刊行にあたって
超分子を材料とみなして書かれた書物は多くない。CMC社のこのシリーズには,1998年に緒方先生らが『機能性超分子』(CMCテクニカルライブラリー153 )というタイトルで導電性ポリマーも含めた非常に幅広い観点でまとめたものがある。そもそも超分子と呼ばれるものの範囲は広く,例えば生体系は超分子の大集団で構成されているし,多くの材料はまさに分子間相互作用でその材料たる物性を示している。もはや超分子と一言でくくるにはあまりに膨大な分野・物質群となっている。超分子であることに必須の要件である分子間相互作用という観点で材料を眺めることは非常に重要なことである。分子設計・材料設計の基礎を築く上で有用だからであり,分子間相互作用を科学する超分子科学の重要性がそこにある。
本書では,輪(わ)・筒(つつ)・管(くだ)と,これまであまり取り上げられなかった切り口で,超分子材料を眺めている。こうした閉鎖系の成分を含む材料は,常に三次元的な要素をもっている。一つの材料要素に「うち・そと」があり,場合によっては一つの原子が内と外の両方に顔をのぞかせているため,非常にユニークな特徴を持つことが多い。また,輪や筒の中を貫通するものがあると,それは強い共有結合の力も弱い分子間相互作用の力も必要としないで構成成分を離れないようにすることができる。いわゆる機械的な結合である。このような独特の性質・機能を持つ輪・筒・管を切り口としてまとめることもまた,新しいものの見方,そして新しい材料設計をする上で極めて意義があると考える。
今回本書を計画するに当たって,「みずみずしい研究の成果を豊富に載せたい」との思いから,第一線で実際に活躍中の研究者の方にその基礎から応用までを執筆願った。また,重要な実験方法は実験項として本文中に載せていただいた。興味深い,また役立つ書物になったと自負している。企業研究者,大学研究者の座右の書たらんことを願う。
(高田十志和 本書「はしがき」)より)
著者一覧
須崎裕司 東京工業大学 資源化学研究所 博士後期課程
小坂田耕太郎 東京工業大学 資源化学研究所 教授
木原伸浩 神奈川大学 理学部 化学科 教授
清水敏美 (独)産業技術総合研究所 界面ナノアーキテクトニクス研究センター 研究センター長
浅川真澄 (独)産業技術総合研究所 界面ナノアーキテクトニクス研究センター 主任研究員
古荘義雄 (独)科学技術振興機構 ERATO八島プロジェクト グループリーダー
伊藤耕三 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 基盤科学研究系 教授
由井伸彦 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 教授
圓藤紀代司 大阪市立大学 大学院工学研究科 化学生物系専攻 助教授
原田明 大阪大学 大学院理学研究科 教授
増田光俊 (独)産業技術総合研究所 界面ナノアーキテクトニクス研究センター 主任研究員;(独)科学技術振興機構 CREST
中川勝 東京工業大学 資源化学研究所 助教授
高原淳 九州大学 先導物質化学研究所・大学院工学府 教授
井上望 九州大学 大学院工学府 修士2年
英謙二 信州大学 大学院総合工学系研究科 教授
中嶋直敏 九州大学 大学院工学研究院 教授
佐野正人 山形大学 工学部 助教授
竹延大志 東北大学 金属材料研究所 低温電子物性学研究部門 助手
岩佐義宏 東北大学 金属材料研究所 低温電子物性学研究部門 教授
世古和幸 名古屋大学 大学院工学研究科 量子工学専攻 産学官連携研究員
齋藤弥八 名古屋大学 大学院工学研究科 量子工学専攻 教授
執筆者の所属表記は、2006年当時のものを使用しております。
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1. はじめに
2. 環・筒・管
3. 環・筒・管の特性を活かした超分子材料
<基礎編>
第2章 ロタキサン、カテナン
1. はじめに
2. ロタキサンの合成
3. カテナンの合成
4. ロタキサン,カテナンの機能
5. おわりに
6. 実験項
第3章 ポリロタキサン、ポリカテナン
1. はじめに
2. 共有結合型ポリロタキサン
2.1 シクロデキストリンを輪コンポーネントとするポリロタキサン
2.2 ククルビットウリルを輪コンポーネントとするポリロタキサン
2.3 クラウンエーテルを輪コンポーネントとするポリロタキサン
2.4 ビピリジニウム塩と電子密度の高い芳香環との相互作用を利用するポリロタキサン
3. 空間結合型ポリロタキサン
4. ポリカテナン
4.1 ポリ[2]カテナン
4.2 ポリ[n]カテナン
第4章 有機ナノチューブ
1. はじめに
2. 孤立した有機ナノチューブ構造の分類
2.1 剛直ならせん状分子
2.2 環状分子
2.3 ロゼット型分子
2.4 両親媒性分子
3. 両親媒性分子の自己集合様式
4. 脂質ナノチューブにおける内径,外径,長さ,形態制御
4.1 内径制御
4.2 外径制御
4.3 長さ制御
4.4 形態制御
5. 脂質ナノチューブの中空シリンダーの特性と機能
5.1 束縛水の極性と構造
5.2 10~50nmスケールのゲスト物質包接機能
6. 脂質ナノチューブ1本の機械的物性とマニピュレーション
7. 分子集合を起点とした金属酸化物ナノチューブやハイブリッドナノチューブの創製
8. 将来展望
<応用編>
I. (ポリ)ロタキサン、(ポリ)カテナン
第5章 分子素子・分子モーター
1.はじめに
2. 電気化学的に可逆的にスイッチするカテナン分子素子
3. 化学的酸化還元によって駆動するリニア分子モーター
4. 溶媒蒸気によるロタキサンの動きを利用したパターニング
5. 光によって駆動するロタキサンを利用した液滴輸送
6. まとめ
第6章 可逆的架橋ポリロタキサン
1. はじめに
1.1 可逆的な架橋/脱架橋プロセスによるポリマーのリサイクル
1.2 ポリロタキサンネットワーク
1.3 動的共有結合の化学
1.4 ジスルフィド結合の可逆的性質を利用したロタキサン合成
2. 可逆的架橋ポリロタキサン
2.1 ジスルフィド結合を持つポリロタキサンネットワークの合成
2.2 架橋率のゲル物性に及ぼす影響
2.3 ポリロタキサンエラストマーの合成
2.4 ポリロタキサンネットワークのリサイクリング
3. おわりに
4. 代表的実験例
第7章 ポリロタキサンゲル
1. はじめに
2. 環動ゲルの作成法
3. 応力-伸長特性
4. 小角中性子散乱パターン
5. 準弾性光散乱
6. 環動ゲルの応用
第8章 ポリロタキサンによる先端医療への挑戦
1. はじめに
2. ポリロタキサンによる生体との多価相互作用の亢進
3. ポリロタキサンによる遺伝子送達
4. おわりに
第9章 ゴム状ポリカテナン
1. はじめに
2. 環状ジスルフィドの重合
3. 環状ジスルフィドポリマーの諸性質
3.1 熱的性質
3.2 動的粘弾性
3.3 ポリマーの光分解
4. 形状記憶特性
5. おわりに
II. ナノチューブ
第10章 シクロデキストリンナノチューブ
1. はじめに
2. 分子チューブの設計
3. シクロデキストリン分子チューブの設計と合成
4. 分子チューブの性質
5. 疎水性チューブの合成
6. 超分子ポリマーの形成
7. まとめ
第11章 脂質ナノチューブのサイズ制御と内・外表面の非対称化
1. はじめに-ナノチューブのサイズ・表面制御の重要性-
2. 従来の脂質ナノチューブのサイズ制御とその問題点
3. くさび型の非対称双頭型脂質が形成するマイクロ・ナノチューブ
4. マイクロ・ナノチューブ中での分子配列
5. ナノチューブの内径制御
6. 選択的なカプセル化を目指した内表面制御とナノ微粒子,タンパクの包接
7. ナノチューブの選択的な合成
8. おわりに
第12章 磁性金属ナノチューブ
1. はじめに
2. 繊維状分子集合体の形態制御
3. 繊維状分子集合体の形成機構
4. 無電解めっきの鋳型機能
5. Ni-P中空マイクロ繊維の物性
6. おわりに
第13章 イモゴライトナノチューブ
1. はじめに
2. イモゴライトの構造と性質
3. イモゴライトを用いたポリマーハイブリッド
4. イモゴライトを用いたハイブリッドゲル
第14章 ゾル・ゲル重合法による金属酸化物ナノチューブ
1. はじめに
2. ゲル化剤
3. ゾル・ゲル重合による金属酸化物の作製
3.1 シリカナノチューブ
3.2 チタニア,酸化タンタル,酸化バナジウムのナノチューブ
3.3 チタニアへリックスナノチューブ
3.4 L-バリン誘導体によるチタニア,酸化タンタルナノチューブ
4. おわりに
III. カーボンナノチューブ
第15章 可溶性カーボンナノチューブ
1. カーボンナノチューブの可溶化の重要性
2. カーボンナノチューブの構造・基本特性
3. カーボンナノチューブの合成・精製法
4. カーボンナノチューブの可溶化と機能化
4.1 共有結合による可溶化
4.2 サイドウオールへの物理吸着(非化学結合)による可溶化(あるいはコロイド分散)
4.2.1 界面活性剤ミセルによる可溶化・機能化
4.2.2 多核芳香族化合物による可溶化と機能化
5. ポリマー・SWNTナノコンポジット
6. DNAおよびRNAとCNTのナノコンポジット
7. SWNTのキラリティ分離
8. ナノチューブ複合による液晶,ゲル形成
9. ナノチューブラセン状超構造体
10. まとめと将来展望
第16章 カーボンナノチューブのバイオ応用
1. はじめに
2. CNTの化学構造と特性
3. CNTの水への分散化と安定性
4. バイオ分子によるCNTの表面修飾
4.1 糖質
4.2 核酸
4.3 タンパク質
5. バイオセンサーへの応用
5.1 電気化学センサー
5.2 FETセンサー
6. 化学修飾CNTの細胞レベルでの応用
7. おわりに
第17章 有機分子を内包したナノチューブ
1. はじめに
2. 内包ナノチューブ
3. 有機分子内包ナノチューブの合成
4. 構 造
5. 電子状態
5.1 ナノチューブの光吸収スペクトル
5.2 有機内包ナノチューブの光吸収スペクトル
6. キャリア数制御
7. まとめ
第18章 カーボンナノチューブ電子源
1. 電界放出とカーボンナノチューブの特長
2. 電界放出顕微鏡法によるCNTエミッタの特性評価
2.1 先端の閉じたCNTの電界放出パターン
2.2 電子線干渉縞
2.3 単一の五員環からの電界放出電子のエネルギー分布
2.4 単一の五員環から放出された電子線の輝度
3. 透過電子顕微鏡による動的観察
3.1 電界印加中のCNTの挙動
3.2 電界印加中のCNTの挙動パターン
3.3 電界放出中の二層CNT束の挙動
3.4 各種CNTの電界放出の電流-電圧特性
4. CNTの構造と残留ガスの影響
5. CNTエミッタの電子放出均一性
6. ディスプレイへの応用
6.1 CNT陰極の作製
6.2 ランプ型デバイス
6.3 フラットパネル型デバイス
7. X線源への応用
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