キーワード:
機能紙/抄紙/パルプ/セルロースナノファイバー/プラスチック代替/食品包装/マイクロ流路/ペーパーエレクトロニクス/環境浄化/押出成形/組成分析/ピッチトラブル/紙力増強剤/バリア性/耐水性/耐熱性/耐摩耗性/防塵性/透明性/耐油性/耐薬品性/粘弾性/接着性/湿潤強度/引張強度/生分解性/薄膜化/複合化/SDGs/カーボンニュートラル/リサイクル
刊行にあたって
本書では、紙に高い機能性を付与した紙、“機能紙”に関するテーマを主に掲載している。この機能紙を主題として、2005年にシーエムシー出版より、「高機能紙の展開」が刊行されている。この書籍では、鮮度保持紙、抗菌紙、粘着紙、電気絶縁紙、電池用セパレーターおよび自動車用フィルターが紹介されている。さらに、光触媒紙、ゼオライト含有紙による環境汚染物質除去に活用される紙が取り上げられている。
現在、その当時と大きく異なる点が2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsによる環境や循環型社会への意識の高まりであり、日本政府も「SDGs実施指針」を定め、取り組みを始めた。その中で、紙産業が大きく貢献が期待されている分野の一つとして、「大阪ブルーオーシャンビジョン」が挙げられる。このビジョンは、2019年6月、G20大阪サミットにて、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指すものである。このことから、脱プラスチックに代表される環境分野への紙の展開が期待されている。また、2005年にはなく、現在の注目材料の一つとして、セルロースナノファイバーが挙げられる。セルロースナノファイバーは、木材繊維を微細化した素材で、ユニークな機能を有することが知られている。このセルロースナノファイバーを用いた製品の研究開発が活発化している。それ以外にもスマートフォン、電気自動車などの最新エレクトロニクステクノロジーといった新しい応用展開も生まれてきている。
世界の研究動向に目を向けると、世界各国はイノベーションの覇権を争い、イノベーションに影響する基礎研究の進展、その基礎研究の迅速な実装化、そのための研究投資の大規模化が進み、今後日本の産業に大きく影響を及ぼす可能性が高い。このような状況を鑑みると紙産業分野においても例外でなく、新しいイノベーションに備えておく必要がある。
そこで本書では、最新の研究動向を集め、“紙の加工技術”をキーワードに、“持続可能な社会”に貢献する研究から、食品、医療やエレクトロニクスなどの新しい紙の可能性を示唆する研究テーマが多く執筆されている。その他にも紙に関連する装置や解析技術なども掲載している。本書が、今後の紙産業の破壊的イノベーションにつながるような研究や新製品開発に寄与できれば、幸いである。
高知大学
市浦英明
著者一覧
山内龍男 ㈱やまうち七兵衛商会
北岡卓也 九州大学
深堀秀史 愛媛大学
野村洋平 京都大学
藤原 拓 京都大学
小瀬亮太 東京農工大学
野中 寛 三重大学
浅山良行 王子マテリア㈱
植田 源 廣瀬製紙㈱
藤原康史 星光PMC㈱
田中章雄 レンゴー㈱
福垣内暁 愛媛大学
直原 敦 ㈱クラレ
宮﨑健太郎 リンテック㈱
若原章博 ビックケミー・ジャパン㈱
三宅 亮 東京大学
渕脇雄介 (国研)産業技術総合研究所
古賀大尚 大阪大学
前田秀一 東海大学
福原幹夫 東北大学
長谷川史彦 東北大学
橋田俊之 東北大学
藤間信久 静岡大学
武田光博 仙台高等専門学校
中谷丈史 日本製紙㈱
森田昌浩 日本製紙㈱
武井俊達 王子ホールディングス㈱
東谷仁史 荒川化学工業㈱
加藤雄一朗 ㈱日新化学研究所
目次 + クリックで目次を表示
第1章 紙への各種機能性付与・応用展開
1 はじめに
2 紙の機能化手法
2.1 抄紙工程中に使用される薬品
2.2 抄紙工程後に使用される薬品
3 機能紙の開発
3.1 化学繊維からなる紙
3.2 高機能・高性能を有す紙
4 今後の紙の機能,機能化技術
5 おわりに
第2章 紙系材料の加工とその開発動向,脱プラスチック材料としての展望
1 三次元化した紙材料
1.1 紙器
1.2 段ボールとそれから成る紙箱
1.3 液体用紙容器
1.4 紙皿,コップ
1.5 紙袋
1.6 紙管
1.7 緩衝材
2 紙の複合加工法
2.1 塗工
2.2 紙の押し出し塗工
2.3 貼り合わせ
2.4 含浸
2.5 サイジング
2.6 バルカナイズ
2.7 モールディング
3 加工紙の環境特性
3.1 リサイクル性
3.2 加工紙に添加された薬剤の安全性(毒性,生分解性)
4 おわりに
【第Ⅱ編 加工技術と産業応用】
第1章 地球環境
1 紙の構造特性に基づく触媒材料の開発
1.1 はじめに
1.2 紙と触媒
1.3 触媒粉末のペーパー成型
1.4 光触媒のペーパー成型とシックハウス物質の除去
1.5 ペーパー光触媒による窒素酸化物および環境ホルモン物質の除去
1.6 水素をつくるペーパー触媒と燃料電池発電への応用
1.7 金属ナノ触媒のオンペーパー合成
1.8 紙の積層が機能する反応プロセス工学への展開
1.9 おわりに
2 光触媒-吸着材複合紙による水中のサルファ系抗菌剤の除去
2.1 緒言
2.2 光触媒-吸着材複合紙の調製
2.3 熱融着性繊維の配合量と乾燥温度が紙の湿潤強度に及ぼす影響
2.4 紫外線照射が光触媒-吸着材複合紙の強度に及ぼす影響
2.5 RAOCによるサルファ系抗菌剤の除去
3 セルロースナノファイバーによる紙物性の改良
3.1 はじめに
3.2 セルロースナノファイバー添加がパルプ繊維シートの物性と構造に及ぼす影響
3.3 セルロースナノファイバー添加パルプ繊維シートにおける歩留まりと引張強さの関係
3.4 まとめ
4 セルロース誘導体を活用した紙粉の押出成形
4.1 はじめに
4.2 紙の成形
4.3 セルロース誘導体を活用したバイオマス粉末の押出成形
4.4 セルロース誘導体を活用した紙粉の押出成形
4.5 最近の進展
4.6 まとめ
5 樹脂製気泡包材に代わるALL紙製包材の開発
5.1 はじめに
5.2 紙製緩衝封筒の開発
5.3 従来の緩衝封筒
5.4 紙製緩衝材の選定
5.5 クッションペーパーを用いた紙製緩衝材の検討
5.6 紙製緩衝封筒の緩衝性最適化の検討
5.7 紙製緩衝封筒「紙ネット封筒」について
5.8 最後に
6 超薄型断熱材:シリカエアロゲル複合シートの開発
6.1 はじめに
6.2 エアロゲルの特徴
6.3 エアロゲルの既存製品
6.4 湿式抄紙法によるエアロゲル/繊維複合シートの開発
6.5 終わりに
7 脱プラスチックを可能にする水性紙塗工用エマルションの開発
7.1 はじめに
7.2 ポリエチレンラミネートの役割
7.3 水性紙塗工用エマルションSEIKOATⓇシリーズ
7.4 おわりに
8 機能性段ボール及び機能紙の開発
8.1 はじめに
8.2 機能性段ボール
8.3 機能性薄紙
8.4 おわりに
9 芭蕉和紙の調製―地域資源を活用した新素材―
9.1 はじめに
9.2 バショウ繊維の抽出
9.3 芭蕉和紙の作製
9.4 芭蕉和紙の特長
9.5 おわりに
第2章 食品
1 植物由来の透明な紙「セルロースフィルム」の特徴と環境包装材料への応用
1.1 はじめに
1.2 セルロースフィルムについて
1.3 セルロースフィルム「セロハン」の歴史と現在
1.4 セルロースフィルムの製造方法
1.5 セルロースフィルムの特徴
1.6 新たなセルロースフィルムの展開
1.7 セルロースフィルムの日本での用途
1.8 日本のプラスチック戦略と包材設計の整合性
1.9 おわりに
2 水溶性・生分解性ガスバリア樹脂の紙コーティング材特性
2.1 はじめに
2.2 食品包装材料を取り巻く状況
2.3 PVAの基礎物性
2.4 疎水基変性PVA「エクセバールⓇ」
2.5 おわりに
3 凍結・結露面への貼付が可能なチルド環境対応ラベル素材
3.1 はじめに
3.2 粘着ラベル素材
3.3 低温貼付用粘着ラベル素材
3.4 極低温環境保存用ラベル素材
3.5 耐水紙ラベル素材
3.6 おわりに
4 コーティング用添加剤によるバリア性の付与と塗布液の各種課題と対策
4.1 はじめに
4.2 添加剤によるバリア効果の向上
4.3 コーティング液の塗布乾燥での課題と対策
4.4 おわりに
第3章 医療・ヘルスケア
1 ペーパー分析チップの作製技術とシステム化
1.1 はじめに
1.2 紙ベースのマイクロチップ作製技術
1.3 チップ上での液体流れの制御技術
1.4 チップ上での微量反応液の検出技術
1.5 紙ベースマイクロ分析チップ対応の検査システム
1.6 血球分離のためのフィルタ技術
1.7 おわりに
2 紙・プラスチック・テープを用いた検査用チップ/キット
2.1 はじめに
2.2 セルロース膜を利用した簡易な医療診断とその技術動向
2.3 学術研究における紙やテープ素材を用いた検査チップ
2.4 プラスチックを用いたマイクロ流路型検査デバイス
2.5 紙・プラスチック・テープを用いて作製するマイクロ流路
2.6 紙・プラスチック・テープで作る新型コロナウイルス抗体検査キット
第4章 エレクトロニクス
1 紙が拓くグリーン・フレキシブルエレクトロニクス
1.1 はじめに
1.2 フレキシブルな紙の電子ペーパー
1.3 ディスポーザブルなペーパー分子センサ
1.4 生分解性ペーパーメモリ
1.5 おわりに
2 有機導電性高分子と紙/パルプ繊維/セルロースナノファイバーの複合化によるフレキシブル導電シート
2.1 はじめに
2.2 有機導電性インクの創製
2.3 有機導電性インクをインクジェットで紙にプリントした導電性シート
2.4 有機導電性高分子を合成段階で複合化したパルプ繊維を抄紙した導電性シート
2.5 おわりに
3 セルロースナノファイバー(CNF)による蓄電体の開発―アモルファスセルロースナノファイバーを利用して創成した物理(量子)的蓄電体―
3.1 はじめに
3.2 TEMPO酸化CNF
3.3 実験方法
3.4 CNF組織と蓄電機構
3.5 電気的特性
3.6 蓄電の複素数評価とI-V特性
3.7 空中非接触給電
3.8 CNFの構造と蓄電に対する電子論的役割
3.9 結論
【第Ⅲ編 分析・周辺技術】
第1章 X線回折法による紙中の微量成分分析
1 はじめに
2 実験方法
2.1 装置
3 分析事例
3.1 X線回折法と電子顕微鏡観察を用いた紙中の石英含有量分析
3.2 ティシュペーパー中の微小異物の分析
3.3 市販機能紙の微量組成分析
4 おわりに
第2章 紙中薬品の定着状態の分析
1 はじめに
2 成紙およびパルプ繊維の分析手法について
3 成紙および成紙中のサイズ際の分布分析
3.1 SPMによるパルプ繊維の観察
3.2 SPMによるエマルジョン型表面サイズ剤の分布状態の可視化
4 パルプスラリー中における紙力増強剤の定着状態の分析
4.1 PAM系両性紙力増強剤とPICについて
4.2 位相差顕微鏡によるPICの挙動解析
4.3 液中SPMによるパルプスラリー中でのPICの定着状態の可視化
4.4 pHの違いによるパルプ繊維上のPICの定着状態の観察
4.5 分子量の違いによるパルプ繊維上のPICの定着状態の観察
4.6 PIC定着状態と紙力効果について
5 PAM系紙力増強剤開発への応用
5.1 改良型PAM系紙力増強剤のPIC挙動解析
5.2 改良型PAM系紙力増強剤の評価
6 SEM-EDSによるPAM系紙力増強剤の可視化
7 まとめ
第3章 ウェットエンドにおける薬品の活用―生産性向上の為のケミカルアプローチ―
1 はじめに
2 生産性を阻害する汚れ物質について
2.1 ピッチコントロール剤
2.2 ワイヤーへの対策
2.3 フェルトへの対策
2.4 プレスロールでの対策について
3 おわりに
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