共有結合を有する自己修復性ポリウレタン
3.1.1 DA反応を有する自己修復性ポリウレタン
3.1.2 芳香族ピナコール結合解離による自己修復性ポリウレタン
3.1.3 立体障害を有する動的ウレア結合を有する自己修復性ポリウレタン
3.1.4 ジスルフィド結合を有する自己修復性ポリウレタン
3.1.5 可逆的な光二量化反応による自己修復性ポリウレタン
3.2 非共有結合を有する自己修復性ポリウレタン
3.2.1 ホスト-ゲスト相互作用を有する自己修復性ポリウレタン
3.2.2 可動性架橋及び水素結合を有する自己修復性シリコーン系ポリウレタン
3.2.3 π-π相互作用と水素結合を有する自己修復性ポリウレタン
3.2.4 配位結合を有する自己修復性ポリウレタン
3.2.5 複数種類の水素結合を有する自己修復性ポリウレタン
4 おわりに
第7章 温度応答性ポリマーブラシの固体表面への導入
1 はじめに
2 高分子修飾表面の調製
3 Grafting-from法
4 おわりに
第8章 外部刺激応答性の機能性色素の分子設計
1 はじめに
2 メカノフルオロクロミズム
2.1 メカノフルオロクロミック色素
2.1.1 Donor-p-Acceptor(D-p-A)型蛍光性色素
2.1.2 凝集誘起発光(Aggregation-Induced Emission:AIE)系色素
2.2 メカノフルオロクロミック錯体
2.2.1 ホウ素錯体
2.2.2 金属錯体
3 高分子のメカノ(フルオロ)クロミズム
3.1 高分子材料への分散
3.2 化学結合を介した導入
3.2.1 共有結合系
3.2.2 非共有結合系
4 おわりに
第9章 光応答性荷電π電子系集合体の設計
1 はじめに
2 光応答性イオン種の開発
3 イオン会合による光応答性荷電π電子系
4 光応答性荷電π電子系集合体の物質移動
5 おわりに
【第3編 開発・応用編】
第10章 医療・生体材料・再生医療・DDS
1 「関大メディカルポリマー」の開発と医療応用
1.1 はじめに
1.2 プロジェクトの目指すもの
1.3 生分解性スマートポリマー
1.4 生分解性形状記憶ポリマー
1.5 標的指向性を持つ超安定ナノ粒子
1.6 温度応答型生分解性インジェクタブルポリマー
1.7 おわりに
2 温度応答性ポリマーを用いた非侵襲的な細胞回収技術
2.1 はじめに
2.2 温度応答性細胞培養器材UpCellⓇ
2.3 UpCellⓇを用いた非侵襲的な細胞の回収
2.4 UpCellⓇを用いた非侵襲的な細胞シートの回収
2.5 まとめ
3 高分子複合体形成に基づくペプチドの活性化と脂質二重膜の2次元/3次元構造の操作
3.1 はじめに
3.2 カチオン性くし型共重合体によるE5ペプチドの活性化
3.2.1 生体膜活性化ペプチドE5
3.2.2 カチオン性くし型共重合体による活性化
3.3 温度応答型カチオン性くし型共重合体の設計
3.4 E5/PAA-g-Dex複合体の細胞膜に対する作用
3.5 脂質ナノシートの形成と2次元/3次元構造の変換
3.5.1 E5/PAA-g-Dex複合体による脂質ナノシートの形成
3.5.2 シート・ベシクル転移の可逆性と物質のサンプリング
3.5.3 外部刺激によるシート・ベシクル転移の操作
3.6 まとめ
4 糖応答型スマートポリマーを用いた人工レクチンの開発
4.1 はじめに
4.2 糖鎖-レクチン相互作用の利用例
4.3 レクチンの合成アナログの開発
4.3.1 フェニルボロン酸(PBA)
4.3.2 benzoxaborole基
4.4 おわりに
5 スマートポリマーを用いた貼るがん治療
5.1 はじめに
5.2 スマートナノファイバーメッシュ
5.3 薬物徐放出型ナノファイバーメッシュ
5.3.1 抗がん剤の徐放
5.3.2 抗がん剤/遺伝子の併用
5.3.3 不活性化ウイルスの担持
5.3.4 温熱/化学療法
5.4 薬物ON・OFF放出型ナノファイバーメッシュ
5.5 結論
6 温度・pH応答性ポリ(置換メチレン)の開発
6.1 序
6.2 温度応答性ポリ(置換メチレン)
6.2.1 オリゴエチレングリコール鎖含有ポリ(置換メチレン)
6.2.2 ヒドロキシ基含有ポリ(置換メチレン)
6.3 pH応答性ポリ(置換メチレン)
6.4 まとめと展望
7 細胞内環境応答性人工核酸
7.1 はじめに
7.2 刺激応答性人工核酸
7.2.1 核酸医薬品用人工核酸開発の現状
7.2.2 細胞内環境応答型人工核酸の開発
7.2.3 虚血性疾患細胞特異的核酸医薬への展開
7.2.4 触媒的核酸医薬への展開
7.3 最後に
8 温度・pH応答性高分子によるDDS
8.1 はじめに
8.2 温度応答性ポリイオンコンプレックス(PIC)ミセル
8.3 pH応答性PICベシクル
8.4 まとめ
9 機能性高分子の特性を活かしたナノキャリアの開発
9.1 はじめに
9.2 温度応答性ポリマーミセルの開発
9.3 温度応答性高分子修飾リポソームの開発
9.4 温度応答性の核酸デリバリーキャリア
9.5 おわりに
第11章 自己修復
1 希土類触媒による新しい自己修復ポリマーの開発
1.1 はじめに
1.2 極性オレフィンと非極性オレフィンの共重合
1.2.1 エチレンと極性オレフィンとの共重合
1.2.2 スチレンとアニシルプロピレンとの共重合
1.2.3 エチレンとアニシルプロピレン類との共重合
1.3 自己修復および形状記憶特性
1.4 自己修復のメカニズム
1.5 最後に
2 接着制御を基盤とした修復可能なゲル材料
2.1 はじめに
2.2 高分子ハイドロゲルの接着制御
2.3 自由成形及び再構築可能なハイドロゲル材料
2.4 おわりに
3 CO2ガスに応答して自己修復を促進する気体可塑性エラストマー
3.1 はじめに
3.2 CO2ガスによって自己修復を誘起・促進するイオン性PDMSエラストマーの分子デザインと凝集構造
3.3 動的なネットワークに基づいた機能発現メカニズムの概略
3.4 イオン性PDMSエラストマーの力学特性
3.5 CO2ガスによるイオン性PDMSエラストマーの可塑化挙動
3.6 CO2ガスによる自己修復の促進と誘起
3.7 おわりに
第12章 アクチュエータ・センサ
1 高分子アクチュエータ・センサ
1.1 はじめに
1.2 高分子アクチュエータ・センサの歴史
1.3 高分子アクチュエータ・センサの種類と概要
1.4 イオン導電性高分子の基礎と応用
1.5 研究の状況と製品化の動向,今後の展望
1.6 おわりに
2 形状記憶高分子アクチュエータ
2.1 はじめに
2.2 形状記憶高分子のメカニズム
2.2.1 一方向性形状記憶現象
2.2.2 双方向性形状記憶現象
2.3 形状記憶高分子アクチュエータの応用
2.3.1 一方向性形状記憶高分子アクチュエータ
2.3.2 双方向性形状記憶高分子アクチュエータ
2.4 おわりに
3 ポリビニルアルコール(PVA)材料への刺激応答性の付与
3.1 ポリビニルアルコール(PVA)と刺激応答性高分子
3.2 PVAと温度応答性高分子の複合材料
3.3 PVAとその他の刺激応答性高分子の複合材料
3.4 おわりに
第13章 接着・粘着・塗料
1 光に応答して可逆的に着脱できるスマート接着剤の開発
1.1 はじめに
1.2 アゾベンゼン含有化合物の光固液相転移を利用した可逆接着剤の開発
1.2.1 アゾベンゼン含有糖アルコール誘導体
1.2.2 アゾベンゼン含有ホモポリマー
1.2.3 アゾベンゼン含有ブロック共重合体
1.3 まとめ
2 刺激応答型発光性液体材料
2.1 はじめに
2.2 液体材料における刺激応答と発光の両立
2.3 酸および塩基を認識する液体材料の開発
2.4 実験と理論による分子レベルでの外部刺激応答機構の解明
2.5 熱を認識する液体材料の開発
2.6 結言
第14章 省エネ・環境調和
1 刺激応答性ポリマーの相転移特性を活かした環境調和型金属イオン分離法
1.1 レアメタルリサイクルの必要性
1.2 Poly(NIPAAm)ポリマーブラシによる温度スイング分離
1.3 相転移性水系poly(NIPAAm)ゲル化抽出
1.4 今後の展望
2 省エネ空調技術を実現するスマートポリマー
2.1 はじめに
2.2 従来の空調技術
2.3 空調技術と高分子
2.4 吸湿放水ゲルの調製
2.5 ゲルの膨潤収縮
2.6 吸湿特性
2.7 ゲルからの放水
2.8 吸湿脱水サイクル
2.9 おわりに
3 太陽光の侵入量を温度に応じて調整できる液晶と高分子の複合材料
3.1 スマートウィンドウとは
3.2 高分子ネットワーク液晶とは
3.3 熱応答型PNLCのスマートウィンドウ
3.4 より高い省エネを目指して
3.5 スマートウィンドウの評価技術について
3.6 本技術の展望
第15章 刺激応答性ゲルの開発
1 刺激応答性ナノコンポジット(NC)ゲル
1.1 はじめに
1.2 ナノコンポジットゲルの合成
1.3 有機―無機ネットワーク構造と力学物性
1.4 NCゲルの温度応答性と新機能
1.4.1 N-NCゲルの温度応答性
1.4.2 N-NCゲルの示す新機能
1.5 新しい刺激応答性NCゲル
1.5.1 温度/pH応答性NCゲル
1.5.2 高強度・高弾性率を有する温度応答性NCゲル
1.5.3 LCST型新規NCゲル
1.5.4 UCST型新規NCゲル
1.6 おわりに
2 熱で瞬時に1000倍硬くなるソフトマテリアル
2.1 はじめに
2.2 逆のガラス転移を起こすには?
2.3 極限相分離によるゴム-ガラス転移を示すハイドロゲル
2.4 相図によるゴム-ガラス転移を示す条件
2.5 PAAc-CaAcゲルのデモンストレーション
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