キーワード:
生体ガス/呼気/皮膚ガス/脂質/代謝/アセトン/口臭/がん検査/匂いセンサ/モニタリング/がん探知犬/線虫/昆虫細胞センサ/非侵襲/揮発性有機化合物(VOC)/水素ガス/ヒト嗅覚受容体センサ/デジタルヘルスケア/アルコールガス計測/魚臭症候群/加齢臭/ノネナール/ジアセチル/ストレス臭
刊行にあたって
癌の探知犬が世界的に注目され、多くの研究者が生体ガスの計測に取り組んでいる。呼気や皮膚ガスなどの生体ガスを計測し、疾病スクリーニングを行う利点としては「被験者に苦痛を与えることなく、その場で評価できる」、「ガス計測であることから、高度な医療機器も必要としない」、「計測技術の向上により超早期の診断も期待される」等が挙げられる。しかし生体ガス分析の研究は世界的に行われているが、残念ながら探知犬が認識しているであろう「バイオマーカー成分」はあまり明確になっていない。もちろん「癌」に限らず、糖尿病やリウマチ、フェニルケトン尿症、魚臭症候群などの病気でも、また健康時の代謝状態においても、特異的な揮発性成分(ガス)が発生しており、その発生メカニズムも幾つか報告されている。そして実際に、生体ガス計測による医療診断やそのための新たな開発も行われている。例えば、「NOによる喘息診断」「尿素呼気試験によるピロリ検査」「アセトンによる脂肪代謝」「メチルメルカプタンによる病的な口臭診断」等が挙げられ、その有効性が広く認識されている。
(中略)
本書では、生体ガスによる医療診断および健康応用を念頭に、第Ⅰ編では「呼気ならびに皮膚ガスの医療研究動向」に関して、呼気・皮膚ガスによる疾病・代謝診断および疾病スクリーニングについて、また第Ⅱ編では「生体ガス計測のためのセンシング技術」に関して、呼気や皮膚ガスを対象としたセンシング技術の動向を、第Ⅲ編では「生体ガス計測の応用展開」に関して多様な今後の可能性について、本領域で活躍されている研究者の方に、現在の研究内容とその将来展開をご紹介いただいている。本書が科学技術を通して、人の健康や将来の医療を考える方々へ有益な情報として提供できれば幸いである。
三林浩二
(本書「刊行にあたって」より抜粋)
著者一覧
荒川貴博 東京工科大学
飯谷健太 東京医科歯科大学
當麻浩司 芝浦工業大学
財津 崇 東京医科歯科大学
関根嘉香 東海大学
山本 敦 中部大学
山本良平 中部大学
園田英人 国立病院機構 福岡東医療センター;九州大学
呉 壮香 Dana-Farber Cancer Institute
宮下正夫 Twin peaks Laboratory of Medicine;日本医科大学名誉教授
松原和子 ㈱HIROTSUバイオサイエンス
広津崇亮 ㈱HIROTSUバイオサイエンス
光野秀文 東京大学
祐川侑司 東京大学
神﨑亮平 東京大学名誉教授
都甲 潔 九州大学
吉川元起 (国研)物質・材料研究機構
李 丞祐 北九州市立大学
松本重清 大分大学
林 健司 九州大学
小田悠加 東京大学
大崎寿久 神奈川県立産業技術総合研究所
竹内昌治 東京大学;神奈川県立産業技術総合研究所
上田太郎 長崎大学大学院
兵頭健生 長崎大学大学院
壷井 修 富士通㈱
市川健太 東京医科歯科大学
田中 航 東京大学
Chaiyanut JIRAYUPAT 東京大学;MI-6 ㈱
長島一樹 北海道大学
高橋綱己 東京大学
細見拓郎 東京大学
Jiangyang LIU 東京大学
柳田 剛 東京大学;九州大学
西村直道 静岡大学
森山さくら 大阪大学
黒田俊一 大阪大学
申 ウソク (国研)産業技術総合研究所
冨永昌人 佐賀大学
久加亜由美 ㈱マンダム
原 武史 ㈱マンダム
勝山雅子 ㈱資生堂
西澤美幸 ㈱タニタ
佐野あゆみ ㈱タニタ
目次 + クリックで目次を表示
第1章 脂質代謝評価のための呼気および皮膚ガス中アセトン計測
1 はじめに
2 アセトンガス計測用バイオスニファの作製と呼気ガス計測
2.1 アセトンガス計測用の光ファイバ型バイオスニファ
2.2 アセトンガス用バイオスニファの特性評価
2.3 運動負荷における脂質代謝による呼気中アセトン濃度の計測
3 皮膚ガス中のアセトンガス計測
3.1 外耳道由来ガス(ETG)用アセトン計測システム
3.2 外耳道由来ガス(ETG)アセトンの連続計測
4 まとめ
第2章 呼気診断による口臭治療
1 はじめに
2 口臭原因物質と生成機序
3 口臭の測定法
3.1 口臭測定条件
3.2 口気と呼気の官能検査
3.3 測定機器による口臭検査
3.3.1 口臭測定用ガスクロマトグラフィー
3.3.2 簡易型ガスクロマトグラフ(オーラルクロマ(エフアイエス㈱)
3.3.3 半導体ガスセンサー
4 口臭症の国際分類
4.1 真性口臭症
4.1.1 生理的口臭
4.1.2 病的口臭
4.2 仮性口臭症
4.3 口臭恐怖症
5 診断と治療
5.1 真性口臭症の診断と治療
5.2 仮性口臭症の診断と治療
5.3 口臭恐怖症の診断と治療
6 おわりに
第3章 PATM(私に対するアレルギー)患者の皮膚ガス組成を解明
1 はじめに
2 PATMの成立条件
3 試験方法
3.1 皮膚ガス測定
3.2 体臭に寄与する皮膚ガス成分の推定
4 皮膚ガス組成の特徴
5 体臭に寄与する皮膚ガス成分
6 室内濃度指針値との比較
7 PATMの発症原因
8 おわりに
第4章 呼気を使った治療薬物モニタリング(TDM)
1 TDMの意義
2 血液に代わる体液としての呼気
3 呼気の本質
4 呼気試料採取方法
4.1 EBC
4.2 フィルター捕集法
5 呼気によるTDMの可能性
6 終わりに
第5章 がんのニオイ発生の機序解明とがんニオイセンサー開発の必要性
1 がん発生理由の概略
2 発がん機序解明の歴史
3 がんの罹患率
4 がんの増殖スピード
5 がん検診受診率
6 既存のがん検診の目的と条件
7 腫瘍マーカー検査
8 リキッドバイオプシー検査
9 疾病とニオイの関係についての歴史
10 がん探知犬研究の始まり
11 がん探知犬マリーンとの出会いとがんのニオイ存在の証明
12 がんのニオイの濃度の推定
13 がん探知犬検査の宿命
14 想定されるがんのニオイが発生する機序
15 がんのニオイを特定するための検体の選択
16 がんのニオイ物質特定のための培養細胞での分析
17 がんのニオイ候補物質に関する臨床応用の検討
18 がんのニオイセンサーが必要となる近未来の社会背景
19 がんニオイセンサー開発の目標
第6章 がん探知犬
1 はじめに
2 がん探知犬の歴史
3 本研究グループによる2種類のがん探知犬の訓練
3.1 がんに共通の匂いを感知するがん探知犬
3.2 「乳がん」探知犬の訓練
4 がんが発するにおい物質
5 がん探知犬の課題と今後の展望
第7章 線虫の嗅覚を活用したがん検査N-NOSE
1 がん検査の現状
2 がんと匂い
3 生物を用いたがんの検出
4 線虫の特徴
5 線虫の嗅覚
6 線虫によるがんの検出
7 N-NOSEの臨床試験
8 第三者によるN-NOSEの再現
9 N-NOSEの実用化
10 がん種特定線虫の開発
11 すい臓がん特定線虫の開発に成功
12 ペット用N-NOSEの開発とサービス
13 N-NOSEの今後の展望
【第Ⅱ編 生体ガス計測のためのセンシング技術】
第1章 昆虫細胞センサを用いた高感度においセンサ
1 はじめに
2 昆虫の嗅覚受容体を発現させた「センサ細胞」
3 センサ細胞の種類と特徴
3.1 性フェロモン検出センサ細胞
3.2 ジェオスミン検出センサ細胞
3.3 その他の一般臭検出センサ細胞
4 センサ細胞アレイの蛍光パターンによる農作物のカビ臭成分の応答測定
5 おわりに
第2章 単一の化学物質を検知する匂いセンサと複合臭を検知する人工嗅覚システムの開発
1 はじめに
2 嗅覚
3 SPR免疫センサ
3.1 測定原理と方法
3.2 測定結果
4 マルチアレイ人工嗅覚システム
4.1 測定原理と方法
4.2 食品への適用
4.3 電気設備の保守点検への適用
5 展望
第3章 MSS嗅覚センサの総合的研究開発と生体ガス計測への応用
1 はじめに
2 MSSについて
3 感応膜について
4 機械学習との融合
5 産学官連携
6 生体ガス計測
7 おわりに
第4章 水晶振動子を用いた呼気アンモニアの測定と非侵襲的病気診断への応用
1 緒言
2 水晶発振子の原理
3 検知膜の作製および検知システム
4 検知感度および選択性
5 シリカナノ粒子を用いた多孔性検知膜の作製と呼気分析
6 湿度およびアンモニアに対する応答特性の評価
7 呼気アンモニアの測定
8 臨床現場での応用と課題
9 おわりに
第5章 匂いの可視化システム
1 はじめに
2 匂い計測の定義と可視化システムの概要
3 プラズモニックガスセンサと匂い可視化フィルム
4 二次元プラズモニックガスセンサによる匂いの可視化
4.1 LSPRセンサによるガスの可視化計測
4.2 二次元LSPRセンサとハイパースペクトルイメージングによるガスの流れの可視化とガス種の識別
4.3 SERSガスセンサによる超高感度ガス検知と匂いの可視化
5 おわりに
第6章 マイクロ流体デバイス技術を利用したバイオハイブリッド匂いセンサ
1 はじめに
1.1 バイオハイブリッド匂いセンサ
1.2 気中の匂いサンプル検出の課題
1.3 匂いの発生方向検知の課題
2 匂いの溶解促進技術
2.1 数値シミュレーション
2.2 ガスフローデバイスによる匂い物質の溶解
2.3 ガスフローデバイスを用いた細胞匂いセンサ
3 匂いの方向検出技術
3.1 デバイスへの細胞の導入と計算式の最適化
3.2 匂い方向の推定
4 おわりに
第7章 固体電解質を用いた電気化学式センサによる揮発性有機化合物の高感度検知
1 はじめに
2 安定化ジルコニアを用いた固体電解質センサ
3 金属酸化物を添加したAu検知極を用いた固体電解質センサのトルエン応答
3.1 Au検知極への酸化セリウムの添加効果
3.2 薄膜検知極を用いた場合のトルエン応答特性
3.3 電気化学的な活性評価による応答機構の考察
4 おわりに
第8章 呼気センサーの開発とストレス・疲労検知への応用
1 はじめに
2 呼気センサー開発の背景
2.1 呼気分析に高まる期待
2.2 バイオマーカーとしてのアンモニア
2.3 疲労とストレスとの関係
2.4 呼気アンモニアの測定技術
3 新しいアンモニア検知材料CuBr
4 高感度・高選択なセンサーデバイス
5 手軽で迅速な呼気センサーシステム
6 呼気中アンモニア濃度のサンプリング測定
7 おわりに
第9章 呼気・皮膚ガスのためのリアルタイム動画像化システム
1 はじめに
2 NAD依存性脱水素酵素を用いたVOCイメージングの原理
3 バイオ蛍光法に基づくVOCイメージングの実例
4 エレクトロスピニング技術に基づくセンシングメッシュ開発の試み
5 むすび
【第Ⅲ編 生体ガス計測の応用展開】
第1章 呼気センシングによる個人認証
1 はじめに
2 皮膚ガスセンシングによる個人認証
3 GC-MS成分分析による呼気ガス個人認証
4 センサアレイによる呼気ガス個人認証
5 呼気ガス個人認証の実用化に向けた課題と取り組み
6 おわりに
第2章 腸内細菌が作る水素ガスの驚きの働き
1 はじめに
2 生体内へのH2供給の方法
3 大腸発酵由来H2量とその生成持続性
4 五臓六腑を巡る大腸発酵由来H2
5 大腸発酵由来H2による生体内酸化ストレス軽減
6 腸内細菌叢による大腸発酵由来H2量の制御
7 最後に
第3章 ヒト嗅覚受容体センサを用いた全ての匂いをデジタルデータ化する匂い情報DXの実現
1 はじめに
2 ヒト嗅覚受容体センサのための技術的背景
3 ヒト嗅覚受容体センサの開発へ
4 ヒト嗅覚受容体センサ技術の匂い情報DXへの展開
5 今後のヒト嗅覚受容体センサ
6 次世代のヒト嗅覚受容体センサ候補
7 おわりに
第4章 生体ガス計測によるデジタルヘルスケア
1 はじめに
2 生体ガス検知技術とヘルスケア応用に必要な濃度レベル
3 生体ガス計測用の検知器
4 デジタル技術と融合したマルチガスセンサ
5 社会実装に向けたデジタル化の課題:感染症の危機管理の応用例から
6 おわりに
第5章 酵素修飾特殊構造CNFフィルムセンサによる皮膚(アルコール)ガス計測
1 はじめ
2 計測技術
3 酵素電極反応による信号変換
4 酵素修飾特殊構造CNFフィルムセンサ
5 皮膚(手首)からのアルコールガスのリアルタイム測定
6 おわりに
第6章 生体ガス計測のための酵素を用いた多様なガスセンサ(魚臭症候群:トリメチルアミン,口臭:メチルメルカプタン,腸内細菌生成:メタノール,加齢臭:ノネナール,等)
1 はじめに
2 魚臭成分:トリメチルアミンの代謝酵素によるバイオ式ガスセンシング
3 口臭成分メチルメルカプタンのバイオセンシング
4 アルコール脱水素酵素の逆反応(還元)を用いたアセトアルデヒドガス計測
5 カスケード酵素反応によるメタノールガスの高感度ガス計測
6 加齢臭ノネナールのバイオ蛍光ガスセンシング
7 おわりに
第7章 GC-MS-Oを用いた男性特有の頭皮臭ミドル脂臭の原因成分「ジアセチル」の解明とその抑制技術
1 はじめに
2 体臭の特徴
3 40~50歳代男性の頭皮臭「ミドル脂臭」の原因成分ジアセチルの解析
3.1 男性の頭皮臭の特徴
3.2 頭皮臭の捕集
3.3 頭皮臭の原因物質の解析
3.4 ミドル世代男性のアブラ様頭皮臭に関連する臭気物質「ジアセチル」
3.4.1 頭皮臭の原因成分ジアセチル
3.4.2 ジアセチルの特徴
3.5 ミドル脂臭の原因成分「ジアセチル」の発生メカニズム
3.6 ジアセチルの抑制効果を示すフラボノイド含有植物エキス
4 おわりに
第8章 身体の変化(加齢)による加齢臭・心理の変化(緊張ストレス)によるストレス臭
1 はじめに
2 身体の変化(加齢)による加齢臭と対応
2.1 外因性皮膚ガスとしてのノネナールの検出
2.2 内因性皮膚ガスとしてのノネナールの検出
2.2.1 ガスの採取
2.2.2 ガスの分析方法
2.2.3 サプリメントによる内因性2-ノネナールの減少効果
3 心理の変化(緊張ストレス)によるストレス臭
3.1 ガスの採取
3.2 緊張ストレス時に出てくる特徴成分の同定
3.2.1 分析 特徴的な成分1:ジメチルトリスルフィド(DMTS)
3.2.2 分析 特徴的な成分2:アリルメルカプタン
3.3 緊張ストレス時の特徴成分で気持ちが伝播する
3.4 緊張ストレス臭の対策
4 最後に
第9章 呼気アセトン濃度測定による脂肪燃焼評価の有用性
1 はじめに
2 古くから研究されてきた「脂肪燃焼評価」
3 呼気アセトン濃度分析による脂肪燃焼評価
4 体型・体組成と呼気アセトン濃度の関係
5 呼気アセトンによる脂肪燃焼評価の今後の展望と課題
6 おわりに
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